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稲作の水管理とは?生育時期ごとの方法と台風対策まで解説

稲作において「水管理」は、収量や品質に直結する極めて重要な作業です。田んぼに水を入れる、抜く、ためる、乾かすといった行為一つひとつが、苗の根の発育や病害虫の発生、倒伏のリスクに影響を与えます。とくに近年は気候の変動により、降水量や気温の不安定化が進んでおり、水のコントロールがより難しくなっています。

本記事では、水稲の各生育ステージごとに適した水管理の方法とその目的、また、台風など自然災害への対策、自動化技術の導入事例までを具体的に解説していきます。

なぜ稲作に水管理が必要なのか?基本の役割と目的

水田における水管理は、ただ水を張るだけではありません。苗の活着や分げつの促進、根の呼吸環境の維持、雑草や害虫の抑制といった複数の目的を持ちます。稲は水に強い作物ですが、常に水を与えていると酸素不足になり、根腐れや病気の原因となることもあります。

つまり、水を「与える・止める・抜く」のタイミングと期間が極めて重要です。水管理が適切であれば、稲は丈夫に育ち、収量や食味も向上します。逆に管理を怠れば、収穫量の減少や品質の低下、病害の発生リスクが高まるため、計画的な対応が不可欠です。

水管理を行う前に必要な「ほ場準備」

効果的な水管理を行うためには、田植え前の「ほ場整備」が不可欠です。まずは、田面(たづら)の均平化を行い、水の偏りを防ぎます。これにより、水深が均一になり、苗の生育ムラが減少します。また、水口や排水口の設置と確認も重要です。

排水性の悪いほ場では、暗渠排水の整備を検討することで、水はけの改善が図れます。ほ場の周囲の畦(あぜ)も補強しておくと、外部からの水の流入や漏水を防止できます。これらの準備を整えておくことで、田植え後の水管理がスムーズに行えるようになります。

生育ステージに応じた稲作の水管理方法

水稲は成長段階ごとに水の必要量と管理法が異なります。そのため、各ステージに応じた適切な対応が求められます。活着期には深水管理、分げつ期には浅水や中干し、幼穂形成期には間断潅水、出穂・登熟期には湛水や間断潅水が適しています。

収穫前には根を強化するために再び間断潅水を行います。これらの対応をすることで、根の健全な成長を促進し、倒伏や病害を防ぎ、品質と収量の向上につなげることができます。以下に各時期の管理ポイントを詳しく紹介します。

【活着期】深水管理で苗をしっかりと根付かせる

田植え後すぐの活着期は、苗の根が十分に張っていないため、風や水流で倒れやすくなっています。この時期には5〜7cmの深水で管理し、水の浮力を利用して苗を安定させます。

また、水が苗の温度を安定させる効果もあり、初期成育の安定に役立ちます。ただし、長く深水を続けすぎると酸欠状態となり、根の生育を阻害することがあるため、活着が確認できた段階で浅水に切り替えることが重要です。

【分げつ期①】浅水管理で分げつを促進させる

分げつ期初期は、稲の茎数を増やす大切な期間です。水深を2〜3cm程度の浅水に保つことで、根に酸素が供給されやすくなり、分げつが活発に進みます。

この時期に過剰な水を与えると酸欠や病害の原因になるため、毎日の水位チェックが不可欠です。また、気温や日照条件によって成長に差が出やすいため、こまめな調整が必要です。

【分げつ期②】中干しで過剰な分げつを防止

分げつが進んだ後は、過剰な分げつによる栄養分の分散や倒伏を防ぐため「中干し」を行います。これは田んぼを一時的に乾かし、稲にストレスを与えることで根を深く張らせ、地耐力を高める技術です。

