
麦栽培において、うどんこ病は収量に大きな影響を与える重要な病害の一つです。この病気は小麦や大麦などの麦類に広く発生し、適切な対策を講じなければ収量の大幅な減少を招く可能性があります。
うどんこ病は白い粉状のカビが葉や茎に付着することで見た目にも分かりやすく、早期発見が比較的容易な病気です。しかし、一度発生すると急速に広がる特性があるため、予防対策と早期対応が極めて重要になります。
近年の気候変動により、うどんこ病の発生パターンも変化しており、従来の防除スケジュールだけでは対応が困難なケースも増えています。
本記事では、麦のうどんこ病について基本的な知識から最新の防除技術まで、農家の皆さんが実際に活用できる情報を分かりやすく解説します。適切な知識と対策により、うどんこ病による被害を最小限に抑え、安定した麦生産を実現しましょう。
麦のうどんこ病とは?基本知識を解説
うどんこ病の定義と特徴
麦のうどんこ病は、Blumeria graminis(ブルメリア・グラミニス)という糸状菌(カビ)によって引き起こされる植物病害です。この病気は世界中の麦栽培地域で発生し、特に温暖で湿度の高い環境を好む特徴があります。
うどんこ病の最大の特徴は、感染した植物の表面に白い粉状の菌糸やコニジア(胞子)が現れることです。これが小麦粉や片栗粉のように見えることから「うどんこ病」という名前が付けられました。この白い粉は病原菌の菌糸や胞子の集合体で、風によって他の植物に拡散していきます。
うどんこ病は表面寄生性の病原菌による感染症で、植物の表皮細胞から栄養を吸収して増殖します。一般的なカビとは異なり、植物組織の内部には侵入せず、表面で繁殖するのが大きな特徴です。感染初期では小さな白い斑点として現れ、徐々に拡大して葉全体を覆うようになります。
麦に発生するうどんこ病の種類
麦類に発生するうどんこ病は、主に小麦うどんこ病と大麦うどんこ病に分類されます。どちらも同じBlumeria graminisという菌によって引き起こされますが、形態特殊型が異なり、小麦にはf.sp. tritici、大麦にはf.sp. hordeiが感染します。
小麦うどんこ病は世界中の小麦栽培地域で最も重要な病害の一つとされており、特に温暖湿潤な気候条件下で多発する傾向があります。日本では主に春から初夏にかけて発生し、梅雨時期の多湿条件で急激に拡大することが多いです。
大麦うどんこ病も同様に重要な病害ですが、大麦の栽培時期や品種特性により発生パターンが若干異なります。六条大麦と二条大麦では感受性に差があり、一般的に六条大麦の方が感受性が高いとされています。
発生時期と被害の程度
麦のうどんこ病の発生時期は地域や品種によって異なりますが、一般的には春の気温上昇とともに発生が始まります。関東以西では4月頃から、東北地方では5月頃から発生が確認されることが多く、梅雨入り前後の高湿度期に急激に拡大する傾向があります。
被害の程度は感染時期と感染範囲によって大きく左右されます。生育初期に感染した場合、分げつや茎数に影響し、株全体の生育が阻害されます。穂ばらみ期から開花期にかけての感染では、穂の発育不良や登熟阻害により、粒数の減少や千粒重の低下を招きます。
最も深刻な被害をもたらすのは登熟期の感染で、この時期の重度感染は収量を30%以上減少させることもあります。また、品質面では蛋白質含量の低下や粒の充実不良により、等級の格下げや用途の制限を受ける可能性があります。
麦うどんこ病の症状と見分け方
初期症状の特徴
うどんこ病の初期症状は、葉の表面に現れる小さな白い斑点から始まります。これらの斑点は直径1-2mm程度の円形で、最初は葉の表面に薄く付着した粉のように見えます。指で軽く触れると白い粉が取れるのが大きな特徴です。
初期段階では症状は散発的で、下位葉から発生することが多いです。特に葉鞘や茎の基部付近に最初の症状が現れやすく、これらの部位を重点的に観察することが早期発見につながります。また、風通しの悪い密植部分や、朝露が残りやすい場所で最初に症状が確認されることが多いです。
初期症状の段階では植物への影響は軽微ですが、この時期に発見して適切な対策を講じることで、その後の拡大を効果的に抑制できます。症状が現れた葉を定期的に観察し、白い斑点の数や大きさの変化を記録することで、病気の進行状況を把握できます。
進行した場合の症状
