
「今年こそは、倒伏を防ぎたい!」そう考えている稲作農家の方も多いのではないでしょうか?
台風や強風が吹き荒れるたびに稲が倒れ、収穫量が減少してしまう。倒伏が原因で収穫作業が難しくなり、品質も落ちてしまう…。そんな悩みを抱える農家の方にとって、倒伏対策は避けて通れない重要な課題です。
特に、コシヒカリのように穂が重く、茎が細いために倒伏しやすい品種は、適切な管理をしないと大きな損失につながることもあります。しかし、正しい知識と技術を身につけることで、倒伏リスクを最小限に抑え、高収量かつ高品質なお米を育てることが可能です。
本記事では、倒伏の原因や種類を詳しく解説しながら、具体的な倒伏防止策を紹介します。施肥のポイント、病害虫対策、土壌改良の方法など、実践しやすいノウハウを分かりやすくまとめています。
「倒伏を防ぎ、安定した収穫を実現したい!」そんな農家の皆さんのために、科学的根拠に基づいた対策を徹底解説。最後まで読めば、来シーズンに向けた強い稲作のヒントが得られるはずです。ぜひ参考にしてみてください!
倒伏が収量と品質に与える影響
倒伏は稲の生産性に深刻な影響を及ぼします。収量の低下だけでなく、品質の劣化にもつながり、最終的には農家の経営にも大きな打撃を与えかねません。
ここでは、倒伏がもたらす具体的な影響と、その結果どのような事態に陥るのかを詳しく解説します。
倒伏による収穫作業の遅れ
倒伏が発生すると、コンバインによる収穫作業が大幅に困難になります。通常であれば直立した稲をスムーズに刈り取ることができますが、倒伏した稲は地面に絡みつき、刈り取りに時間がかかるだけでなく、機械の目詰まりや故障のリスクも高まります。
また、収穫作業が遅れると、稲が過熟状態になり、粒が割れやすくなったり、品質が低下したりする可能性が高まります。
特に、天候が不安定な時期に収穫の遅れが生じると、雨による浸水や湿気によるカビの発生が懸念されます。こうした影響により、適期収穫ができず、全体の収量が減少してしまうことになります。
最終的にどうなるか?
- 収穫作業に通常の2倍以上の時間がかかることも
- コンバインの効率が下がり、燃料コストや人件費が増大
- 過熟により品質低下し、収穫した米の格付けが下がる
- 収穫の遅れにより、次の作付けのスケジュールにも影響
食味低下と品質劣化のリスク
倒伏した稲は、土壌や水分に接触しやすくなり、品質の低下を招きます。例えば、倒伏した稲が長時間水に浸かると、籾が吸水して発芽してしまうことがあります。発芽米は食味が悪く、市場価値が著しく低下します。
さらに、地面に接触した籾にはカビが生えやすくなり、カビ毒(マイコトキシン)のリスクも高まります。カビが繁殖すると、米の変色や異臭の原因となり、食味の悪化につながります。また、カビ毒が一定の基準を超えると、商品としての販売ができなくなる可能性もあります。
また、倒伏した稲は、地面の微生物や雑菌にさらされるため、精米後の白度が低下し、見た目の品質も悪くなることがあります。特に市場では、白く美しい米が好まれるため、販売価格の低下は避けられません。
最終的にどうなるか?
