
じゃがいもの収量や品質を安定させるには、肥料を「多く与える」ことよりも、用途や品種、土壌の状態、生育段階に合わせて過不足なく施肥することが重要です。
じゃがいもは、窒素やカリが不足しても生育に影響しますが、多すぎても茎葉の過繁茂や品質低下につながることがあります。さらに、肥料だけでなく、土壌のpHや排水性、土の硬さなども塊茎(いも)の形成・肥大を左右します。
そのため、「じゃがいもにはこの肥料を、この量だけ与えればよい」と一律に考えるのではなく、地域の施肥基準や土壌診断を基本にしながら、自分の圃場に合わせて調整することが大切です。
この記事では、じゃがいもを生産する農家の方に向けて、肥料成分の役割から元肥・追肥、土づくり、生育不良が見られたときの確認ポイントまで解説します。
じゃがいもに適した肥料とは?施肥設計の基本

じゃがいもの肥料を考えるときは、最初に肥料の商品名や配合比率を決めるのではなく、その圃場で何をどれだけ補う必要があるのかを確認することが基本です。
同じじゃがいもでも、生食用・加工用・でん粉原料用では求められる品質が異なります。生食用では外観や規格内収量、加工用では加工適性なども重要になるため、目標によって施肥の考え方も変わります。
施肥量は用途・品種・土壌条件によって変わる
じゃがいもの施肥量を考える際は、少なくとも次の条件を確認しましょう。
- 用途と品種
- 地域・作型
- 目標とする収量・品質
- 土壌診断結果
- 前作と残肥
- 堆肥・緑肥などの有機物施用
- 過去の生育や収量
たとえば窒素は茎葉やいもの生育に大きく影響しますが、増やすほど収量・品質が高まるわけではありません。
窒素が過剰になると茎葉が繁茂しすぎたり、成熟が遅れたりして、デンプン価や規格内収量に悪影響を及ぼすことがあります。用途によっては、総収量を増やすよりも、適正サイズのいもを増やすことやデンプン価を確保することの方が重要です。
そのため、まず地域の施肥基準を確認し、土壌診断や前作の状況を踏まえて施肥量を調整するのが基本です。
窒素・リン酸・カリなどの役割を理解する
じゃがいもの施肥では、窒素・リン酸・カリの三要素を中心に、それぞれの役割と過不足を考えます。
| 肥料成分 | 主な役割・注意点 |
| 窒素 | 初期から茎葉の生育に重要。過剰になると過繁茂や成熟の遅れ、デンプン価低下などにつながる |
| リン酸 | 初期生育を促し、塊茎の着生を早める。土壌中の蓄積量を確認して施肥する |
| カリ | 光合成産物の転流などに関わる。不足だけでなく過剰吸収にも注意する |
| 苦土・石灰など | 葉や組織の健全な生育に関わる。他成分や土壌pHとのバランスも確認する |
窒素はじゃがいもの生育や収量への影響が大きい一方、過剰施用は地上部の過繁茂や枯凋の遅れにつながります。
リン酸は初期生育や塊茎着生に関わります。カリは光合成産物の転流などに重要ですが、多ければよいわけではなく、過剰に吸収されるとデンプン価が低下する場合があります。
とくに注意したいのが、「いも類だからカリを多めに入れる」といった単純な判断です。
じゃがいもはカリを多く吸収する作物ですが、土壌中に十分なカリが蓄積している圃場では、追加施肥によって過剰になる場合があります。実際に、カリが蓄積した圃場で減肥によっていも重やデンプン価が改善した例も報告されています。
肥料成分ごとの役割だけでなく、土壌から供給される分まで含めて施肥量を考えることが重要です。
じゃがいもの元肥と追肥|時期・量の考え方

じゃがいもの肥料について、とくに判断に迷いやすいのが元肥と追肥です。
基本となる考え方は、元肥で必要な養分を確保したうえで、追肥が本当に必要な圃場・品種なのかを判断することです。
すべてのじゃがいもに決まった時期・量の追肥が必要なわけではありません。
元肥は土壌診断と地域の施肥基準から考える
元肥の設計では、地域の施肥基準を出発点にします。
ただし、基準量をそのまま施用するのではなく、
- 土壌から供給される窒素
- 有効態リン酸
- 交換性カリ
- 前作残渣
- 堆肥や緑肥
なども確認します。
土壌診断では、リン酸やカリの蓄積状況に応じて施肥量を増減する考え方があります。前作残渣や堆肥から養分が供給される場合も、その分を考慮して施肥量を調整する必要があります。
「去年この量だったから今年も同じ」ではなく、土壌診断と過去の生育・収量を見ながら毎作調整することが、施肥設計の基本です。
追肥が必要かは品種や生育状況を見て判断する
じゃがいもの追肥は、品種や用途によって効果が異なります。
