
小麦の追肥は、「春になったら何kg施す」と暦だけで決めると、その年の生育に合わないことがあります。播種時期や越冬条件、春先の気温によって分げつや幼穂形成の進み方が変わるためです。
追肥を考えるときは、まず小麦がどの生育ステージにあり、茎数や葉色が不足しているのか、すでに十分なのかを確認します。そのうえで、穂数を確保したいのか、穂・粒の形成を支えたいのか、後期の粒重やタンパク質を整えたいのかによって、追肥の目的と時期を変えます。
この記事では、越冬後から分げつ、幼穂形成、出穂までの流れに沿って、小麦の追肥時期と追肥量、肥料の選び方を整理します。
生育の進みに合わせて追肥の目的を変える
小麦の追肥は、生育ステージによって狙いが変わります。追肥前には、現在の生育ステージ、茎数、葉色・草勢、これまでの窒素施用量を確認し、地域の施肥基準を実際の生育に合わせて調整します。地域によって「起生期追肥」「穂肥」「実肥」などの呼び方がありますが、名称よりも、その時点で何を形成しているかを基準に考えると整理しやすくなります。
越冬後から分げつ期は有効茎を確保する
秋まき小麦では、越冬後に生育が再開したら、残っている茎数と春の分げつを確認します。
茎数が不足し、生育も弱い圃場では追肥で生育を支える余地があります。一方、すでに茎数が多い圃場へ早い時期から窒素を効かせすぎると、不要な分げつや茎葉の生育を促し、過繁茂や倒伏につながる場合があります。
分げつ数を増やすこと自体を目的にせず、最終的に穂につながる有効茎をどの程度確保できそうかを見ることが大切です。
幼穂形成期は幼穂を見て穂肥を判断する
幼穂形成が始まると、追肥の目的は分げつの確保から、穂や粒の形成を支えることへ移ります。
草丈だけでは生育段階を判断しにくい場合があるため、圃場の平均的な株から代表的な茎を取り、葉鞘を外す、または茎を縦に切るなどして茎基部の幼穂を確認します。幼穂長と生育ステージの対応は、品種や地域の技術指針で確認します。

ただし、幼穂形成を確認しただけで追肥を決めるのではありません。茎数、葉色、これまでの窒素施用量、倒伏リスクを合わせて見て、地域の施肥基準に沿って穂肥を判断します。
幼穂形成期以降に窒素以外の栄養補給も検討する場合、アグリスイッチでは麦類向けとして、リン酸を主体とする「ルートプロ」、マグネシウム資材の「ミラクルマグ」、リン酸・カリや微量要素などを含む「ミラクルナイン」を取り扱っています。いずれも商品ページでは麦類の幼穂形成期以降を使用時期としており、穂付きや粒径の充実を使用目的に掲げています。通常の穂肥・実肥を一律に置き換えるものではなく、圃場で補いたい成分と通常施肥との重複を確認して選びます。
出穂期以降は粒重と品質を意識する
出穂期から登熟期に近づくと、追肥の目的は穂数の確保から、粒の充実や子実タンパク質などの品質へ移ります。
この後期追肥を「実肥」と呼ぶ地域・栽培体系があります。パン用などタンパク質を確保したい品種では後期窒素が重要になる場合がありますが、日本麺用などでは求める品質水準が異なります。
実肥は「最後に窒素を足せばよい」という作業ではなく、ここまでの生育と用途・品種を踏まえて仕上げる追肥です。
追肥時期がずれると狙った生育に効きにくい
同じ窒素量でも、施す時期がずれると狙っている生育段階に合わなくなります。
まだ茎数が多い段階で追肥を急ぐと、不要な分げつや茎葉の生育を促す場合があります。反対に、幼穂形成期の追肥が遅れれば、穂や粒の形成を支えたい時期と窒素供給がずれる可能性があります。
また、出穂後の実肥は、前半の穂数確保と同じ目的ではありません。追肥の時期を決めるときは、「今の小麦に窒素を効かせて何を作りたいのか」を明確にします。
追肥量は生育と施肥履歴に合わせて調整する

