
さつまいもは「やせた土地でも育つ」「肥料をあまり必要としない」といわれることがあります。そのため、ほかの作物に比べて肥料を少なくすればよい、あるいは肥料を与えなくてもよいと考えられることもあります。
しかし、さつまいもに肥料が不要というわけではありません。
さつまいもは、茎葉を育てて光合成を行い、その光合成産物を地下部の塊根(いも)へ送り込むことで収量をつくる作物です。実際、多収を得るには相当量の窒素・リン酸・カリを吸収しており、地力だけでは必要量を賄えない圃場もあります。一方で、窒素が多すぎると茎葉ばかりが繁茂する「つるぼけ」を起こし、塊根の肥大が進みにくくなる場合があります。
そのため重要なのは、「肥料を多くするか少なくするか」ではなく、土壌や品種、生育段階を見ながら、必要な養分を過不足なく供給することです。
この記事では、さつまいもの肥料の基本から、元肥・追肥、つるぼけ、土づくり、塊根が大きくならない場合の確認ポイントまで、生産者向けに整理して解説します。
さつまいもの肥料はどう考える?施肥の基本

まず、さつまいもに必要な肥料の考え方と、窒素・リン酸・カリの役割、施肥量を決める際の基本を整理します。
さつまいもにも肥料は必要
さつまいもは比較的やせた土地でも生育できる作物ですが、「肥料を必要としない作物」と考えるのは適切ではありません。
収量を増やすには、まず葉や茎をつくって光合成量を確保し、そこで生産した炭水化物を塊根へ転流・蓄積する必要があります。サツマイモの収量は、乾物生産量と、その乾物が塊根へどれだけ分配されたかによって大きく左右されます。
つまり、地上部の生育が不足しても収量は上がりませんが、反対に茎葉だけが旺盛でも十分な収量にはつながりません。
「肥料を効かせる」だけではなく、茎葉をつくることと、塊根を形成・肥大させることのバランスを取るのが、さつまいもの施肥を考える基本です。
窒素・リン酸・カリの役割
さつまいもの施肥では、特に窒素・リン酸・カリのバランスが重要です。
| 肥料成分 | さつまいもでの主な役割 | 注意点 |
| 窒素 | 葉面積の拡大、初期生育、根の発達 | 多すぎると茎葉への乾物分配が増え、つるぼけにつながりやすい |
| リン酸 | 初期生育や発根を支える | 黒ボク土などリン酸が固定されやすい土壌では不足に注意 |
| カリ | 塊根の形成・肥大、塊根への乾物分配を支える | 多ければ多いほどよいわけではなく、土壌中のカリ量を確認する |
窒素は葉面積を確保するために必要ですが、葉身の窒素濃度が高すぎると、つくられた乾物が茎葉の生長に使われやすくなり、塊根への分配率が低下します。一方、カリは塊根形成や肥大を促す方向に働きます。ただし、窒素が多い圃場でカリだけを大量に施しても、つるぼけを完全に防げるわけではありません。
リン酸については、吸収量そのものは比較的少ないものの、火山灰由来の黒ボク土などでは土壌中に固定されて吸収されにくくなるため、圃場条件によっては施用効果が高くなります。
したがって、「さつまいもにはカリ肥料がおすすめ」といった一律の選び方ではなく、土壌中に何があり、何が不足しているかを確認して肥料を選ぶことが重要です。
肥料の量は土壌や品種によって変わる
さつまいもの施肥量は、全国一律には決められません。
同じ窒素施肥量でも品種によって反応が異なり、土壌の種類によっても窒素吸収量は変化します。ベニアズマとべにはるかを異なる黒ボク土で栽培した試験でも、品種や土壌によって栽培期間中の窒素吸収量に差が確認されています。
また、長年堆肥を投入している圃場では、窒素やカリがすでに蓄積している場合があります。