試験事例でも、窒素追肥によって増収する品種がある一方、増肥や追肥の効果がほとんど見られない品種も報告されています。
つまり、
「じゃがいもは○月に追肥する」
「開花したら必ず追肥する」
と一律に決めることはできません。
追肥を検討するときは、
- 品種と熟期
- 用途
- 元肥の窒素量
- 土壌窒素
- 前作や堆肥からの窒素供給
- 現在の茎葉の生育
- 収穫まで確保できる生育期間
などを確認します。
すでに茎葉が十分に繁茂している圃場に窒素を追加すれば、いもの肥大よりも地上部の生育をさらに促してしまう可能性があります。
追肥の時期・量と窒素の遅効きに注意する
追肥では「どれだけ入れるか」だけでなく、いつ効くかも重要です。
じゃがいもは生育初期から窒素を吸収し、まず茎葉を形成します。その後、塊茎形成から肥大へと生育の中心が移っていきます。
生育後半まで窒素が強く効き続けると、茎葉の生育や成熟が長引き、塊茎への養分配分やデンプン蓄積に影響することがあります。
緩効性肥料を使用する場合も、肥効が遅れれば必要な時期と実際に効く時期がずれる可能性があります。
追肥の判断では、施用時期・肥料の種類・品種・収穫時期までセットで考えましょう。
生育段階で変わるじゃがいもの栄養管理
じゃがいもの生育は、地上部を大きくする段階から、地下で塊茎を形成し、太らせる段階へと変化していきます。
施肥も、この流れを理解して考えることが大切です。
| 生育段階 | 主な管理ポイント |
| 萌芽〜初期生育 | 根と茎葉を立ち上げ、適正な葉面積を確保する |
| 茎葉伸長〜着蕾 | 光合成を担う茎葉を確保しつつ、過繁茂を避ける |
| 塊茎形成 | ストロン先端でいもが形成される。高温や水分条件にも注意する |
| 塊茎肥大 | 健全な葉を維持し、光合成産物をいもへ転流させる |
| 成熟・枯凋 | 過剰な窒素による成熟の遅れを避け、収穫に向けて仕上げる |
じゃがいもの塊茎は、ストロンの先端が肥大することで形成されます。着蕾から開花の時期には地下部で塊茎形成が進み、その後は塊茎肥大へ移行します。
塊茎形成後の肥大を支えるのは、葉で行われる光合成です。
ただし、葉が多ければ多いほどよいわけではありません。茎葉が繁茂しすぎると葉同士が重なって光が届きにくくなり、増えた葉が必ずしも塊茎の肥大につながらないことがあります。
重要なのは、必要な時期に適正な茎葉を確保し、その後は光合成でつくられた炭水化物を塊茎へ送り込める生育状態をつくることです。
肥料だけでなく、気温・日照・水分条件も塊茎の形成や肥大に影響するため、生育不良が見られたときは施肥以外の要因も確認しましょう。
じゃがいもの土づくり|pH・石灰・堆肥とそうか病
じゃがいもの収量や品質は、肥料成分だけでは決まりません。
根が養分を吸収できる土壌環境や、塊茎が正常に肥大できる物理的な土壌条件を整えることも重要です。
pHだけでなく排水性や土の硬さも確認する
じゃがいもの土づくりでは、pHだけでなく、
- 排水性
- 土壌の硬さ
- 土塊の大きさ
- 作土の状態
- 培土直下の硬い層
なども確認します。
細粒質で粘性の高い土壌では、培土の中に大きな土塊が残っていたり、培土の下に硬い層ができたりすると、塊茎の肥大を妨げ、変形いもの発生につながることがあります。
また、排水不良の圃場では品質が安定しにくくなる場合があります。
肥料を追加する前に、根が健全に働ける状態か、いもが物理的に太れる土になっているかを確認することも大切です。
石灰や堆肥は土壌診断を踏まえて使う
石灰資材は土壌pHの調整やカルシウム補給などに使われますが、じゃがいもでは「とりあえず石灰をまく」という考え方は適しません。
土壌pHが上がりすぎると、そうか病の発生リスクを高める場合があるためです。
一方で、そうか病を避けるために石灰資材を長期間まったく使用せず、強い酸性状態を維持すればよいわけでもありません。輪作している他作物への影響や、土壌の養分状態も考える必要があります。
堆肥についても、土づくりには有効ですが、窒素やカリなどの養分を供給します。施用する場合は、その分を化学肥料から差し引くことも検討します。
とくにそうか病が問題となる圃場では、作付け直前の未熟な有機物や粗大有機物の投入にも注意が必要です。
石灰や堆肥を使用するときも、土壌診断を確認してから必要性と量を判断するのが基本です。
そうか病は肥料だけで解決する問題ではない
じゃがいものそうか病は、塊茎の表面にかさぶた状の病斑ができる土壌病害です。
土壌pHや塊茎形成期の高温・乾燥などが発病に関係し、石灰の多用が発病を助長する場合もあります。
ただし、そうか病対策はpHだけを調整すれば完了するものではありません。