追肥量は、地域・品種ごとの施肥基準を起点に、現在の生育とこれまでの窒素投入量を重ねて考えます。
茎数が多く葉色も濃い圃場へ、暦だけを理由に基準量をそのまま重ねると、倒伏や過繁茂側へ振れる可能性があります。反対に、茎数が不足し葉色も落ちている場合は、追肥で生育を支える余地があります。
追肥量を決めるときは、①生育ステージ、②茎数・葉色・草勢、③元肥や前回追肥の窒素成分量、④前作や有機物からの窒素供給、の順に確認すると整理しやすくなります。
品種ごとの施肥基準も確認する
「きたほなみ」や「ゆめちから」のように、品種によって目標とする生育や後期窒素への反応は異なります。
品種名で追肥情報を調べる場合は、全国共通の窒素量を当てはめるのではなく、その品種の栽培マニュアルや地域の最新営農情報を優先します。同じ品種でも地帯、土壌、前作、生育量によって調整が必要です。
追肥用の肥料は窒素成分量で比較する
追肥には硫安や尿素などの窒素肥料が使われますが、現物重量だけで比較しないことが重要です。
尿素は窒素濃度が高く、同じ窒素成分量を施す場合の現物量を少なくしやすい肥料です。硫安は窒素に加えて硫黄を含みますが、継続施用では土壌を酸性側へ動かす性質があるため、土壌pHや石灰資材の施用履歴も確認します。
たとえば、窒素46%の尿素と窒素21%程度の硫安では、同じ窒素成分量を施すための現物量が異なります。実際に使用する製品の保証成分を確認し、必要な窒素成分量から現物量へ換算します。
肥料を選ぶときは、速効性を重視するのか、硫黄供給も必要なのか、散布作業やコストをどうするかまで含めて判断します。
追肥しても生育が戻らないときは根や排水を確認する

追肥後も葉色や生育が改善しない場合は、追加で窒素を重ねる前に、根が養分を吸収できる状態かを確認します。
排水不良で根の機能が低下している、土壌pHが適正でない、深播きで根量が少ない、病害で生育が落ちている、といった場合は、肥料成分が土壌にあっても十分に吸収できないことがあります。
追肥の効きが悪いと感じたときは、施肥量だけでなく、根・排水、土壌pH、病害、生育ステージのズレを確認し、肥料不足なのか吸収不良なのかを見分けます。
まとめ|追肥は生育と目的を合わせて行う
小麦の追肥は、「時期が来たから一律に施す」のではなく、生育ステージごとの役割を理解し、実際の圃場の状態を観察して判断することが重要です。
最後に今回の内容を振り返ります。
- 生育ステージごとに変わる「追肥の役割」
- 越冬後~分げつ期: 最終的に穂となる「有効茎」を確保する。(過繁茂や倒伏を招かないよう、現在の茎数を確認する)
- 幼穂形成期(穂肥): 茎の基部にある幼穂を確認し、これから育つ穂や粒の形成をしっかり支える。
- 出穂期以降(実肥): 粒重の充実やタンパク質含有量の向上など、品種の用途(パン用・麺用など)に合わせた品質の仕上げを行う。
- 追肥の効果を最大限に引き出すポイント
- タイミングと量の最適化: 茎数や葉色、これまでの施肥履歴、地域の品種ごとの基準を総合的に見て、必要な窒素成分量を過不足なく施す。
- 圃場環境(根と排水)の確認: 追肥をしても葉色や生育が戻らない場合は、湿害などによる根の傷みや排水不良を疑い、土壌環境の改善もセットで考える。
小麦の追肥は「今の小麦に窒素を効かせて、何を作りたいのか」を明確にすることが成功の鍵です。こまめに圃場へ足を運んで小麦のサインを読み取り、無駄のない効果的な施肥管理で高品質な収穫を目指しましょう。
監修者
人見 翔太 Hitomi Shota

滋賀大学教育学部環境教育課程で、環境に配慮した栽培学等を学んだ後、東京消防庁へ入庁。その後、株式会社リクルートライフスタイルで広告営業、肥料販売小売店で肥料、米穀の販売に従事。これまで1,000回以上の肥料設計の経験を活かし、滋賀県の「しがの農業経営支援アドバイザー」として各地での講師活動を行う。現在は株式会社リンクにて営農事業を統括している。生産現場に密着した、時代にあった実践的なノウハウを提供致します。