施肥量を決めるときは、地域の施肥基準を基本としながら、土壌診断、前作、堆肥の施用履歴、品種、目標収量などを確認する必要があります。
さつまいもの元肥と追肥|与え方とタイミング
元肥と追肥は、決まった量や時期を当てはめるのではなく、土壌の養分状態と生育を見ながら組み立てることが重要です。
元肥は土壌の状態を見て決める
さつまいもの元肥でまず確認したいのが、圃場にすでにどれだけ養分があるかです。
土壌中の可給態窒素が多い圃場では、元肥として窒素を追加することで過繁茂を助長する可能性があります。反対に、リン酸やカリが不足している圃場では、必要な成分を補わなければ初期生育や塊根形成に影響することがあります。
化学肥料の基肥は、無マルチ栽培では全面施用、マルチ栽培ではうね内施肥などが行われています。
ただし、重要なのは施肥方法そのものより、その圃場に必要な成分量を把握しているかです。
「毎年この量を入れているから」という理由だけで同じ施肥を繰り返すのではなく、少なくとも定期的に土壌診断を行い、残存している窒素、リン酸、カリ、pHなどを確認しておきたいところです。
追肥が必要になるケースと時期
追肥についても、「植え付けから○日後に必ず行う」という考え方ではなく、生育状態や元肥、地力を踏まえて判断します。
さつまいもの窒素吸収量は、挿し苗後30〜90日頃に大きく増える傾向がありますが、品種や土壌によって吸収量は異なります。また、塊根が肥大する時期に窒素が過剰になると、地上部へ養分が偏りやすくなります。
そのため、生育が弱いからといってすぐに窒素を追肥するのではなく、葉色や茎葉量だけでなく、土壌水分、根の状態、日照、地温なども確認することが大切です。
追肥を行う場合も、「何を足すか」より先に、本当に養分不足が原因なのかを確認しましょう。
肥料の与えすぎにも注意する
さつまいもでは、肥料不足だけでなく過剰施肥にも注意が必要です。
特に窒素が過剰になると、茎葉の生育が旺盛になり、塊根への乾物分配が低下して「つるぼけ」につながることがあります。カリも塊根形成・肥大に重要ですが、過剰な圃場では丸いもの発生など品質への影響が報告されています。
「不足しているかもしれないから追加する」という施肥を繰り返すと、土壌中に養分が蓄積していきます。
元肥・追肥ともに、不足と過剰の両方を見ることがさつまいもの施肥管理では重要です。
生育段階で変わるさつまいもの栄養管理

さつまいもの肥料を考える際は、生育段階にも注目する必要があります。
食用部分である塊根は、最初から「いも」として発生するわけではありません。まず不定根が伸び、その一部が塊根へ分化し、さらに肥大してデンプンや糖を蓄積していきます。
植え付け〜活着・発根では、苗を活着させて根を確保し、光合成を行う葉面積を増やすことが重要です。この時期は窒素やリン酸を適切に吸収させるとともに、カリを確保して塊根形成につなげます。
塊根形成期では、不定根の一部を塊根へ正常に分化させることが重要になります。肥料だけでなく、地温、水分、土壌の硬さや通気性も影響します。
塊根肥大期では、葉でつくられた光合成産物を地下部へ効率よく分配する必要があります。窒素が多すぎると茎葉への分配が増えやすいため、窒素過剰を避けながら、塊根形成・肥大に必要なカリなどを適切に吸収させることがポイントです。
また、植え付け直後の根の発達には地温も関係します。正常な発根の好適地温は30℃付近とされる一方、35℃以上の高地温では発根や塊根肥大が抑制されることがあります。
肥料だけを見るのではなく、「今、作物がどの生育段階にいるのか」まで含めて管理することが大切です。
さつまいものつるぼけはなぜ起こる?
