
「乾田直播(かんでんちょくは)」は、水を張らない乾いた田んぼに種もみを直接まく稲作技術です。育苗と田植えを省略できるため、移植栽培に比べて労働時間を約2割削減できるとされています。
猛暑による水不足や人手不足を背景に、取り組み面積はこの10年で2倍以上に拡大しました。一方で、雑草対策や苗立ちの確保など、押さえるべきポイントも多い技術です。
本記事では、乾田直播の仕組みと湛水直播との違い、メリット・デメリット、作業の流れを解説します。さらに、失敗しないためのポイントや向いている圃場・品種、コストの考え方まで網羅しました。導入を検討している方は、ぜひ最後までご覧ください。
乾田直播とは?読み方と湛水直播・移植栽培との違い
まずは乾田直播の基本を整理します。よく混同される湛水直播や、従来の移植栽培との違いから押さえましょう。
乾田直播の読み方と基本の仕組み
乾田直播は「かんでんちょくは(ちょくはん)」と読みます。耕して乾いた状態の田んぼに、播種機で種もみを直接まく栽培方法です。育苗箱で苗を育てず、田植えも行わない点が最大の特徴です。
播種後は、しばらく畑のような乾田状態で管理します。稲が出芽して1.5〜3葉期ほどに育ったら水を入れます。入水後は、中干しや穂肥など移植栽培とほぼ同じ管理に移ります。つまり「春の入口だけが大きく変わる技術」と理解すると分かりやすいでしょう。
国内では農研機構や各県の農業試験場が栽培マニュアルを公開しています。技術体系はすでに確立されており、大規模経営を中心に全国で導入が進んでいます。
湛水直播との違い
直播栽培には、乾田直播と湛水直播の2つの方式があります。両者の違いは「播種のときに水が張ってあるかどうか」です。
湛水直播は、代かきをして水を張った田んぼに種もみをまきます。種もみが浮いたり酸欠になったりしないよう、鉄粉などでコーティングするのが一般的です。一方の乾田直播は、水を張らない乾いた土に種もみを埋め込みます。代かきをしないため、麦や大豆で使う汎用機械をそのまま活用できます。
農林水産省の資料によると、近年は乾田直播の面積が湛水直播を上回りました。作業性と規模拡大への対応力が評価され、直播の主流になりつつある方式です。
移植栽培と比べて何が変わるのか
移植栽培との最大の違いは、育苗と田植えの工程がなくなることです。育苗箱の準備から播種、育苗管理、苗運びまでの作業が丸ごと不要になります。代かきも省略するため、春の作業体系は大きく変わります。
具体的には、耕起→整地→播種→鎮圧という、畑作に近い流れになります。一方で、除草剤の体系や水管理のタイミングは移植栽培と別物です。「移植の感覚のまま」導入すると、雑草や苗立ちで失敗しやすくなります。
移植栽培の経験に加えて、乾田直播専用のノウハウを学ぶことが導入の前提となります。
発展形の「節水型乾田直播」とは
近年は「節水型乾田直播」と呼ばれる方式も登場しています。通常の乾田直播が出芽後に入水するのに対し、栽培期間中もほとんど湛水しない方式です。用水の確保が難しい地域や、渇水年への備えとして研究・実証が進んでいます。
ただし、雑草管理や収量安定性のハードルはさらに高くなります。水田の持つ多面的機能への影響を懸念する意見もあり、評価はまだ定まっていません。
本記事では、技術が確立している「出芽後に入水する一般的な乾田直播」を中心に解説します。まずは基本形から取り組むのが現実的です。
いま乾田直播が注目される3つの理由
乾田直播が注目される背景は、大きく3つあります。1つ目は人手不足です。春に作業が集中する育苗と田植えが、規模拡大のボトルネックになっています。
2つ目は猛暑と水不足です。近年は渇水で用水確保に苦労する地域が増え、水を節約できる稲作への関心が高まりました。3つ目は、米の増産・低コスト化への要請です。
農林水産省の調査によると、2023年産の乾田直播の取り組み面積は約2万haに達しました。この10年で2倍以上に拡大し、湛水直播を上回る規模になっています。「一部の先進農家の技術」から「規模拡大の標準的な選択肢」へと変わりつつあるのです。