- 発芽米やカビ米が増え、商品価値が大幅に低下
- 品質基準を満たせず、等級が下がるor食用として販売できないケースも
- 市場での評価が下がり、契約価格が安くなるor販売先が限られる
- 消費者の満足度が低下し、ブランド価値の低下につながる
倒伏がもたらす経済的損失
倒伏が発生すると、収量減少・品質劣化・作業コスト増大の三重苦に陥ります。実際に倒伏による損失が発生した農家では、通常の1.5〜2倍のコストがかかるとされています。
また、品質が低下した米は、通常の市場価格よりも大幅に安い価格での取引を強いられます。
例えば、一等米として販売できるはずだったものが、二等米や規格外米として扱われると、10〜30%の価格下落が発生することもあります。
さらに、消費者の評価が下がると、翌年以降の販売にも悪影響を及ぼし、長期的なブランド価値の低下につながる恐れがあります。
倒伏の種類について

稲の倒伏にはいくつかの種類があり、それぞれ発生する原因や状況が異なります。適切な対策を講じることで、倒伏のリスクを軽減し、安定した収穫を実現できます。以下に代表的な倒伏の種類を紹介します。
捻挫型倒伏
捻挫型倒伏は、稲の茎の途中がねじれたり折れたりして倒れる現象です。これは、強風や長雨による物理的な負荷がかかることで発生しやすくなります。
特に、茎が細く柔らかい状態では、風の力に耐えきれずに茎の途中が曲がってしまいます。また、窒素肥料を過剰に施用すると、稲が過繁茂(かはんも)になり茎が軟弱化し、捻挫型倒伏のリスクが高まります。
この倒伏を防ぐには、まず適切な施肥管理が重要です。窒素肥料を必要以上に与えず、リン酸やカリウムをバランスよく施用することで、茎を太く丈夫にすることができます。
また、株間を適切に保ち、風通しをよくすることで、稲が密集しすぎるのを防ぎ、過繁茂を抑えます。さらに、強風が予想される地域では、防風ネットの設置や、倒伏しにくい品種の選定も有効な対策となります。
わん曲型倒伏
わん曲型倒伏は、稲が曲がるように倒れる現象で、下位節間(茎の下部の節と節の間)が過度に伸びることで起こります。
日照不足や密植によって茎が徒長しやすくなり、強い風や雨の影響を受けると、茎が耐えきれずに曲がって倒伏します。特に、長稈(草丈が長い)品種では発生しやすい傾向があります。
わん曲型倒伏を防ぐためには、まず草丈管理が重要です。日照不足を防ぐため、適切な植え付け間隔を確保し、密植を避けることが大切です。
また、節間伸長抑制剤を適切なタイミングで使用することで、茎の過度な伸長を抑え、わん曲型倒伏を軽減できます。加えて、肥効のバランスを考えた施肥計画を立て、特に生育初期の窒素肥料の与えすぎを防ぐことがポイントになります。
転び型倒伏
転び型倒伏は、稲が根元から持ち上がり、根ごと倒れる現象です。これは、主に根腐れや土壌の軟弱化が原因で発生します。例えば、長期間の過湿状態が続くと、根が十分に酸素を吸収できず、腐敗してしまいます。
その結果、稲を支える力が弱まり、強風や雨の影響で根元から倒れてしまうのです。また、排水不良の田んぼでは土壌が軟らかくなり、稲の根がしっかり張れずに倒伏しやすくなります。
転び型倒伏を防ぐには、水管理の見直しが欠かせません。特に「中干し」を適切に行うことで、土壌を適度に乾燥させ、根の発達を促すことが重要です。また、土壌改良を行い、排水性を高めることで、根腐れのリスクを減らすことができます。
有機質肥料を投入し、土壌の団粒構造を改善することも有効な対策です。さらに、過湿状態が続きやすい圃場では、排水溝を適切に整備し、雨水が溜まらないようにすることが求められます。
倒伏を防ぐためには、まず自分の圃場でどのタイプの倒伏が発生しやすいのかを把握し、それに応じた対策を講じることが大切です。適切な施肥管理、水管理、栽培方法を組み合わせることで、倒伏リスクを最小限に抑え、安定した収穫と高品質な米の生産を実現することができるでしょう。
倒伏発生の原因について
稲の倒伏は、生育環境や管理方法の影響を大きく受けます。倒伏が発生する原因を正しく理解することで、効果的な防止策を講じることができます。
ここでは、倒伏を引き起こす主な要因について詳しく解説し、それぞれの対策も紹介します。
倒伏を引き起こす栄養過多とその影響
倒伏の原因の一つとして、過剰な施肥が挙げられます。特にチッ素肥料を過剰に施用すると、稲は徒長しやすくなり、茎が細くなって倒伏のリスクが高まります。
これは、チッ素が植物の成長を促進するものの、過剰に吸収されると茎や葉が軟弱になってしまうためです。
例えば、コシヒカリなどの倒伏しやすい品種では、栄養バランスを考慮し、リン酸やカリウムの比率を適切に調整することが必要です。