つるぼけは窒素過多だけでなく、塊根形成を妨げる土壌・気象条件も関係するため、原因を切り分けて考える必要があります。
窒素過多はつるぼけの原因になる
さつまいもの「つるぼけ」とは、茎葉は旺盛に生育しているのに、塊根が十分に形成・肥大しない状態を指します。
代表的な原因が窒素過多です。
窒素は葉をつくるために不可欠ですが、体内の窒素濃度が高くなりすぎると、生産された乾物が茎葉の形成に使われやすくなり、塊根への分配が低下します。
特に、もともと地力が高い圃場や、堆肥を長年投入してきた圃場では、肥料として窒素を多く施していなくても、土壌から供給される窒素によって過繁茂になる可能性があります。
「窒素肥料を何kg入れたか」だけではなく、土壌から供給される窒素も含めて考える必要があります。
窒素以外の土壌・気象条件も確認する
ただし、つるぼけをすべて窒素過多で説明することはできません。
日照不足になると乾物生産が低下し、特に塊根重への影響が大きくなります。塊根肥大期の日照不足は、つるぼけを起こしやすくする要因の一つです。また、多すぎる降雨や過湿条件では、生育中〜後期の塊根肥大が抑制されることがあります。
苗の状態、土質、地温、土壌水分なども塊根形成に関係します。
「つるが茂っている=肥料を入れすぎた」とすぐ判断するのではなく、塊根が正常に形成できる土壌・気象条件だったかも確認しましょう。
つるを切る前に原因を見極める
つるぼけしたときに「つるを切れば、いもへ養分が回るのではないか」と考えることがあります。
しかし、地上部の葉は光合成を行い、塊根を肥大させるための炭水化物を生産する重要な器官です。生育前期は葉を中心とした光合成器官が発達し、その後、光合成産物が地下部へ移行・蓄積して塊根が肥大していきます。
原因を確認せずにつるを減らすと、光合成量そのものを落とす可能性があります。
まずは窒素過多、土壌水分、日照、地温、根域環境などを確認し、なぜ地上部と地下部のバランスが崩れているのかを見極めることが先です。
さつまいもの土づくり|pH・堆肥・水はけを確認

さつまいもの土づくりでは、肥料成分だけでなく、pHや有機物、排水性、土壌の硬さまで含めて根域環境を整えることが重要です。
pHと石灰の考え方
さつまいもは比較的幅広いpHの土壌で生育できる作物です。そのため、「酸性だからとりあえず石灰を入れる」と考えるのではなく、土壌診断をもとに施用の必要性を判断します。
石灰質資材を連用すると土壌pHが上がりすぎることがあります。高pH条件では立枯病が発生しやすくなるほか、デンプン含量が低下する可能性もあり、技術資料ではpH(H2O)6以上の畑では石灰質資材を控えることが望ましいとされています。
したがって、苦土石灰などを毎年慣行的に施すのではなく、現在のpHや石灰含量を確認して判断しましょう。
堆肥・鶏糞は肥料成分まで考える
堆肥は土壌の物理性改善や有機物補給に役立ちますが、単なる「土づくり資材」ではありません。
家畜糞堆肥には窒素、リン酸、カリなどの肥料成分が含まれており、畜種や副資材によって含有量も異なります。そのため、堆肥や鶏糞を使う場合は、その分の肥料成分も施肥設計に含めて考える必要があります。
実際、豚糞堆肥の過剰施用では、つるぼけによる塊根肥大不足が起きる可能性が指摘されています。また、未熟堆肥を植え付け直前に施用すると、塊根肥大の遅れや皮色・食味への悪影響が起こる場合があります。
堆肥や鶏糞を使う場合も、化学肥料とは別枠で考えるのではなく、圃場へ投入する養分全体の一部として管理することが重要です。
水はけと土壌の硬さも塊根形成に影響する
さつまいもの土づくりでは、肥料成分と同じくらい土壌の物理性も重要です。
青果用さつまいもでは、膨軟で通気性がよく、適度な水分を保てる土壌が適しています。土壌が締まりすぎると塊根の肥大が妨げられ、変形や皮色低下につながることがあります。
特に水田転換畑では、耕盤によって下層への水の浸透が悪くなり、湿害や収量低下が起こりやすくなります。
また、うね立て時の土壌が乾燥しすぎると活着不良につながり、反対に過湿状態でうねをつくると土が締まり、通気性が低下して塊根肥大を妨げる場合があります。