乾田直播のメリット5つ
乾田直播のメリットを5つに整理しました。省力化だけでなく、経営全体への効果が大きい技術です。
①育苗・田植えの省略で労働時間を約2割削減
最大のメリットは、春作業の大幅な省力化です。農林水産省の資料では、直播栽培は移植栽培に比べ労働時間を約2割削減できるとされています。
育苗箱の準備、ハウスでの温度管理、苗運びといった作業がすべて不要になります。特に育苗は毎日の見回りが必要で、担い手の拘束時間が長い作業でした。この負担が消えることで、春の限られた人員を他の作業に回せます。
実際に「少ない人数で多くの面積を管理できる」という声は多く聞かれます。労働力に限りがある経営ほど、効果を実感しやすいメリットです。
②育苗ハウス・資材が不要でコストダウン
乾田直播は、育苗に関わるコストをまるごと削減できます。育苗箱・培土・被覆資材・ハウスの維持費が不要になるためです。農林水産省の資料では、10a当たりの生産コストを約1割削減できるとされています。
規模拡大の際にネックとなる「育苗ハウスの増設投資」も避けられます。田植機の更新費用が不要になる点も見逃せません。
浮いた資金を播種機やレーザーレベラーに振り向ければ、体系全体の投資効率が高まります。コスト構造を軽くしたい経営にとって、有力な選択肢です。
③作期分散で経営規模を拡大しやすい
乾田直播は、作期分散の手段としても優れています。播種を移植より早い時期から始められ、収穫期は1〜2週間ほど遅くなる傾向があるためです。
移植栽培と組み合わせれば、田植えと収穫のピークをずらせます。たとえば一部の圃場を乾田直播にすると、春の作業競合が緩和されます。同じ人員と機械のままで、作付面積を増やす余地が生まれるのです。
大規模経営では「春作業の量が作付規模の上限を決める」ことが珍しくありません。乾田直播は、その上限を引き上げる技術といえます。
④麦・大豆と機械を共用でき輪作に強い
乾田直播は、水田輪作との相性が抜群です。播種に使うグレーンドリルなどを、麦や大豆の播種と共用できるためです。トラクタ作業が中心になるので、機械の稼働率も上がります。
また、代かきをしないため土の物理性が保たれやすくなります。排水性が維持され、後作の麦・大豆・野菜が作りやすくなるのも利点です。
「米・麦・大豆の2年3作」のような体系にも組み込みやすい技術です。田畑輪換を進めたい地域や法人には、特に導入メリットが大きいでしょう。
⑤節水や温室効果ガス削減など環境面の利点
乾田直播には、環境負荷を減らす効果も期待できます。湛水期間が移植栽培より短くなるためです。水田から発生するメタンなどの温室効果ガスを抑制できるとされています。
代かき水を使わないため、春先の用水量も節約できます。渇水リスクが高まる地域では、水資源の有効活用につながります。こうした特性は、持続可能な食料生産を目指すSDGsの方向性とも一致します。
環境価値を米のブランディングに活かす産地も出てきました。省力化と環境対応を同時に進められるのは、乾田直播ならではの強みです。
乾田直播のデメリット・課題3つ
一方で、乾田直播には移植栽培にはない難しさがあります。導入前に、3つの課題を必ず押さえてください。
①出芽・苗立ちが天候に左右されやすい
乾田直播の最初の関門は、出芽・苗立ちの確保です。育てた苗を植える移植と違い、種もみが土の中で発芽するためです。
播種後に乾燥が続くと、水分不足で出芽が遅れたり揃わなかったりします。逆に大雨で停滞水ができると、種もみが酸欠になり苗立ちが低下します。苗立ちの不足は収量に直結するため、軽視できません。
対策は、排水対策と鎮圧、適切な播種深度の確保が基本です。乾燥時には、浅く入水してすぐ落水する「フラッシング」も有効とされています。天候リスクを前提に、圃場の準備で先回りする姿勢が欠かせません。
②雑草防除の難易度が高い
乾田直播で最も失敗が多いのが雑草対策です。入水までの乾田期間が長く、畑地の雑草と水田の雑草の両方が発生するためです。