うどんこ病が進行すると、白い斑点は徐々に拡大し、最終的には葉全体を覆うようになります。この段階では葉の表面が白い粉で厚く覆われ、まるで小麦粉をまぶしたような外観になります。感染が重篤になると、葉は黄化し始め、光合成能力が著しく低下します。
茎や穂にまで感染が及ぶと、症状はより深刻になります。穂に感染した場合、穂軸や小穂が白い菌糸で覆われ、粒の充実が阻害されます。また、茎への感染は維管束の機能を妨げ、水分や養分の移動を阻害するため、植物全体の生育に深刻な影響を与えます。
進行した感染では、葉の先端から枯死が始まり、最終的には葉全体が茶褐色に変色して枯死します。この段階になると回復は困難で、収量への影響は避けられません。そのため、進行症状が確認される前に、予防的な防除措置を講じることが極めて重要です。
他の病気との見分け方
麦のうどんこ病は特徴的な白い粉状の症状により、他の多くの病害と区別することができます。しかし、初期段階では他の病害と混同される場合があるため、正確な診断が重要です。
赤かび病との区別では、赤かび病は主に穂に発生し、ピンク色から橙色の菌糸が特徴的です。一方、うどんこ病は白い粉状で、葉や茎に主に発生します。また、葉枯病との区別では、葉枯病は褐色の病斑が特徴的で、白い粉状の症状は見られません。
さび病との区別も重要で、さび病は橙色から茶褐色の小さな胞子堆が葉に形成されるのに対し、うどんこ病は白い粉状の症状が表面に現れます。不明な場合は、農業改良普及センターや農協の技術員に相談し、正確な診断を受けることをお勧めします。
うどんこ病の原因と発生メカニズム
病原菌の正体(Blumeria graminis)
麦のうどんこ病を引き起こすBlumeria graminisは、子嚢菌門に属する専性寄生菌です。この菌は宿主植物なしには生存できない特性を持ち、常に生きた植物組織から栄養を摂取しています。菌糸は植物の表面に発達し、吸器と呼ばれる特殊な構造を通じて宿主細胞から栄養を吸収します。
病原菌の生活環は無性世代と有性世代の二つに分かれます。無性世代では分生子(コニジア)と呼ばれる胞子を大量に生産し、これが風によって拡散して新たな感染を引き起こします。有性世代では子嚢殻を形成し、その中に子嚢胞子を生産して越冬します。
この菌は温度適応性が高く、10℃から30℃の幅広い温度範囲で生育できます。最適温度は20-25℃付近で、この温度帯では急速に増殖します。また、相対湿度50-90%の範囲で感染が可能で、特に湿度が高い条件では感染効率が著しく向上します。
感染経路と拡散方法
うどんこ病の感染は主に風によって運ばれる分生子(コニジア)によって起こります。感染した植物の表面で生産された分生子は、風に乗って数キロメートル以上の長距離を移動することができ、新たな感染源となります。
感染プロセスは分生子の付着から始まります。植物表面に付着した分生子は、適切な温度と湿度条件下で発芽し、発芽管を伸ばして植物表皮に侵入口を形成します。侵入後、菌糸は表皮細胞内に吸器を形成し、宿主細胞から栄養を吸収して増殖を開始します。
感染から症状出現までの期間は環境条件によって変化しますが、通常5-10日程度です。症状が現れた後、病原菌は新たな分生子を生産し、これが次の感染サイクルの開始点となります。このサイクルが繰り返されることで、圃場内での急速な拡散が起こります。
発生しやすい環境条件
うどんこ病の発生には特定の環境条件が必要で、これらの条件を理解することで発生予測と予防対策が可能になります。最も重要な要因は温度と湿度で、昼間20-25℃、夜間15-20℃の温度条件で最も発生しやすくなります。
湿度条件については、他の多くの病害とは異なり、うどんこ病は比較的低い湿度でも発生可能です。相対湿度50%以上あれば感染が可能で、70-80%の中程度の湿度で最も活発に増殖します。このため、梅雨明け後の高温少雨期にも発生することがあります。
風の条件も重要で、適度な風は胞子の拡散を促進しますが、強風は胞子の付着を阻害します。また、日照不足は植物の抵抗性を低下させ、うどんこ病の発生を助長します。密植や窒素過多も発生を促進する要因となるため、栽培管理による予防が重要です。
麦の品種別うどんこ病リスク
小麦のうどんこ病
小麦品種のうどんこ病抵抗性は、主要な育種目標の一つとして長年にわたって改良が進められています。現在栽培されている多くの品種は、一定程度の抵抗性を備えていますが、完全な免疫性を持つ品種は限られています。
