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水稲の追肥ガイド|時期・やり方・肥料の選び方を徹底解説

水稲栽培において、追肥は収量と品質を左右する重要な作業です。適切な時期に適切な量の肥料を施すことで、稲の生育をコントロールし、食味の良い米づくりにつなげることができます。しかし、「いつ追肥すればいいのか」「どの肥料を使えばいいのか」と悩む方も多いのではないでしょうか。本記事では、水稲の追肥に関する基礎知識から、生育ステージ別の施肥タイミング、肥料の選び方、省力化技術まで、農家の皆さまが現場ですぐに活かせる情報を網羅的に解説します。

水稲における追肥とは?役割と基本知識

追肥とは、稲の生育途中に必要な養分を補う施肥のことです。元肥だけでは生育後半に養分が不足するため、追肥で栄養を補給し、収量と品質を安定させます。ここでは、追肥の基本的な考え方を整理します。

追肥の目的と元肥との違い

追肥の最大の目的は、稲が養分を最も必要とするタイミングに合わせて栄養を届けることです。元肥は田植え前に土壌へ混ぜ込む基礎的な肥料で、初期生育を支えます。一方、追肥は生育中期から後期にかけて施し、穂の充実や登熟を促します。たとえば、穂肥(ほごえ)として幼穂形成期に窒素を追加すると、籾数の増加や千粒重の向上につながります。元肥で基盤をつくり、追肥でピンポイントに養分を補うことで、稲の生育を最適にコントロールできるのです。

追肥が収量・品質に与える影響

追肥の有無や量は、収量と品質の両方に直結します。適切な追肥を行った水田では、籾数・千粒重ともに増加し、10aあたり30〜60kgの増収が見込めるケースもあります。また、登熟期の養分供給が安定すると、白未熟粒や胴割れの発生が抑えられ、一等米比率が向上します。逆に、追肥を怠ると穂が小さくなり、収量低下と品質劣化を招きます。たとえば、猛暑年に穂肥を適切に施した圃場では、高温障害による品質低下が軽減されたという報告もあります。

追肥に関わる肥料の三要素(窒素・リン酸・カリウム)

肥料の三要素とは、窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)のことです。窒素は葉や茎の生長を促し、光合成能力を高めます。リン酸は根の発達や穂の形成に関わり、初期生育を支えます。カリウムは細胞を丈夫にし、病害への抵抗力や登熟を促進します。追肥では主に窒素を補給しますが、カリウムを同時に施すことで倒伏防止や食味向上にもつながります。たとえば、穂肥にNK化成(窒素とカリウムを含む肥料)を使う農家も多く、バランスの取れた追肥が安定した米づくりの鍵になります。

水稲の追肥時期|生育ステージ別のポイント

生育中の水稲が広がる日本の水田風景

追肥の効果を最大限に引き出すには、稲の生育ステージに合わせたタイミングが欠かせません。早すぎれば過繁茂を招き、遅すぎれば効果が薄れます。ここでは、各ステージにおける追肥の目的と注意点を解説します。

分げつ期の追肥(つなぎ肥)

分げつ期とは、田植え後に稲が新しい茎を次々と出す時期のことです。この時期の追肥は「つなぎ肥」とも呼ばれ、元肥の効果が切れかけた頃に養分を補います。目的は有効茎数を確保し、十分な穂数を得ることです。ただし、窒素の施しすぎは無効分げつを増やし、過繁茂につながるため注意が必要です。目安として、田植え後20〜25日頃に葉色板で葉色を確認し、淡い場合にのみ10aあたり窒素1〜2kg程度を施すのが一般的です。

幼穂形成期の追肥(穂肥)

幼穂形成期は、稲の体内で穂の原型が作られる重要な時期です。出穂の約25日前に当たり、この時期に施す追肥を「穂肥」と呼びます。穂肥は一穂当たりの籾数を増やし、千粒重を高める効果があります。施肥量は品種や土壌条件によりますが、一般的に10aあたり窒素2〜3kg程度が目安です。コシヒカリなどの倒伏しやすい品種では、穂肥を2回に分けて施す「分施」が効果的です。たとえば、出穂25日前と18日前に分けて施用することで、倒伏リスクを抑えながら収量を確保できます。

出穂期〜登熟期の追肥(実肥)