ノビエなどのヒエ類に加え、こぼれ籾から生える漏生イネや雑草イネも問題になります。放置すると収量低下だけでなく、翌年以降の雑草種子を増やしてしまいます。
対策の基本は、除草剤の体系処理です。移植栽培のように一発剤だけで済ませることはできません。使える薬剤や散布タイミングも移植とは異なります。「除草体系を制する者が乾田直播を制する」と言われるほど重要なポイントです。
③代かきをしないため漏水しやすい
乾田直播の圃場は、入水後に漏水しやすい傾向があります。水持ちを良くする代かきを行わないため、土に隙間が残るからです。
漏水すると水深が安定せず、除草剤の効果低下や肥料流出を招きます。用水の使用量が増え、水管理の手間も膨らみます。
対策の柱は、鎮圧作業と畦畔の管理です。ローラーで土を締めて隙間を減らし、地表近くに水を止める層をつくります。畦塗りや畦畔シートで、畦からの漏水も防ぎましょう。もともと減水深が大きい漏水田は乾田直播に向かないため、圃場選定の段階で外します。
乾田直播の作業の流れ【時期別スケジュール】
ここからは、乾田直播の1年の流れを時期別に解説します。全体像をつかめば、準備の優先順位が見えてきます。
秋:排水対策と均平が成否を分ける
乾田直播の準備は、播種の半年以上前の秋から始まります。翌春の成否は、秋の排水対策と均平作業でほぼ決まるからです。
まず、額縁明渠や弾丸暗渠で圃場の排水性を高めます。播種期に圃場が乾いていないと、作業そのものができません。次に、レーザーレベラーなどで田面を均平にします。高低差の目安は圃場内でおおむね5cm以内、可能なら±2.5cm程度とされています。
均平が悪いと、入水後に水深がばらつき、除草剤の効果が落ちます。収穫後の秋のうちに耕起・均平まで進めておくと、春作業に余裕が生まれます。
春:耕起・整地と種子の準備
春は、播種に向けた仕上げの作業を行います。目的は、種もみが安定して発芽できる播種床をつくることです。土塊が大きいと播種深度が乱れるため、砕土率を高めて丁寧に整地します。
並行して種子を準備します。種子消毒は移植栽培と同様に行います。播くのは、催芽させない乾籾のままが基本です。乾いた土に催芽籾を播くと、乾燥で死滅するおそれがあるためです。
地域によっては、鳥害や病害虫への対策として種子コーティングも行われます。発芽・発根を後押ししたい場合は、種子にまぶして使える高機能リン酸資材「ルートプロ」も選択肢です。播種量は目標とする苗立ち数から逆算し、地域の栽培指針に沿って決めましょう。
播種:方式ごとの特徴と播種深度の目安
播種は、専用の播種機で種もみを土中に埋め込みます。代表的な方式は、グレーンドリルによる条播や、不耕起V溝播種などです。
グレーンドリルは麦・大豆と共用でき、高速で広い面積をこなせます。V溝方式はV字の溝底に播くため水分が安定し、苗立ちが揃いやすい特徴があります。ドリル播種の播種深度は、おおむね2〜3cmが目安とされています。浅すぎると乾燥や鳥害を受けやすく、深すぎると出芽率が落ちます。
播種と同時に肥料をまける施肥播種機なら、初期生育の確保にも有利です。方式ごとに専用機や調整ノウハウが異なるため、地域で実績のある方式を選ぶのが近道です。
播種後:鎮圧で漏水と乾燥を防ぐ
播種後は、ローラーによる鎮圧を必ず行います。鎮圧は、乾田直播の中でも特に重要な工程です。
土を締めることで種もみと土が密着し、水分が届きやすくなります。同時に土の隙間が減り、入水後の漏水を抑える効果もあります。ケンブリッジローラーなどを使い、しっかり転圧しましょう。目安として「長靴のかかとの沈みが1cm程度」になる硬さが挙げられています。
ただし、土が湿りすぎているときに鎮圧すると、練り固めて逆効果になります。土壌水分を見極めて、適期に作業することが大切です。
出芽〜入水:1.5〜3葉期の水管理
