
水稲の育苗中、苗箱から苗を持ち上げたときに床土が崩れたり、苗が一枚のマット状につながらなかったりすると、このまま田植えをしてよいのか判断に迷います。
ただし、苗箱の下から見える根が少ないだけで、根張りが悪いとは限りません。反対に、箱の下から長い根が出ていても、床土の中で根が十分に発達していなければ、苗マットは崩れます。
根張りが悪いと感じたときは、苗マットのまとまり、根の色や伸び方、箱の下へ出た根、苗の黄化や萎れを順に確認します。
この記事では、水稲苗の根張りを判断する方法と、苗マットが形成されにくくなる原因、田植え前にできる対処を解説します。あわせて、過湿による根域環境の悪化が疑われる場合に検討できる酸素供給資材についても紹介します。
水稲の根張りが悪いと感じたら、まず苗マットの状態を確認しよう
水稲苗の根張りは、箱の下に出ている根の長さだけでは判断できません。
見たいのは、根が床土の中で発達し、苗と床土を一体として保持できているかどうかです。根の色や苗の地上部も含め、苗全体の状態を確認します。
| 確認した状態 | 考えられる状況 |
| 持ち上げても床土が大きく崩れない | 苗マットが形成されている |
| 床土が割れ、苗がばらばらになる | 根の発育不足や床土の不適合が疑われる |
| 根が白色から淡い色で、太さや伸びがある | 根の活力が保たれている |
| 箱の下には根が多いが、床土は崩れる | 箱内より置床側へ根が伸びている可能性がある |
| 根の褐変やカビ、苗の黄化・萎れがある | ムレ苗や立枯病などの障害が疑われる |
一つの状態だけで決めつけず、苗マットの保持力、根の状態、苗の草丈や葉色を合わせて判断します。
持ち上げたときに床土が崩れないか確認する

苗箱の端をゆっくり持ち上げ、苗と床土が一体になって持ち上がるかを見ます。
多少ひびが入るだけであれば、直ちに問題があるとは限りません。床土が大きく割れたり、苗がばらばらになったりする場合は、床土の中で根が十分に発達していない可能性があります。
苗マットが形成されていない苗は、苗箱から取り出したときに崩れやすく、機械移植にも支障が出やすくなります。
ただし、状態を確かめるために何度も持ち上げると、形成途中の根を傷めます。確認は苗箱の一部にとどめ、必要以上に動かさないようにします。
根が白く、活力を保っているか確認する
苗マットが崩れる場合は、根の量だけでなく、色や太さ、伸び方も見ます。
順調に育った苗では、白色から淡い色の根が複数伸びています。草丈だけで判断せず、地上部の生育に見合った根が形成されているかを確認します。
根が少ない、細い、伸びが止まっているといった状態では、育苗日数だけでなく、水分、温度、床土、施肥など、複数の条件を振り返る必要があります。
箱の下に根が出ているだけではないか確認する
苗箱の底穴から長い根が出ていると、根張りがよいように見えます。
しかし、箱の下へ伸びた根が多くても、床土の中で苗マットが形成されているとは限りません。置床側に水分が多いと、根が底穴を通って外へ伸びることがあります。
箱の下に長い根が集中し、苗箱が置床へ張り付いている場合は、根が苗箱内より置床側へ伸びている可能性があります。持ち上げたときに箱下の根が多数切れ、床土まで崩れるようであれば、見えている根の量だけで根張りがよいとは判断できません。
育苗管理では、箱の下へ根を出させることが、必ずしも望ましいとは限りません。底穴を排水口として機能させ、苗箱内で苗マットを形成することが基本です。
根の変色やカビ、苗の黄化がないか確認する
床土が崩れる場合は、病害や生理障害が起きていないかも確認します。
次のような症状が見られる場合は、単に育苗日数が足りないのではなく、ムレ苗や立枯病などが疑われます。
- 根や地際部が褐色に変色している
- 地際部が細くくびれている
- 苗箱の一部がまとまって黄化・萎凋している
- 床土や苗の周囲に白色、灰色、淡紅色などのカビが見える
- 晴天時に苗が萎れ、その後も回復しない
- 葉先から枯れ込みが進んでいる
ムレ苗は生理障害であり、根や地際部にカビが発生する病害とは分けて考えます。立枯病は、原因となる病原菌によって症状やカビの色、発生しやすい温度が異なります。
病害が疑われる場合、育苗期間を延ばしたり、肥料や資材を追加したりするだけでは改善しません。周囲の苗箱への広がりにも注意し、地域のJAや普及指導機関などへ相談します。