出穂期以降に施す追肥は「実肥(みごえ)」と呼ばれます。登熟を助け、粒を充実させる役割を持ちます。ただし、この時期の窒素過多は玄米のタンパク含量を上げ、食味を低下させるリスクがあります。そのため、実肥は慎重に判断する必要があります。葉色が極端に淡い場合や、高温登熟で白未熟粒が心配される場合に、ごく少量の窒素やカリウムを補う程度にとどめましょう。たとえば、出穂直後にカリウム単体の肥料を施すことで、食味を維持しながら登熟を促す方法もあります。

葉色診断による追肥タイミングの判断方法

水田で稲の葉色を確認しながら追肥の判断を行う様子

葉色診断とは、葉色板(カラースケール)を使って稲の葉の緑色の濃さを数値化する方法です。追肥のタイミングを客観的に判断できるため、経験の浅い方にもおすすめです。一般的に、葉色値が基準値より0.5〜1.0低い場合に追肥を検討します。品種ごとの基準値はJAや普及センターで確認できます。たとえば、コシヒカリでは穂肥時の葉色値が3.5〜4.0程度を目安とすることが多いです。近年はスマートフォンアプリで葉色を測定できるツールも登場しており、より手軽に診断が可能になっています。

追肥に使う肥料の種類と選び方

追肥に使う肥料は、目的や生育状況に応じて使い分けることが大切です。速効性が必要な場面もあれば、緩やかに効かせたい場面もあります。ここでは、代表的な追肥用肥料の種類と特徴を紹介します。

化学肥料(硫安・尿素・化成肥料)の特徴

化学肥料は速効性に優れ、追肥で最も広く使われています。硫安(硫酸アンモニウム)は窒素含有率が約21%で、即効的に効果が表れるのが特徴です。尿素は窒素含有率が約46%と高く、少量で効率的に窒素を補給できます。化成肥料はNPKを配合した肥料で、穂肥にはNK化成(窒素・カリウム配合)がよく使われます。たとえば、穂肥として10aあたり硫安10kg程度を施す農家は多く、土壌条件に応じてNK化成に切り替えるケースもあります。速効性がある反面、施しすぎには注意が必要です。

有機肥料の特徴と使い方

有機肥料は、魚かすや骨粉、米ぬかなど天然由来の原料から作られた肥料です。土壌微生物によってゆっくり分解されるため、緩効性が特徴です。追肥に使う場合は、効果が表れるまでのタイムラグを考慮して、化学肥料より早めに施す必要があります。有機肥料はアミノ酸を豊富に含むものが多く、食味向上に寄与するとされています。たとえば、穂肥の1〜2週間前に有機入り化成を施すことで、緩やかに窒素を供給しながら食味を高める農家もいます。土づくりと追肥を兼ねた施肥設計が可能になる点もメリットです。

ケイ酸・微量要素を補う資材の役割

ケイ酸は稲にとって「第4の要素」とも呼ばれる重要な養分です。細胞壁を強化して倒伏を防ぎ、受光態勢を改善して光合成を促進します。また、登熟期の高温障害を軽減する効果も報告されています。ケイ酸資材としては、ケイカル(ケイ酸カルシウム)やケイ酸加里が一般的です。たとえば、出穂前にケイ酸加里を追肥として施すことで、稲体を丈夫にしながら登熟を安定させることができます。その他、マグネシウムやマンガンなどの微量要素も、光合成や酵素活性に不可欠な養分として見逃せません。

一発肥料と追肥の比較|食味・収量への影響

一発肥料とは、元肥として1回施すだけで生育全期間の養分を供給する被覆肥料のことです。追肥作業が不要になるため、省力化の面で大きなメリットがあります。しかし、気温の影響で肥効のタイミングがずれるリスクがあり、特に猛暑年は予定より早く溶出して品質低下を招くことがあります。一方、追肥方式は手間がかかりますが、生育状況を見ながら施肥量を調整できる柔軟性があります。たとえば、一発肥料の圃場で食味が安定しない場合、穂肥だけを追肥方式に切り替えるハイブリッド型の施肥設計も有効です。

追肥の施用方法と省力化技術

水田の畦で追肥作業に使う肥料と散布用具を準備している様子

追肥の効果は、施用方法によっても大きく変わります。近年は省力化を実現するさまざまな技術が普及しています。ここでは、従来の方法から最新技術まで、実践的な施用方法を紹介します。