出芽後の水管理が、苗立ちの成否を最終的に決めます。入水の目安は、稲がおおむね1.5〜3葉期に達した頃です。地域やマニュアルによって基準が異なるため、県の指針を確認してください。
入水前は、雨水が滞らないよう排水口を開けておきます。停滞水は、酸欠による苗の枯死につながるためです。最初の入水は浅水にします。苗が1週間以上水没すると枯死するとされているからです。
すべての苗の先端が水面から出ているのを確認しながら、徐々に水深を上げます。その後は移植栽培と同様に、中干しなどの通常管理へ移行します。生育時期ごとの水管理の基本は、稲作の水管理の解説記事も参考にしてください。
入水後:除草・施肥から収穫まで
入水後は、移植栽培に近い管理に切り替わります。まず、初中期一発剤などで入水後の除草を仕上げます。乾田期の除草と合わせた体系処理で、雑草を抑え込みます。
施肥は、生育を見ながら追肥で補正します。乾田直播は土壌窒素の供給が遅れやすく、初期生育が緩慢になりがちです。葉色診断などを活用し、追肥で穂数と登熟を確保しましょう。追肥の時期ややり方は、水稲の追肥ガイドで詳しく解説しています。出穂後の病害虫防除は、移植と同様に行います。
収穫は、移植より1〜2週間ほど遅れる傾向があります。乾燥調製まで含めて、作期全体の計画を立てておくと安心です。
乾田直播で失敗しないための5つのポイント
デメリットと作業の流れを踏まえ、失敗を防ぐ実践ポイントを5つにまとめました。初年度から押さえておきたい内容です。
①圃場選びと均平精度に妥協しない
最初のポイントは、導入する圃場の見極めです。乾田直播の失敗の多くは、圃場条件の段階で決まっているからです。
選ぶべきは、排水が良く、均平がとりやすく、用水を計画的に入れられる圃場です。逆に、極端な漏水田や湧水のある圃場、不整形な圃場は避けます。導入初年度は、条件の良い圃場で小面積から試すのが鉄則です。
あわせて、レーザーレベラーによる均平を徹底します。均平は除草剤の効果、水管理、苗立ちのすべてに効いてきます。「まず圃場、次に技術」の順番で考えると失敗しにくくなります。
②除草剤は「乾田期2回+入水後1回」の体系で
雑草対策は、体系処理を前提に設計します。1回の散布で抑えきれないのが乾田直播だからです。基本は、乾田期に2回、入水後に1回の計3回処理です。初めて導入する圃場や雑草の前歴が不明な圃場では、特に3回体系が推奨されています。
乾田期は、土壌処理剤と茎葉処理剤を組み合わせて発生を抑えます。入水後は、初中期一発剤などで仕上げる流れです。
薬剤は「直播栽培に登録があるか」を必ず確認してください。使用時期や回数の制限も、移植栽培と異なる場合があります。具体的な体系例は、農研機構の乾田直播栽培技術マニュアルや県の指針で確認できます。散布適期を逃さないよう、雑草の葉齢を観察する習慣をつけましょう。
③初期生育を支える施肥設計にする
施肥は、乾田直播専用の設計に切り替えます。乾田期間中は土壌窒素の無機化が遅れ、養分供給が不足しやすいためです。
基肥には、溶出タイミングを調整した緩効性肥料の活用が有効とされています。生育中期以降に効くシグモイド型の被覆肥料を組み合わせる方法が代表例です。播種と同時に条施用できれば、肥料が根の近くに届き利用効率も上がります。
初期生育が緩慢な場合は、早めの追肥でリカバリーを判断します。「移植と同じ施肥のまま」では生育量が不足しがちです。地域の施肥基準をベースに、直播用へ再設計しましょう。
④土づくりで苗立ちと根張りを底上げする
薬剤や機械だけでなく、土そのものの状態も苗立ちを左右します。種もみは、土中の水分と酸素のバランスの中で発芽するためです。排水が悪く空気の少ない土では、発芽や初期の根張りが鈍ります。
堆肥や有機質資材で団粒構造を育て、水はけと保水の両立を図りましょう。団粒化や透水性の改善には、腐植酸資材の「ベストフミン」も役立ちます。停滞水が出やすい圃場では、土壌に酸素を供給する資材の活用も選択肢になります。アグリスイッチでも、根張りを支える土壌酸素供給材「酸素爆誕」をご提案しています。