「肥料を入れているのに育たない」というときほど、排水性や土壌の硬さまで確認してみましょう。
さつまいもが大きくならない・太らない原因
さつまいもが大きくならない場合は、塊根そのものが形成されていないのか、形成後の肥大が進んでいないのかを分けて確認すると、原因を探りやすくなります。
活着や塊根形成がうまく進んでいない
さつまいもが大きくならないときは、まず**「塊根は正常に形成されたのか」**を考えます。
さつまいもの収量は、単純に見ると「いも数×1個当たりの重さ」で決まります。しかも、いも数は比較的早い生育段階で決まり、その後は1個当たりの重量が増えていきます。
つまり、収穫時にいもが少ない場合と、「数はあるが小さい」場合では、確認すべきポイントが異なります。
植え付け直後の乾燥による活着不良、高地温、過湿、締まった土壌などによって不定根の発達や塊根への分化がうまく進まなければ、その後に肥料を追加しても十分な収量につながらない可能性があります。
塊根形成後の肥大が進んでいない
塊根そのものは形成されているものの、小さいままの場合は、肥大期の条件を確認します。
塊根収量は、作物全体でつくられる乾物量と、その乾物が塊根へ分配される割合によって決まります。
窒素が過剰なら茎葉へ分配されやすくなり、日照不足ならそもそもの乾物生産量が減ります。乾燥や過湿、高地温なども塊根肥大を妨げる原因になります。
「いもを太らせる肥料」を探す前に、光合成できる葉が確保されているか、塊根へ養分を送れる状態か、根域環境に問題がないかを確認することが重要です。
肥料だけでなく日照・水分・根域も確認する
葉色が薄い、茎葉の生育が弱いといった症状があれば肥料不足を疑いたくなりますが、生育不良の原因が必ず養分不足とは限りません。
さつまいもの塊根に生じる生理障害にも、気温や降雨、土壌の温度・水分・硬度、栄養バランスなど複数の要因が関係します。
特に根が傷んでいたり、過湿によって根域の通気性が低下していたりすれば、土壌に肥料成分があっても十分に吸収できない可能性があります。
生育不良を見つけたら、肥料を追加する前に、土壌・根・水分・気象・養分を切り分けて原因を探ることが大切です。
まとめ:さつまいもの施肥は圃場の状態に合わせて調整する
さつまいもの施肥では、「この肥料をこの時期にこの量」という固定的な処方より、圃場の条件を確認して過不足を調整することが重要です。
施肥を決めるときは、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
- 品種・作型・目標収量
- 地域の施肥基準
- 土壌診断結果
- 前作と堆肥の施用履歴、残肥
- 現在の茎葉や葉色、塊根の生育状態
- 排水性、土壌硬度、根域環境
- 追加施肥または減肥の必要性
とくに、長年同じ圃場で栽培している場合や、堆肥を継続的に使っている場合は、過去の施肥履歴が現在の土壌養分に影響しています。毎年同じ施肥量を続けるのではなく、土壌診断の数値と収量・品質、生育状況を照らし合わせながら見直していくことが大切です。
さつまいもは、窒素を抑えればよい、カリを増やせばよい、という単純な作物ではありません。活着、塊根形成、塊根肥大という生育の流れに沿って、土壌・水分・地温・日照・養分のバランスを見ていくことで、施肥の改善点を見つけやすくなります。
圃場ごとの施肥設計に迷う場合は、まず土壌分析を行い、地域の基準と実際の生育を比較しながら、必要な養分と土壌管理を整理していきましょう。
監修者
人見 翔太 Hitomi Shota

滋賀大学教育学部環境教育課程で、環境に配慮した栽培学等を学んだ後、東京消防庁へ入庁。その後、株式会社リクルートライフスタイルで広告営業、肥料販売小売店で肥料、米穀の販売に従事。これまで1,000回以上の肥料設計の経験を活かし、滋賀県の「しがの農業経営支援アドバイザー」として各地での講師活動を行う。現在は株式会社リンクにて営農事業を統括している。生産現場に密着した、時代にあった実践的なノウハウを提供致します。