リン酸は根の発育を促し、カリウムは茎を丈夫にする役割があるため、これらの栄養素を適切に施用することで倒伏を防ぐことができます。
具体的な対策:
- チッ素の施肥量を適正化し、葉色を観察しながら追肥を管理する。
- リン酸・カリウムを多めに施用し、根の発達を促進して茎を強化する。
- 土壌診断を行い、施肥設計を見直すことで過剰な栄養供給を防ぐ。
根腐れや紋枯病のリスク
倒伏を引き起こすもう一つの要因として、病害による茎や根の弱体化があります。特に、根腐れや紋枯病が発生すると、茎が十分な強度を保てなくなり、簡単に倒れてしまいます。
根腐れは、過湿状態が続くと発生しやすく、根が酸欠状態になることで腐敗が進みます。
例えば、長雨が続いた後や排水性の悪い田んぼでは、根が十分に呼吸できず、弱ってしまうことがあります。これにより、稲が地面にしっかり固定されず、わずかな風でも倒伏してしまいます。
紋枯病は、茎に白い斑点や褐色の病斑が現れ、進行すると茎が腐って折れやすくなる病害です。この病気は高温多湿の環境で発生しやすく、密植によって風通しが悪くなると拡がりやすくなります。
具体的な対策:
- 適切な水管理を行い、中干しを適宜実施することで、根腐れを予防する。
- 排水性を高めるために暗渠(あんきょ)排水の整備や土壌改良を行う。
- 耐病性の高い品種を選ぶことで、病害の影響を軽減する。
- 紋枯病の発生を早期発見し、防除剤を適切に散布する。
台風などの気象要因
倒伏は、台風や強風、豪雨などの自然環境によっても発生します。特に、稲穂が重くなり始める登熟期に強い風が吹くと、稲が根元から倒れることが多くなります。また、長時間の豪雨によって土壌が軟らかくなると、根の支持力が低下し、倒伏しやすくなります。
例えば、2019年の台風15号(千葉県)では、多くの水田で稲が倒伏し、収穫作業が大幅に遅れる被害が発生しました。これは、台風の強風に加え、事前の排水対策が不十分だった圃場で特に被害が拡大したと考えられています。
具体的な対策:
- 倒伏に強い短稈(たんかん)品種を選ぶことで、風の影響を受けにくくする。
- 風の強い地域では防風ネットを設置し、稲を直接強風にさらさないようにする。
- 適切な水管理を行い、圃場の排水性を高めることで、台風や豪雨による土壌軟化を防ぐ。
倒伏の防止や対策について
倒伏を防ぐためには、施肥管理・栽培技術・病害虫対策などを組み合わせた総合的な対策が必要です。
栽培技術で倒伏リスクを軽減する方法
稲を倒伏しにくくするためには、適切な草丈管理が重要です。特に、光合成を活発にし、炭水化物の蓄積を促す環境作りが求められます。炭水化物は、稲の茎を太く丈夫にするため、十分に供給されることで倒伏を防ぐ効果があります。
具体的な方法:
- 適切な間隔で植え付けを行い、密植を避けることで風通しを良くする。
- 茎がしっかり成長するよう、日照を確保するための田植え時期を調整する。
- 中干しを適切に行い、根張りを強化することで、風や雨に耐えられる強い茎を育てる。
施肥のポイント
倒伏を防ぐためには、施肥のバランスを整えることが重要です。特に、窒素・リン酸・カリウムの比率を適切に調整することで、倒伏しにくい稲を育てることができます。
MリンPKの活用:
MリンPKは、リン酸とカリウムを多く含み、稲の成長バランスを整える効果があります。特に、流水施肥を活用することで、均一な肥料分配が可能になり、倒伏リスクの軽減につながります。
病害虫の防除で茎を強くする
病害虫によって茎が弱ると、倒伏しやすくなります。特に、ウンカやニカメイガは稲の養分を吸い取るため、生育が不安定になり、倒伏の原因になります。
対策:
- 定期的に圃場を巡回し、病害虫の発生を早期に発見する。
- 適切な農薬を使用し、紋枯病や害虫の被害を未然に防ぐ。
- 生産者間で病害虫の発生情報を共有し、圃場全体で防除を行う。
倒伏に強い水稲を育てるための基盤づくり
倒伏を防ぎ、健全な稲を育てるためには、適切な土壌管理や有機質肥料の活用が欠かせません。これらの取り組みによって、稲の根張りを強化し、茎を太く丈夫に育てることができます。次に、倒伏しにくい水稲を育てるための具体的な基盤づくりの方法を詳しく紹介します。
土壌の改良と有機質肥料の活用
稲の健全な生育には、土壌の環境を整えることが重要です。特に、炭水化物の蓄積を促す土壌作りを意識すると、倒伏に強い稲を育てることができます。
土壌に有機質を適切に加えることで、微生物の活動が活発になり、稲の根が養分を吸収しやすい環境が整います。有機質肥料には、稲の根の発育を促し、茎を強くする効果も期待できます。
有機肥料の活用ポイント
- 堆肥の投入