土台となる土づくりが整えば、天候不順の年でも苗立ちが安定しやすくなります。数年がかりで圃場の地力を高める視点を持ちましょう。
⑤ケイ酸補給で倒伏に強い稲にする
乾田直播では、倒伏対策としてケイ酸の補給が重要です。直播の稲は株元が浅く、根で支える力が弱くなりがちなためです。倒伏すると収量・品質が落ち、コンバイン収穫の効率も大きく下がります。
ケイ酸は、稲の茎や葉を硬くし、株を支える力を高める成分です。病害虫への抵抗性や登熟の向上にも関わるとされています。ケイ酸カルシウム資材の施用や、葉面散布での補給が代表的な方法です。資材の選び方は、ケイカル肥料の使い方と散布時期の解説も参考になります。
アグリスイッチの液体ケイ酸カルシウム肥料「セルマックス」も、倒伏対策としてご活用いただけます。耐倒伏性品種の選定と組み合わせれば、さらに安定するでしょう。
乾田直播に向く圃場と品種
技術だけでなく「どの圃場で、何を作るか」も重要です。圃場と品種の選び方を整理します。
向いている圃場・向かない圃場の条件
乾田直播に向くのは、乾きやすく、かつ水を張りやすい圃場です。矛盾するようですが、乾田期は畑として、入水後は水田として使うためです。
具体的には、排水性が良く、春先に早く乾く圃場が適しています。大区画で均平がとりやすく、用水を計画的に入れられることも条件です。反対に、湧き水のある圃場や極端な漏水田は不向きです。粘土が強すぎて砕土しにくい圃場や、石の多い圃場も苦戦します。
「麦・大豆がよく育つ田んぼ」は、乾田直播の適地であることが多いです。まずは手持ちの圃場を、この基準で棚卸ししてみてください。
品種選びは「苗立ち性」と「耐倒伏性」で考える
品種は、乾田直播への適性で選び直すのが安全です。求められるのは、低温でも出芽しやすい苗立ち性と、倒れにくい耐倒伏性です。収量を狙うなら、多収性も判断基準になります。
実際の産地では「萌えみのり」「ちほみのり」など、直播向けとされる品種が使われています。多収系では「にじのきらめき」「ほしじるし」などが業務用途で注目されています。コシヒカリのような主力品種で取り組む場合は、倒伏への備えがより重要です。対策資材の選び方は、倒伏軽減剤のまとめ記事で解説しています。
導入初年度は、地域の試験場や普及指導センターが推奨する品種を選びましょう。実績のある品種から始めることが、安定への近道です。
乾田直播のコストと収益性
導入判断で気になるのが投資と採算です。金額は地域や規模で大きく変わるため、ここでは考え方の枠組みを紹介します。
導入に必要な機械と初期投資の考え方
乾田直播には、専用の機械体系が必要です。代表的なのは、播種機(グレーンドリル等)、レーザーレベラー、鎮圧ローラーです。トラクタは、既存のものを活用できる場合が多いです。
初期投資はかかりますが、中心となるのは麦・大豆と共用できる機械です。水稲単独ではなく、輪作体系全体で投資を回収する発想が大切です。育苗ハウスや田植機の更新費用が不要になる点も、比較の際に織り込みましょう。
導入初期は、JAや近隣法人との機械の共同利用、播種作業の委託も選択肢です。地域の実証事業や補助事業の情報も、県や市町村に確認してみてください。
生産コストはどれくらい下がるのか
乾田直播のコスト低減効果は、公的資料でも示されています。農林水産省の資料では、10a当たりの生産コストは移植栽培より約1割低いとされています。育苗資材費や育苗の労賃が削減されるためです。
ただし、除草剤のコストは移植より増える傾向があります。苗立ちが不安定な年は、収量減が実質的なコスト増につながるリスクもあります。つまり「経費の削減」と「収量の安定」を両立して、初めて採算が合います。
初年度から利益を狙うより、2〜3年かけて技術を定着させる計画が現実的です。10a当たりのコストと収量を毎年記録し、自経営の損益分岐を把握しましょう。
乾田直播に関するよくある質問
最後に、導入検討の際によくいただく質問にお答えします。
収量や品質は移植栽培より落ちますか?