手まきによる従来の施肥方法

手まきは最も基本的な追肥方法です。背負い式の動力散布機やブロードキャスターを使い、水田に肥料を均一に散布します。小規模圃場では手まきでも対応できますが、広い面積になると作業負担が大きくなります。ムラなく散布するには、圃場を等分に区切り、各区画に決まった量を散布する方法が効果的です。たとえば、10aの圃場を5区画に分け、1区画ずつ所定量を散布することで、施肥ムラを防げます。手まきの最大のメリットは、圃場の状態を直接確認しながら作業できる点です。

流し込み施肥のやり方と注意点

流し込み施肥とは、水口から灌漑水に肥料を溶かして流し入れる方法です。手まきに比べて作業時間を大幅に短縮でき、大規模農家を中心に普及しています。施用時は水尻を止め、田面に2〜3cmの水を張った状態で行うのがポイントです。ムラなく行き渡らせるため、肥料が完全に溶けてから通水を開始しましょう。注意点としては、圃場の均平が取れていないと施肥ムラが生じやすいことです。

液体肥料を用いた流し込み施肥

液体肥料(液肥)は水に完全に溶けるため、流し込み施肥と非常に相性が良い資材です。原液をタンクに入れ、水口の灌漑水に少しずつ混ぜて流し込みます。固形肥料のように溶け残りが出ないため、施肥ムラが起きにくいのが最大のメリットです。たとえば、尿素液肥を使った流し込みでは、10aの穂肥施用が30分程度で完了したという事例もあります。ただし、液肥は成分濃度が低いため、必要量の確認と正確な希釈が大切です。

固形肥料を用いた流し込み施肥

固形肥料でも流し込み施肥は可能です。水溶性の高い尿素や硫安を水口付近で溶かし、灌漑水とともに流し入れます。メッシュ袋に肥料を入れて水口に設置する方法が一般的で、水流で自然に溶けていきます。液肥に比べてコストが低く、既存の肥料をそのまま使える点がメリットです。たとえば、硫安をメッシュ袋に入れて水口に吊るす方法では、約1時間で溶出が完了します。ただし、溶解に時間がかかるため、通水時間の管理に注意が必要です。

葉面散布による追肥の方法とタイミング

葉面散布とは、液体肥料を葉に直接噴霧する追肥方法です。根からの養分吸収が難しい状況でも、葉から速やかに養分を取り込めるのが特徴です。高温障害対策として出穂前後にケイ酸やカリウムを葉面散布する方法が注目されています。散布のタイミングは、朝夕の涼しい時間帯が適しています。日中の高温時は葉やけのリスクがあるため避けましょう。たとえば、ケイ酸やカリウムを含む葉面散布剤を出穂7日前に散布することで、登熟が安定し白未熟粒の発生を抑えた事例があります。

ドローン散布など最新の省力化技術

近年、ドローンによる追肥散布が急速に普及しています。1haの散布が10〜15分程度で完了し、従来の手まきに比べて作業時間を大幅に短縮できます。GPSによる自動飛行で施肥ムラも少なく、中山間地の不整形圃場にも対応可能です。粒状肥料だけでなく、液肥の散布にも対応した機体が増えています。たとえば、農薬散布用ドローンに粒剤散布装置を取り付け、防除と追肥を同時に行う農家も出てきました。導入コストは高めですが、大規模経営では十分に投資回収が見込める技術です。

追肥と水管理の連動ポイント

水稲栽培では、追肥と水管理は切り離せない関係にあります。水の深さや排水のタイミングが肥料の効き方に大きく影響するからです。ここでは、追肥の効果を高めるための水管理のポイントを解説します。

中干し後の水管理と追肥の関係

中干しとは、分げつ期後半に一時的に水田の水を落として土壌を乾かす作業のことです。無効分げつの発生を抑え、根の活力を高める効果があります。中干し明けは稲が一時的に養分不足になりやすいため、追肥の好適期となります。間断灌漑(水を入れては落とすを繰り返す管理)に切り替えながら追肥を行うと、根に酸素が行き渡り肥料の吸収効率が高まります。たとえば、中干し後に2〜3日おきの間断灌漑を行いつつ穂肥を施すことで、根の活力維持と養分吸収の両立が可能です。