- 堆肥は土壌の保水性や通気性を向上させる効果があり、根腐れを防ぎながら根張りを強化します。
- 特に牛ふん堆肥や鶏ふん堆肥は、適度な窒素・リン酸・カリウムを含み、稲の生育をバランスよく促します。
- 堆肥の施用量は、10a(1反)あたり1〜2t程度が目安。
- 稲わらの再利用
- 収穫後に出る稲わらを土壌にすき込むことで、微生物の働きを促し、土壌の団粒化を進めます。
- 分解促進剤(セルロース分解菌)を使用すると、分解が早まり、翌年の栽培に適した土壌が整います。
- 緑肥作物の利用
- イタリアンライグラスやクローバーなどの緑肥作物を育てて鋤き込むことで、土壌の有機物含量が増加し、地力が向上します。
- これにより、根の活力が増し、倒伏しにくい水稲の生育が可能になります。
炭水化物の蓄積を促す土壌管理
倒伏を防ぐためには、稲の茎が短く太くなるような生育管理が必要です。そのためには、炭水化物の蓄積を意識した土壌作りが重要になります。
炭水化物が適切に蓄積されると、稲の節間が短く、茎が太くなり、倒伏しにくくなります。一方で、炭水化物が不足すると、節間が長くなり、茎が軟弱化し、倒伏しやすくなります。
具体的な管理方法
- 土壌pHの適正化
- pH6.0〜6.5が最適とされており、酸性が強すぎる場合は石灰資材(苦土石灰や消石灰)を施用してpHを調整します。
- 酸性土壌では根の伸長が悪くなり、倒伏リスクが高まるため、定期的な土壌分析を行い、適正なpH管理を行いましょう。
- 微生物を活用した土壌改良
- 乳酸菌や放線菌を含む資材(バイオスティミュラント)を投入することで、有害菌の抑制と炭水化物の蓄積を促すことができます。
- 腐植を増やし、根の発達を助けることができるため、倒伏防止に有効です。
水稲わらのリサイクルと有効活用
収穫後に発生する稲わらをそのまま廃棄せず、土壌改良資材として活用することで、倒伏に強い土壌を作ることができます。
稲わらは、セルロースやリグニンなどの有機成分を多く含み、土壌の団粒構造を改善する働きがあります。また、適切に分解させることで、翌年の土壌の肥沃度を高めることができます。
稲わらの有効活用法
- 細断して鋤き込む
- 稲わらを5cm以下にカットして鋤き込むことで、微生物の働きにより早く分解されます。
- 分解促進剤を併用することで、土壌中での腐熟を促進できます。
- 堆肥化して使用
- 稲わらに鶏ふんや米ぬかを加え、2〜3ヶ月かけて堆肥化することで、翌年の肥料として再利用できます。
流水施肥の実践方法
倒伏を防ぐためには、肥料を適切に均一に施用することが重要です。そのために有効な方法が「流水施肥」です。
流水施肥は、水の流れを利用して、肥料を均一に圃場全体に行き渡らせる技術で、特にMリンPKの施用に適しています。
具体的な手順
- 水田に0.5〜1.5cmの浅水を張る
- 水深を浅くすることで、肥料が均一に行き渡りやすくなります。
- 水口付近でMリンPKを投入
- 水の流れに乗せて肥料を分散させることで、施肥ムラを防ぐことができます。
- 水深を10〜12cmに調整しながら施肥を続ける
- 最終的に水を深めにすることで、肥料がしっかり土壌に浸透します。
流水施肥を行うことで、肥料が均一に行き渡り、過剰な施肥による軟弱化を防ぐことができます。
まとめ:倒伏を防ぐ稲作技術で高収量と高品質を実現
水稲の倒伏は、収量や品質の低下を招く大きな課題です。しかし、適切な施肥計画や栽培技術、病害虫の防除などを実施することで、そのリスクを大幅に軽減できます。特に、コシヒカリのような倒伏しやすい品種は、作り手の技術が収量や品質に大きな影響を与えるため、日々の管理が重要です。
本記事では、倒伏の種類や原因、具体的な対策、さらに基盤づくりのポイントを詳しく解説しました。炭水化物の蓄積を促進し、茎を強化することで、倒伏に強い稲を育てることが可能です。また、MリンPKや節間伸長抑制剤などの使用も検討し、効率的かつ効果的な倒伏対策を実践しましょう。
倒伏を防ぐための知識と技術を身につけ、高品質なお米を安定して生産する一助となれば幸いです。ぜひこの記事を参考に、次の栽培シーズンに備えてください!
監修者
人見 翔太 Hitomi Shota

滋賀大学教育学部環境教育課程で、環境に配慮した栽培学等を学んだ後、東京消防庁へ入庁。その後、株式会社リクルートライフスタイルで広告営業、園田商事株式会社で肥料、米穀の販売に従事。これまで1,000回以上の肥料設計の経験を活かし、滋賀県の「しがの農業経営支援アドバイザー」として各地での講師活動を行う。現在は株式会社リンクにて営農事業を統括している。生産現場に密着した、時代にあった実践的なノウハウを提供致します。