技術が定着すれば、移植栽培と同等の収量も可能です。実際に、移植と同水準の収量を上げる産地や経営体の事例が報告されています。
ただし、導入初期は苗立ちや雑草の影響で収量が振れやすいのも事実です。全国的にも、収量の安定性は移植より劣るとされてきました。品質や食味は、栽培管理が適切であれば大きな差は出にくいとされています。「乾田直播米」として環境価値を打ち出し、販売に活かす例もあります。食味の指標や高め方は、食味の解説記事をご覧ください。
初年度は収量が2割前後振れても許容できる計画を立て、要因を検証しながら改善していきましょう。
小さい面積からでも始められますか?
はい、小面積からの試験導入がむしろ推奨されます。いきなり全面積を切り替えると、失敗したときの影響が大きすぎるためです。まずは条件の良い圃場を1〜2枚選び、技術を検証しましょう。
ただし、播種機などの機械は、ある程度の面積がないと採算が合いません。小規模のうちは、播種作業を委託する方法も有効です。地域に乾田直播の実施者がいれば、作業受託や機械の共同利用を相談してみてください。
JAや普及指導センターが実証圃を設けている地域もあります。見学や研修から始めるのも、確実な第一歩です。
まず何から準備すればよいですか?
最初の一歩は、圃場の排水対策と情報収集です。乾田直播の準備は、播種前年の秋から始まるためです。
この秋にやるべきことは3つあります。1つ目は、導入候補圃場の選定と排水対策です。2つ目は、収穫後の耕起と均平作業です。3つ目は、県の栽培マニュアルの入手と除草体系の設計です。農研機構や各県が、地域版の乾田直播マニュアルを公開しています。
あわせて、地域の先行事例を見学できると理解が一気に深まります。土づくりや資材選びに迷ったら、専門家への相談も活用してください。
まとめ:乾田直播は「秋の準備」から始めよう
乾田直播は、育苗と田植えを省略できる省力・低コストの稲作技術です。労働時間は約2割、生産コストは約1割の削減が見込めるとされています。作期分散や輪作との相性も良く、規模拡大の切り札になり得ます。
一方で、雑草対策・苗立ちの確保・漏水対策という3つの課題への備えが不可欠です。成否を分けるのは、秋の排水対策と均平、除草体系の設計、そして土づくりです。まずは条件の良い圃場で小さく始め、経験を積みながら面積を広げましょう。
アグリスイッチでは、乾田直播に取り組む生産者の土づくりや資材選びをサポートしています。苗立ちの安定や倒伏対策にお悩みの方は、LINEからお気軽にご相談ください。どの資材が合うか迷う場合は、3分でできる肥料・資材マッチング診断もご活用ください。
監修者
人見 翔太 Hitomi Shota

滋賀大学教育学部環境教育課程で、環境に配慮した栽培学等を学んだ後、東京消防庁へ入庁。その後、株式会社リクルートライフスタイルで広告営業、肥料販売小売店で肥料、米穀の販売に従事。これまで1,000回以上の肥料設計の経験を活かし、滋賀県の「しがの農業経営支援アドバイザー」として各地での講師活動を行う。現在は株式会社リンクにて営農事業を統括している。生産現場に密着した、時代にあった実践的なノウハウを提供致します。