幼穂形成期〜出穂期の水管理と施肥

幼穂形成期から出穂期にかけては、稲が最も水を必要とする時期です。この期間はやや深水管理(水深5〜7cm程度)を維持し、穂の発育を保護します。穂肥を施す際には、田面に水を張った状態で行うことで、肥料の溶解と均一な分配が促進されます。特に減数分裂期(出穂の10〜14日前)は冷害に対する感受性が最も高い時期です。寒冷地では深水管理で穂を低温から守りつつ、穂肥の効果を最大限に発揮させることが重要です。水管理と追肥のタイミングを一体的に計画しましょう。

高温障害対策としての追肥と水管理

近年の猛暑により、高温登熟障害が全国的に問題となっています。白未熟粒の発生や食味の低下を招く高温障害には、追肥と水管理の両面から対策が必要です。出穂後は、夜間のかけ流し灌漑で水温・地温を下げることが効果的です。追肥面では、カリウムやケイ酸を補給して稲の耐暑性を高めます。たとえば、出穂前にケイ酸加里を追肥し、出穂後に夜間かけ流しを実施した圃場では、白未熟粒の発生率が大幅に低減したという報告があります。高温が予想される年は、事前の準備が品質を守る鍵になります。

食味向上と収量アップを両立する施肥設計

「収量を上げたいが、食味も落としたくない」。これは多くの農家に共通する課題です。追肥の量とタイミングを緻密に設計することで、この両立は十分に可能です。ここでは、施肥設計の考え方と実践のポイントを紹介します。

元肥・追肥のバランス設計の考え方

施肥設計の基本は、生育全体で必要な窒素量を元肥と追肥に適切に配分することです。一般的に、元肥:追肥の窒素比率は6:4〜7:3程度が目安とされます。元肥に偏りすぎると初期過繁茂を招き、追肥に偏りすぎると初期生育が遅れます。品種や地域の基準に沿って、総窒素量を設定しましょう。たとえば、コシヒカリでは10aあたり総窒素6〜8kgの範囲で、元肥5kg+穂肥2kgという設計が広く採用されています。バランスの良い配分が、安定した収量と品質の両立に直結します。

土壌分析に基づく施肥設計のすすめ

土壌分析は、圃場ごとの養分状態を「見える化」するための第一歩です。土壌中の窒素・リン酸・カリウム、pH、有機物含量などを測定することで、過不足のない施肥設計が可能になります。特に、地力窒素(土壌から自然に供給される窒素)の把握は、追肥量を決める上で重要です。地力窒素が高い圃場では追肥を減らし、低い圃場では増やすことで、過剰施肥によるコスト増や品質低下を防げます。JAや農業普及センターで土壌分析を依頼できるほか、簡易キットを使って自分で測定する方法もあります。

食味と収量のトレードオフを避けるコツ

食味と収量は、しばしば相反する関係にあります。窒素を増やせば収量は上がりますが、玄米のタンパク含量も上昇し、食味が低下する傾向があるからです。このトレードオフを避けるためのポイントは3つあります。第一に、穂肥のタイミングを遅らせすぎないこと。第二に、カリウムやケイ酸を併用して登熟を安定させること。第三に、登熟期の水管理を徹底することです。たとえば、穂肥を出穂25日前に施し、ケイ酸加里を出穂前に葉面散布した圃場では、タンパク含量を抑えながら収量を維持できた事例があります。

まとめ|水稲の追肥で収量・品質を最大化するために

水稲の追肥は、収量と品質を左右する最も重要な栽培管理のひとつです。本記事のポイントを振り返ります。追肥は、稲が養分を必要とするタイミングに合わせて施すことが基本です。分げつ期のつなぎ肥、幼穂形成期の穂肥、出穂後の実肥と、生育ステージごとに目的が異なります。肥料は化学肥料・有機肥料・ケイ酸資材を目的に応じて使い分けましょう。流し込み施肥やドローン散布などの省力化技術も積極的に取り入れることで、作業負担を軽減できます。そして、追肥と水管理の連動、土壌分析に基づく施肥設計が、食味と収量の両立を可能にします。ぜひ本記事を参考に、今年の米づくりに活かしてみてください。