箱の下に根が出ていても「根張りがよい」とは限らない

水稲苗に必要なのは、単に長い根が伸びていることではありません。田植えまで苗を扱えるよう、苗箱の中で根が発達し、苗と床土が一体になっていることが求められます。
苗マットは保持力と根の状態を合わせて判断する
箱の下から長い根が出ていても、苗箱内の根が十分に発達していなければ、床土は崩れます。反対に、箱下の根が目立たなくても、苗箱内で根が発達していれば苗マットはまとまります。
そのため、箱下の根の長さではなく、苗マットの保持力と根の状態を合わせて判断します。
苗マットの形成は、床土の通気性や水分、施肥量、育苗期間などの影響を受けます。床土の通気性が悪いと根の発育が妨げられ、苗マットの形成不良につながることがあります。
箱下への根の伸長は置床の条件でも起こる
苗箱の下へ根が伸びる背景には、置床の水分や苗箱の置き方があります。
置床に水分が多く、苗箱の底面が湿った土や床面へ密着していると、根が底穴を通って外へ伸びやすくなります。育苗床に凹凸があり、一部に水がたまっている場合も同様です。
すでに根が置床まで伸びている苗箱を急に動かすと、根を一度に切ることがあります。現在の苗は慎重に扱い、次回の育苗に向けて、置床の排水や均平、苗箱の置き方を見直します。
草丈だけ伸びた徒長苗では根張りが弱いことがある
地上部の生育が早くても、根の発達まで進んでいるとは限りません。
高温や日照不足、過密、窒素過多などが重なると、草丈は伸びていても茎が細く、根張りの弱い軟弱な苗になることがあります。
草丈の割に茎が細く、葉が垂れて苗同士がもたれ合っている場合は、徒長が疑われます。葉色が濃く軟らかい一方で、苗マットが弱いこともあります。
このような状態で生育を急がせようと肥料を追加すると、地上部の伸長をさらに促す可能性があります。まずは温度、光、かん水、播種密度を振り返ります。
水稲の苗マットで根張りが悪くなる主な原因
苗マットの根張りが悪くなる原因は、一つとは限りません。
育苗日数、温度、水分、床土、播種量、施肥、病害など、複数の条件が重なっていることがあります。現在の症状と、播種からこれまでの管理を照らし合わせて原因を絞り込みます。
育苗日数や温度条件が足りていない
播種から田植えまでの期間が短いと、根が十分に発達する前に田植え時期を迎えることがあります。
日数を確保していても、低温が続けば生育は遅れます。同じ育苗日数でも、期間中の温度条件によって苗の生育段階は変わるためです。
カレンダー上の日数だけで決めず、葉齢や草丈、根の伸び、苗マットの保持力、葉色を合わせて判断します。
一方、育苗期間を延ばしすぎると、苗の老化や生育停滞につながります。目標とする苗の種類や地域の移植適期に合わせた判断が必要です。
床土が過湿または乾燥している
根の生育には水分が必要ですが、床土が常に水で満たされている状態も適切ではありません。
過湿になると床土の空気が少なくなり、根の伸長や活力が低下しやすくなります。特に低温が重なると、根張り不良や根腐れが起こりやすくなります。
反対に、乾燥が進みすぎると葉が萎れ、根の働きも低下します。短時間の萎れであればかん水後に回復することがありますが、乾燥が長く続くと生育が停滞します。
床土が乾く前に毎回かん水していた場合や、苗箱の下や置床に水がたまっていた場合は、過湿が続いていた可能性があります。一方、苗箱の端だけが乾く、育苗床の高低差によって水分むらが生じるといった状態も、根の発育を不均一にします。
低温・高温・日照不足で苗の生育バランスが崩れている
低温が続くと、生育や発根が遅れ、苗マットが形成されるまでに時間がかかります。
反対に、高温では地上部の生育が先行し、軟弱徒長苗になりやすくなります。日照不足や過密が重なると、葉が垂れ、茎の細い苗になりやすくなります。
育苗中は外気温だけでなく、苗の周辺温度も確認します。晴天時の育苗ハウスは、外気温が低くても短時間で高温になることがあるためです。
緑化期や硬化期など、育苗段階によって求められる温度管理は異なります。地域の栽培暦やJA、普及指導機関が示す基準を優先してください。
播種量や床土の量・性状が育苗方式に合っていない
播種量が多くなるほど、苗同士の競合が強くなります。
過密な苗は、個体当たりの乾物重が少なくなり、葉が細く、軟弱になりやすい傾向があります。育苗期間が長くなるほど、過密による苗質低下も表れやすくなります。