- 健全な種いもを使用する
- 適正な輪作を行う
- 石灰質資材や有機物の投入時期を検討する
- 土壌pHを把握する
- 圃場の水分条件を確認する
など、複数の対策を組み合わせる必要があります。
そうか病が継続的に発生している場合は、「肥料を変える」だけでなく、輪作体系を含めた土壌管理全体を見直しましょう。
じゃがいもが大きくならない・生育がおかしいときの確認ポイント
じゃがいもの生育が思わしくないと、「肥料が足りなかったのでは」と考えたくなります。
しかし、肥料を追加する前に原因を切り分けることが重要です。
じゃがいもが大きくならない場合
じゃがいもの収量は、
いもの数 × 1個当たりの平均重
で決まります。また、いもの数は茎数と1茎当たりの着生数によって左右されます。
そのため、「収量が少ない」「じゃがいもが大きくならない」と感じたら、まず次のどちらなのかを確認します。
- そもそも形成されたいもの数が少ない
- いもの数は確保できているが、1個当たりが太っていない
いも数が少ない場合は、種いもの状態や茎数、塊茎形成期の環境などを確認します。
一方、いもの数は多いのに小玉が多い場合は、株当たりのいも数が多すぎる、生育期間が足りない、高温などで肥大が抑えられた、茎葉の状態が悪く光合成量を確保できなかった、といった可能性があります。
土壌の硬さや排水不良が肥大を妨げていることもあります。
「小さい=肥料不足」と決めつけず、いも数と平均重に分けて原因を探すと、改善点を整理しやすくなります。
茎葉ばかり茂る場合は窒素過多も疑う
葉色が濃く、茎葉が勢いよく伸びているのに、いもの生育が思わしくない場合は、窒素過多も確認します。
窒素が多すぎると、
- 茎葉の過繁茂
- 倒伏
- 成熟・枯凋の遅れ
- 塊茎への光合成産物の配分低下
- デンプン価の低下
などにつながることがあります。
ただし、茎葉の徒長は窒素だけが原因とは限りません。多雨・寡照などでも地上部が徒長しやすくなります。
施肥履歴や土壌診断、天候、生育の推移を合わせて確認しましょう。
葉が黄色い場合は肥料不足だけで判断しない
じゃがいもの葉が黄色くなった場合も、すぐに追肥するのは避けましょう。
栄養不足の可能性はありますが、病害や生育段階など、ほかの要因でも黄化は起こります。
たとえば苦土が不足すると、下葉で葉脈間の黄化や褐変が見られることがあります。
また、生育後半に黄変期へ入れば、茎葉が自然に衰えていきます。病害によって黄化する場合もあるため、葉色だけで肥料不足と断定するのは適切ではありません。
黄化が見られた時期や圃場全体への広がり方、病斑の有無、土壌や生育の状態などを確認し、必要に応じて土壌診断なども活用しましょう。
じゃがいもの施肥を見直すときのチェックポイント

じゃがいもの施肥で大切なのは、「何の肥料を使うか」だけではありません。
施肥を見直すときは、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
- 用途・品種・目標収量を確認する
生食用・加工用・でん粉原料用など、何を重視するかを明確にします。 - 地域の施肥基準を確認する
地域や作型に合った基準を出発点にします。 - 土壌診断結果を確認する
窒素・リン酸・カリ・pHなど、土壌から供給できる養分を把握します。 - 前作・堆肥・残肥を確認する
有機物や前作残渣から供給される養分も考慮します。 - 現在の生育状態を確認する
茎葉が不足しているのか、反対に繁茂しすぎているのかを確認します。 - 排水性・根域環境を確認する
肥料だけでなく、根が健全に生育できる土壌環境も確認します。 - 追加施肥・減肥を判断する
ここまで確認したうえで、肥料を増やす・減らす判断をします。
じゃがいもの施肥では、不足している養分を補うことだけでなく、すでに土壌にある養分を把握し、過剰にしないことも重要です。
毎年の施肥量だけでなく、生育・収量・規格内率・品質を記録しておくと、翌作の施肥設計を見直す材料になります。
まとめ|じゃがいもの施肥は土壌と生育を見ながら調整しよう
じゃがいもの肥料は、決まった種類や量を一律に施用するのではなく、地域の施肥基準を出発点に、土壌診断や品種、用途、生育状況に合わせて調整することが大切です。
窒素・リン酸・カリは不足だけでなく過剰にも注意し、元肥や追肥を検討するときは「いつ、どれだけ効かせるのか」まで考えましょう。
また、じゃがいもが大きくならない、茎葉ばかり茂るといった問題が起きたときも、肥料だけに原因を求めず、pHや排水性、土の硬さ、生育環境などを含めて確認することが重要です。







