
大豆では、開花してから莢が伸び、子実が肥大していく時期に収量を構成する要素が大きく動きます。
この時期に乾燥が強まると、落花・落莢が増えたり、着莢率や粒の肥大に影響したりすることがあります。一方で、生育が弱いからといって窒素を追加すれば必ず改善するわけでもありません。
開花・着莢期の管理では、「追肥するか」「灌水するか」を別々に考えるのではなく、土壌水分、根粒、生育量、葉色、これまでの施肥を合わせて見ることが重要です。
この記事では、大豆の開花・着莢期に確認したいポイントと、追肥・灌水・栄養管理をどう判断するかを解説します。
開花・着莢期は収量形成にとって重要な時期
大豆は開花した花がすべて莢になるわけではありません。
開花後は、花が莢として残るか、莢の中で子実が十分に肥大するかによって、最終的な莢数や粒重が変わります。
特に開花期以降の高温・少雨による水ストレスは、落花・落莢、着莢率の低下、不稔莢の増加、粒重の低下につながることがあります。
一方で、開花・着莢期の生育は、それまでの苗立ち、根の発達、排水、根粒形成、施肥などの影響も受けています。
そのため、この時期だけを見て「肥料不足」「水不足」と決めるのではなく、それまでの圃場状態を含めて判断します。
開花から着莢・子実肥大までを一続きで見る
大豆の開花期は、花が咲いた時点だけでなく、その後の着莢、莢伸長、子実肥大までを一続きで見ます。開花後にどれだけ莢が残り、子実肥大まで進めるかは、水分条件や高温、根の状態、窒素供給などの影響を受けます。
開花後に莢が確保できても、その後の水分不足や根の機能低下で子実肥大が進まなければ、百粒重や収量に影響します。反対に、開花期の生育量だけを見て追肥を増やしても、着莢や子実肥大を制限している要因が水分や根圏にあれば狙った反応は得にくくなります。
そのため、開花期は「追肥する時期」ではなく、着莢から子実肥大へ向けて水分・窒素供給・根の状態を見直す起点として位置づけます。

開花・着莢期に確認したい4つのポイント
追肥や灌水を決める前に、次の4点を確認すると整理しやすくなります。
- 土壌が乾きすぎていないか
- 生育量や葉色はどうか
- 根と根粒が機能できる状態か
- これまでにどの程度の窒素が供給されているか
土壌が乾きすぎていないか
開花期以降は、乾燥による影響に注意したい時期です。
降雨が少なく、土壌の乾燥が進んでいる場合は、花や莢、子実の形成を維持するために灌水を検討します。
ただし、灌水の必要性や適期は、土壌の保水性、排水性、地域、品種、気象条件によって変わります。
生育量や葉色はどうか
生育量が不足している、葉色が薄いといった状態は、窒素供給を確認するきっかけになります。
ただし、葉色が薄いからといって原因が肥料不足とは限りません。
乾燥や過湿で根が十分に働いていない場合や、根粒形成が不十分な場合でも、生育が弱く見えることがあります。
根と根粒が機能できる状態か
大豆では、根粒菌による窒素固定が開花期以降の窒素供給にも関係します。
根粒が少ない、根が傷んでいる、圃場が過湿・乾燥に偏っている場合は、追肥だけでなく根圏環境も確認します。
これまでにどの程度の窒素が供給されているか
追肥を考えるときは、基肥だけでなく、土壌の地力、前作、有機物、根粒からの窒素供給まで含めて見ます。
すでに窒素供給が十分な圃場では、追加の窒素追肥による効果が小さい場合があります。
逆に、生育量が不足し、地力や根粒からの窒素供給も十分でない場合は、地域の栽培基準に沿って追肥を検討します。
大豆の元肥・追肥を含む施肥設計全体については、こちらの記事で詳しく解説しています。
落花・落莢が増えるときは水分・高温・根の状態を切り分ける
大豆は開花した花のすべてが莢になるわけではなく、一定の落花・落莢は生育の中で起こります。ただし、開花期から着莢期に乾燥や高温が重なり水ストレスが強まると、結莢率の低下や不稔莢、粒重低下につながることがあります。
落花・落莢が目立つ場合は、まず土壌水分と根の状態を確認し、過湿による根傷みなのか、干ばつによる水分不足なのかを切り分けます。そのうえで葉色や生育量、根粒、害虫被害の有無も見ます。大豆の落花・落莢をすぐ肥料不足とみなし、追肥だけで補おうとしないことが重要です。
大豆の開花期の追肥は「時期」だけで決めない
大豆では、開花期から莢形成期にかけて乾物生産と養分吸収が続きます。
そのため、地域や栽培体系によっては開花期前後に窒素追肥を行う場合があります。研究でも、開花期以降の窒素追肥によって粒重が増加した例があります。
一方で、その効果は地力窒素の供給、生育量、品種、土壌などによって変わります。
追肥を検討するときは、次の順で考えます。
1.地域の栽培・施肥基準に追肥が位置づけられているか
2.現在の生育量や葉色に不足傾向があるか
3.根粒や根の状態に問題がないか
4.過湿や乾燥など、肥料以外の制限要因がないか
5.これまでの施肥や有機物からの窒素供給が多すぎないか
「開花したから追肥する」のではなく、開花期を一つの確認タイミングとして、生育と窒素供給を見直すと考える方が適切です。
ただし、過湿で根が傷んでいる場合や、乾燥で吸水が制限されている場合は、追肥より水管理を優先します。根粒形成が不十分でも、原因が過湿や窒素過多なら、窒素を追加するだけでは改善しません。湿害が疑われる場合は、排水状況と根の状態を先に確認します。
開花・着莢期は乾燥に注意して灌水を判断する