必要な播種量は、稚苗、中苗、高密度播種苗などの育苗方式によって異なります。特定の量だけを基準にせず、目標とする苗と使用する田植機に合わせます。
床土の厚さにむらがあったり、強く押し固められていたりすると、箱内の通気性や水分状態に差が生じます。粗大な粒や異物が多い床土、pHや肥料設計が育苗方式に合わない床土でも、根の伸長や苗マットの形成が不安定になることがあります。
通気性が悪い床土では根の発育が妨げられます。一方、保水性が低すぎると、かん水しても短時間で水分不足になりやすくなります。
肥料過多で床土の濃度が高くなっている
床土に肥料を入れすぎると、土壌溶液の濃度が高まり、根の伸長が抑えられることがあります。
肥料不足だけを疑って追肥すると、かえって根張りを悪化させる可能性があります。床土にもともと含まれる肥料量と、元肥や追肥の量、施用時期を合わせて確認することが必要です。
床土が乾燥すると、土壌溶液の濃度は高まりやすくなります。施肥量だけでなく、水分管理も含めて振り返ります。
置床の水分や苗箱の置き方で根が箱外へ伸びている
置床に水分が多いと、根が苗箱の底穴から外へ伸びやすくなります。
育苗床に凹凸があれば、水がたまる場所と乾燥する場所ができ、苗箱ごとの根張りにも差が出ます。
根が箱外へ伸びていること自体が、直ちに生育不良を意味するわけではありません。ただし、苗箱を移動したときに根が切れれば、根の活力や苗マットの状態に影響します。
苗箱内の根張りが弱く、箱下の根ばかりが多い場合は、置床の排水や均平、苗箱の置き方を見直します。
ムレ苗や立枯病などで根が傷んでいる
ムレ苗や立枯病が発生すると、根の活力が低下し、苗マットが形成されにくくなります。
ムレ苗では、低温と高温の急な変化、過湿、根の吸水力低下などが重なり、晴天時に萎れたり、葉先から枯れたりすることがあります。
立枯病では、原因となる病原菌によって、根や地際部の褐変、地際部のくびれ、苗箱の一部にまとまった枯死、カビ、出芽や生育の不ぞろいなどが見られます。
病害が疑われる場合は、資材を追加する前に症状を確認し、必要に応じて専門機関へ相談します。農薬を使用する場合は、現在の登録内容を必ず確認してください。
水稲の根張りが悪いときの対処方法
根張りが悪いときの対処は、原因と、田植えまでに残された日数によって変わります。
根を増やしたいからといって、かん水、肥料、資材を一度に増やすことは避けます。まず病害の有無を確認し、水分、温度、床土、育苗日数、施肥を順に見直します。
病害がなく田植えまで余裕があれば育苗を続ける
根が白く、苗の黄化や萎れ、カビなどがなく、単純に生育が遅れている場合は、育苗を続けることで苗マットが形成される可能性があります。
ただし、育苗期間を長くすれば必ず改善するわけではありません。苗齢が進みすぎると、生育停滞や老化につながります。
育苗を続ける場合も、高温で地上部だけを急に伸ばさず、床土を過湿にも乾燥にも偏らせないようにします。不要な追肥は避け、苗齢と地域の移植適期を確認してください。
田植え日の変更は、代かきや圃場の予定も含めて判断します。
床土の乾き具合を見てかん水する
かん水は、時刻や回数だけで固定せず、床土の状態を見て判断します。
表面が乾いていても、内部には水分が残っていることがあります。反対に、表面が濡れていても、苗箱の端や一部だけが乾燥している場合があります。
苗箱の重さ、床土の色、触れたときの状態を確かめ、必要な量を均一に与えます。
特に硬化期は、床土を常に湿らせるのではなく、過湿を避けながら管理します。夕方の多量かん水は床温を下げ、夜間まで水分を残しやすいため、必要なかん水は午前中を中心に行います。
葉が萎れていても床土が十分に湿っている場合は、追加のかん水ではなく、高温や強光への対応が必要なこともあります。
低温時は保温し、高温時は換気する
低温時は、ハウスや被覆資材を使って保温します。日中に気温が上がったときは、内部が高温にならないよう換気します。
高温時はハウスの側面や出入口を開け、苗の周辺に熱気がこもらないようにします。
苗を急に強い風や低温へ当てるのではなく、育苗段階に合わせて徐々に外気へ慣らします。
温度計はハウス上部ではなく、苗に近い位置へ設置します。中央部と端で温度差がある場合は、換気方法や苗箱の配置も見直します。
置床の水分と苗箱の置き方を見直す
苗箱の下へ根が伸びている場合は、置床が常に湿っていないか確認します。