通常は7〜10日間を目安に実施します。中干しにより余分な分げつが自然に淘汰され、結果として穂の充実につながる茎数が残ります。

【幼穂形成期】間断潅水で健全な地力を維持

幼穂形成期は、将来の収量や品質に直結する重要な時期です。この段階では「間断潅水」が適しています。一定期間水を張り、その後排水して乾かすというサイクルを繰り返すことで、根に酸素を供給しつつ、地力の維持を図ります。また、田面のひび割れによって酸素が供給され、根の呼吸が活性化されるため、稲の健全な生育が促進されます。

【出穂開花期〜登熟期】湛水または間断潅水で水不足を防ぐ

出穂期から登熟期にかけては、穂の開花や籾の肥大が進む大切な時期です。水不足は登熟障害や品質低下につながるため、水を切らさないようにします。

湛水を基本としつつ、地力に応じて間断潅水を交えることで、根への酸素供給も確保できます。特に高温が続く時期は、水温が上がらないよう早朝に給水を行うなど、温度管理も必要です。

【登熟期〜収穫直前】間断潅水で根の活力を保つ

収穫5〜7日前になると、再び「間断潅水」で根の老化を防ぎ、登熟を促進します。この時期は稲全体が黄色くなり始め、籾の充実が最終段階に入っています。

土壌が完全に乾いてしまうと、根が機能を失って登熟障害を起こす恐れがあるため、軽い乾湿を繰り返す管理が有効です。また、収穫前に落水のタイミングを誤ると倒伏の原因になるため、地域の気象と生育状況を見極めて調整します。

稲作における水管理の種類と技術用語の解説

稲作の水管理にはいくつかの種類があり、それぞれの目的とタイミングに応じて使い分けが求められます。主な管理方法として「湛水管理」「浅水管理」「間断潅水」「中干し」などがあります。これらは単なる水の操作ではなく、根の成長や分げつ、穂の登熟など稲のライフサイクル全体に影響を与える技術です。農家にとっては当たり前の言葉でも、初めて稲作に挑戦する方にとっては分かりづらい専門用語かもしれません。以下では、特に重要な「間断潅水」と「中干し」について詳しく説明します。

「間断潅水(間断断水)」とは

「間断潅水」は、田んぼに水を張る期間と、排水して乾かす期間を交互に繰り返す水管理技術です。これにより、土壌中に酸素が供給され、稲の根が健康に育ちます。また、根の老化を防ぎ、倒伏を減らす効果も期待できます。

特に幼穂形成期から登熟期にかけての間断潅水は、地耐力と登熟の両立に欠かせません。ただし、乾かしすぎると逆効果になるため、土壌の水分状況を目視や足踏みでこまめに確認することが大切です。

「中干し」とは

「中干し」とは、分げつ期の後半に田んぼを一時的に乾かす作業です。7〜10日程度、自然乾燥させることで、過剰な分げつを抑制し、根を地中深くまで伸ばす効果があります。これは稲の体力を調整し、穂数や稔実のバランスを整えるために重要です。

また、中干しは地盤を締めて倒伏しにくい株づくりにもつながります。中干し後は、軽く水を張ってから再開する「潅水再開」のタイミングも重要で、生育の様子を見ながら調整します。

田んぼの水管理における「雪解け水」の重要性

北日本を中心とした地域では、春先の「雪解け水」が重要な水源となります。雪解け水はミネラル分を多く含み、田んぼに栄養を届けてくれる貴重な資源です。また、気温が安定しない時期でも、水を張ることで土壌温度を保ち、苗の初期成育を安定させる効果があります。

しかし、気候変動により雪の量が減っている年もあり、水不足に陥るリスクが高まっています。そのため、冬のうちから用水路やため池の整備を行い、雪解け水を有効に使える体制を整えておくことが大切です。

気候変動をふまえた今後の水管理と台風対策

地球温暖化により、日本の気象パターンも大きく変化しています。特に水稲栽培においては、台風の大型化や降雨の集中化、猛暑による高温障害が増加しています。こうした背景をふまえ、従来の水管理のやり方を見直す必要があります。