開花期以降の水分管理は、追肥と同じくらい重要です。
農林水産省でも、開花期以降に干ばつが生じると、落花・落莢が増え、着莢率の低下や不稔莢、粒重低下につながるため、状況に応じた灌水が必要とされています。
農研機構の試験でも、干ばつ条件下で莢伸長期や粒肥大期に灌水することで、稔実莢数や百粒重、子実重が増えた例があります。
ただし、ここから「開花後○日で必ず灌水する」という全国共通の基準を作ることはできません。
灌水適期は、地域、品種、土壌の保水性、根の深さ、その年の気象によって変わります。
高温・少雨が重なるときは「高温障害」と「干ばつ」を一緒に見る
大豆の開花期から子実肥大期は、高温と少雨が同時に起こると水ストレスが強まりやすい時期です。高温障害を疑う場合も、気温だけを見るのではなく、土壌が乾いていないか、葉のしおれや生育停滞がないか、根が吸水できる状態かを確認します。
高温・乾燥ストレスへの対応では、灌水などの水管理を基本としたうえで、補助資材を組み合わせる考え方もあります。アグリスイッチでは、大豆・枝豆の花芽形成〜開花初期での利用が案内されている「リーフエナジー」を取り扱っています。水分不足そのものを資材で置き換えるものではなく、水管理と併せて検討します。
灌水前に排水できる圃場か確認する
大豆は乾燥だけでなく過湿にも弱い作物です。
水田転換畑などでは、灌水した水が長時間残ると根域の酸素不足につながる可能性があります。
そのため、畦間灌水などを検討するときも、
- 排水口が機能しているか
- 明渠などで余分な水を排出できるか
- 圃場内に滞水しやすい場所がないか
を確認します。
「乾いているから水を入れる」だけではなく、「入れた水を必要以上に残さない」ことまで含めて水管理です。
開花期から子実肥大期まで水分状態を見る
開花時だけ灌水すれば、その後の水管理が不要になるわけではありません。
開花後には莢が伸び、さらに子実が肥大していきます。この期間の乾燥も、莢数や粒重、莢先熟などに影響することがあります。
近年の研究でも、収量の安定化に重要な水分管理時期は地域や品種によって異なることが示されています。
そのため、開花日だけを基準にするのではなく、着莢から子実肥大まで圃場の水分状態を継続して確認します。
栄養管理は窒素だけで考えない
開花・着莢期の栄養管理では窒素追肥が注目されやすいですが、圃場の養分状態は窒素だけで決まりません。
リン酸やカリなどが不足している圃場では、それらも生育を制限する可能性があります。一方、土壌中に十分蓄積している場合は追加する必要性が低くなります。
不足している成分が明確な場合は、その成分を補う資材を選びます。アグリスイッチでは、開花初期のマメ類での使用が案内されているマグネシウム資材「ミラクルマグ」を取り扱っています。使用の前提は、土壌診断や生育状態から補う目的を明確にすることです。
開花期になってから不足成分を推測して肥料を追加するより、播種前の土壌診断を基準に施肥設計を作り、開花期には生育状態と窒素供給を確認するという役割分担が基本です。
液肥や葉面散布を使う場合も、「開花期だから使う」のではなく、補いたい成分、施用目的、製品の登録・使用方法を確認して利用します。
水分不足が原因なら、肥料で水不足を補うことはできません。
開花期以降の乾燥は莢先熟・青立ちにもつながる
開花期から子実肥大期にかけての強い乾燥は、収量だけでなく成熟時の状態にも影響します。
研究では、莢伸長期から粒肥大始期の土壌乾燥によって莢先熟が増える例が確認されています。
そのため、開花・着莢期の水管理は、その時点の落花・落莢を防ぐだけでなく、成熟・収穫期の品質や作業性につながる管理でもあります。
青立ちや莢先熟には水分以外の要因も関係するため、発生原因と対策については別記事で詳しく扱います。
まとめ|開花・着莢期は追肥と灌水を別々に考えない
大豆の開花・着莢期は、花から莢、子実へと収量が形成されていく重要な時期です。
この時期の管理では、「開花したから追肥」「晴天が続いたから灌水」と暦だけで決めるのではなく、土壌水分、生育量、葉色、根、根粒、これまでの施肥を合わせて確認します。
乾燥が生育を制限しているなら水管理を優先し、過湿なら排水を優先します。そのうえで、地力や根粒からの窒素供給が十分かを見て、地域の施肥基準に沿って追肥の必要性を判断します。
開花・着莢期の管理で大切なのは、肥料か水かを先に決めることではありません。
今の大豆で何が生育を制限しているのかを見極め、その原因に合った管理を選ぶようにしましょう。
監修者
人見 翔太 Hitomi Shota

滋賀大学教育学部環境教育課程で、環境に配慮した栽培学等を学んだ後、東京消防庁へ入庁。その後、株式会社リクルートライフスタイルで広告営業、肥料販売小売店で肥料、米穀の販売に従事。これまで1,000回以上の肥料設計の経験を活かし、滋賀県の「しがの農業経営支援アドバイザー」として各地での講師活動を行う。現在は株式会社リンクにて営農事業を統括している。生産現場に密着した、時代にあった実践的なノウハウを提供致します。