すでに根が置床へ伸びている苗箱を動かすときは、根を一度に引きちぎらないよう慎重に作業します。
次回の育苗では、育苗床を均平にして水がたまる場所をなくし、排水経路を確保します。苗箱の底面を、湿った置床へ長期間密着させないことも必要です。
箱の下へ根を伸ばすことより、苗箱内で苗マットを形成させる管理を優先します。
根の生育環境を整えたい場合は酸素供給資材も検討する
水分、温度、育苗期間、床土、施肥を見直しても根張りが弱く、過湿による根域環境の悪化が疑われる場合は、酸素供給資材を補助的に検討できます。
ただし、酸素供給資材は、病害や肥料過多、極端な低温・高温、床土の不適合などを解決するものではありません。原因を切り分け、基本的な育苗管理を見直したうえで使用を判断します。
過湿な床土では根の周囲へ酸素が届きにくくなる
植物の根は、酸素を使って呼吸しながら、生命活動に必要なエネルギーを得ています。
床土が長時間過湿になると、土の隙間が水で満たされ、根の周囲へ空気が届きにくくなります。
イネは、葉鞘から根へ酸素を運ぶ通気組織を備え、低酸素の水田環境へ適応した作物です。それでも、根域が限られる育苗箱では、床土の過湿と低温などが重なると根の活力が低下することがあります。
まずは、かん水量、排水、床土の通気性を見直すことが基本です。
例:「酸素爆誕」の使用条件
「酸素爆誕」は、起爆剤と酸素剤の2液を希釈・混合し、土壌へ施用する酸素供給資材です。
一般的な使用条件は以下の通りです。
- 起爆剤と酸素剤を必ず併用する
- それぞれを100倍以上に希釈してから混合する
- 標準希釈倍率は500~1,000倍
- 高希釈では3,000倍でも使用できる
- 混合後は速やかに施用する
- 混合液は当日中に使用する
- 銅剤との混用を避ける
- 使用時は手袋などの保護具を着用する
混合後の酸素発生は、希釈倍率などによって異なるものの、約2週間持続します。
水稲苗箱へ施用する場合は、苗箱当たりの水量や施用時期、回数を販売元へ確認してください。圃場向けに示された水量や使用量を、そのまま苗箱へ当てはめないようにします。
また、こちらの商品は化学合成品のため、有機JAS認証圃場では使用できません。特別栽培などで使用する場合も、地域や契約先の基準を確認してください。
育苗管理を見直したうえで補助的に活用する
酸素供給資材を使う場合も、かん水過多や排水不良を放置してはいけません。水分、温度、床土、施肥を見直したうえで、補助的に使用します。
初めて使う場合は、すべての苗箱へ一度に施用せず、一部の苗箱で試す方法があります。
処理した苗箱と無処理の苗箱を分け、根の色や苗マットの保持力、草丈や葉色、床土の水分、田植えまでの生育経過を同じ条件で比較します。使用条件と観察結果を記録しておくと、自分の育苗方式に合うかを判断しやすくなります。
根の褐変、カビ、苗の萎れなど、病害が疑われる症状がある場合は、酸素供給資材だけで対処せず、必要に応じて専門機関へ相談してください。
まとめ
水稲苗の根張りが悪いと感じたときは、箱の下から出ている根の長さだけで判断せず、苗マットの保持力、根の色や伸び方、苗の黄化や萎れを確認します。
病害が疑われなければ、育苗日数、温度、水分、床土、施肥、置床の順に、これまでの管理を振り返ります。単に生育が遅れている場合は、水分と温度を整えながら育苗を続けることで、苗マットが形成される可能性があります。
過湿による根域環境の悪化が考えられる場合も、まずかん水や排水を見直します。酸素供給資材は、基本的な管理を整えたうえで補助的に検討するものです。
根張りは、一つの資材や管理だけで決まるものではありません。苗の状態と育苗の経過を照らし合わせ、原因に合った対処を選ぶことが、田植え前の判断につながります。
監修者
人見 翔太 Hitomi Shota

滋賀大学教育学部環境教育課程で、環境に配慮した栽培学等を学んだ後、東京消防庁へ入庁。その後、株式会社リクルートライフスタイルで広告営業、肥料販売小売店で肥料、米穀の販売に従事。これまで1,000回以上の肥料設計の経験を活かし、滋賀県の「しがの農業経営支援アドバイザー」として各地での講師活動を行う。現在は株式会社リンクにて営農事業を統括している。生産現場に密着した、時代にあった実践的なノウハウを提供致します。

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