具体的には、水をためすぎず、乾かしすぎず、早く落水しすぎないといったバランスが求められます。また、台風による倒伏や浸水に備えた排水路整備も急務です。次に、今後重要となる水管理の原則を3つに整理して解説します。

これからの稲作で重要な3原則

①乾かさないこと

根が干上がってしまうと、登熟障害や急性萎凋(いちょう)症のリスクが高まります。間断潅水でも「乾かしすぎない」バランス感覚が必要です。

②ずっと溜めないこと

常時湛水では根が酸欠を起こし、病害や倒伏の原因になります。適度な排水を取り入れて、地中に酸素を供給しましょう。

③早期落水しないこと

登熟が不十分なうちに水を抜いてしまうと、籾の充実が不十分になります。適切なタイミングでの落水が、収量と品質のカギとなります。

台風に備えた用排水の対策

台風接近時には、あらかじめ用水口を閉じ、排水口の掃除をしておくことで、過剰な水の流入や溜まりを防ぐことができます。排水性の悪いほ場では、緊急用の排水ポンプを備えておくことも効果的です。

また、台風の予想進路が出た段階で、早めの対応を心がけることで、大きな被害を防げる可能性が高まります。地域ごとの気象情報をこまめに確認し、対応策を講じておきましょう。

台風による主な被害とその影響

①浸水や冠水による根腐れ・生育不良

河川の増水や雨水の逆流により、田んぼが冠水すると、稲の根が窒息状態に陥り、急激な生育不良を引き起こします。

②強風による倒伏や急性萎凋症

風によって稲が倒れてしまうと、収穫作業が困難になり、品質も大きく損なわれます。また、萎凋症によって穂がしおれ、登熟が進まなくなることもあります。

③フェーン現象による登熟障害

乾燥した熱風が吹き付けることで、稲が一気に水分を失い、登熟不良や籾の白化、未熟粒の発生につながります。こまめな潅水で応急処置を行うことが求められます。

地域の農業技術指導機関に相談して最新情報を得よう

稲作の水管理は、地域の土壌・気象・水利状況によって最適な方法が異なります。そのため、迷ったときは地元の農業改良普及センターやJAなど、農業技術指導機関に相談するのが賢明です。

最新の栽培技術や気象データをもとに、適切なアドバイスを受けることができ、生育状況に応じたタイムリーな管理が実現します。また、地域特有の水利トラブルや病害虫の傾向も把握できるため、事前対策にも役立ちます。

【事例紹介】水管理を自動化できるスマート農業の実例

近年、スマート農業の導入が進み、水管理も自動化の時代に入りつつあります。例えば、スマート水門や水位センサー、遠隔操作による給排水管理システムを導入すれば、天候や水位の変化に応じて自動で潅水や排水が行えます。

ある中山間地域では、この技術により人手不足でも効率的な水管理が可能となり、結果的に収量と品質の向上、用水量の削減を実現しました。高齢化が進む農村地域において、労力の軽減と生産性の維持が同時に図れる注目の事例です。

まとめ 適切な水管理で高品質な水稲収穫を目指そう

稲作の成功は、水管理にかかっているといっても過言ではありません。各成長ステージに適した水量と管理手法を理解し、気候変動や災害リスクに柔軟に対応していくことが、安定した収量と品質につながります。

また、事前のほ場整備や技術機関との連携、スマート技術の活用も大きな助けになります。ぜひ本記事を参考に、自身の農地に合った水管理を実践し、おいしいお米づくりを目指してください。

監修者

人見 翔太 Hitomi Shota

滋賀大学教育学部環境教育課程で、環境に配慮した栽培学等を学んだ後、東京消防庁へ入庁。その後、株式会社リクルートライフスタイルで広告営業、肥料販売小売店で肥料、米穀の販売に従事。これまで1,000回以上の肥料設計の経験を活かし、滋賀県の「しがの農業経営支援アドバイザー」として各地での講師活動を行う。現在は株式会社リンクにて営農事業を統括している。生産現場に密着した、時代にあった実践的なノウハウを提供致します。

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