国内の主要小麦品種では、「きたほなみ」「ゆめちから」などが比較的高い抵抗性を示します。一方、「農林61号」系統の品種は感受性が高く、発生地域では注意深い管理が必要です。また、パン用小麦と日本麺用小麦では抵抗性レベルが異なる傾向があります。
品種抵抗性の評価は、圃場試験や人工接種試験によって行われ、抵抗性の強弱が段階的に評価されます。抵抗性「強」の品種でも、環境条件や病原菌系統によっては発病する場合があるため、他の防除手段との組み合わせが重要です。
大麦のうどんこ病
大麦においても品種間でうどんこ病抵抗性に大きな差があります。六条大麦では「シュンライ」「トヨノホシ」が比較的抵抗性が強く、二条大麦では「ミカモゴールデン」「サチホゴールデン」などが抵抗性品種として知られています。
ビール麦の場合、品質要求が厳しいため、少しの感染でも品質低下につながります。そのため、抵抗性品種の選択がより重要になります。また、麦茶用大麦では外観品質への影響が重視されるため、抵抗性品種の活用効果が高いです。
大麦の抵抗性遺伝子は複数種類が知られており、異なる遺伝子を持つ品種を組み合わせることで、病原菌の変異に対するリスク分散が可能です。地域の発生状況と品種特性を総合的に判断して、最適な品種選択を行うことが重要です。
抵抗性品種の選択
抵抗性品種を選択する際は、うどんこ病抵抗性だけでなく、収量性、品質、他の病害抵抗性、栽培適性を総合的に評価する必要があります。また、地域の気候条件や土壌条件に適応した品種を選ぶことが、抵抗性の安定した発現につながります。
品種選択では、地域の農業改良普及センターや農協の指導を受けることをお勧めします。また、近隣農家の栽培実績や試験研究機関の品種比較試験結果も参考になります。新品種については、少面積での試作を行い、地域適応性を確認してから本格導入することが安全です。
抵抗性品種の効果を最大限に発揮させるためには、適切な栽培管理が不可欠です。播種期、施肥量、栽植密度などを品種特性に合わせて調整し、植物の健全性を保つことで、抵抗性を安定して発現させることができます。
うどんこ病の予防対策
栽培管理による予防
栽培管理による予防は、最も基本的で重要な対策です。適切な播種期の選択により、うどんこ病の発生しやすい時期を避けることができます。一般的に、極端な早播きや遅播きは発病を助長するため、地域の標準播種期に従うことが重要です。
土壌管理も予防効果に大きく影響します。良好な排水条件を維持し、土壌の物理性を改善することで、植物の健全性が向上し、病害抵抗性が高まります。また、有機物の施用により土壌の生物性が向上し、拮抗微生物の活動が活発化することで、自然の病害抑制効果が期待できます。
水分管理では、過度な土壌水分は避ける一方で、乾燥ストレスも植物の抵抗性を低下させるため、適切な水分状態を保つことが重要です。灌漑設備がある場合は、朝の時間帯に行い、夕方以降の灌漑は避けることで、夜間の高湿度を防ぐことができます。
適切な播種密度の管理
播種密度の管理は、うどんこ病予防において極めて重要な要素です。過密播種は通風を阻害し、圃場内の湿度を高めるため、うどんこ病の発生を促進します。一方、疎植すぎると雑草の発生や収量の低下を招くため、適正な密度の設定が必要です。
地域の標準播種量を基準としながら、圃場条件や品種特性を考慮して調整します。一般的に、うどんこ病の発生が多い地域では、標準よりもやや少なめの播種量とし、通風を良好に保つことが効果的です。また、条間を広めに設定することも、通風改善に有効です。
間引きや除草による密度調整も重要で、生育期間中に過密になった部分は適切に間引くことで、風通しを改善できます。また、雑草は湿度を高める要因となるため、適期の除草により圃場環境を良好に保つことが予防効果につながります。
施肥管理のポイント
施肥管理は植物の健全性と病害抵抗性に直接影響する重要な要素です。特に窒素施肥の過多は、軟弱徒長を引き起こし、うどんこ病の感受性を高めるため注意が必要です。地域の施肥基準に従い、適正な施肥量を守ることが基本となります。
窒素肥料の分施も効果的で、基肥を控えめにして追肥で調整することにより、初期の軟弱な生育を避けることができます。また、カリウムやリン酸の適正な施用は、植物の抵抗性を高める効果があります。特にカリウムは細胞壁の強化に関与し、病原菌の侵入を物理的に阻害します。
有機質肥料の活用も予防効果があります。堆肥や有機質肥料は土壌の生物性を向上させ、拮抗微生物の増殖を促進します。これらの微生物は病原菌の増殖を抑制し、自然の病害防除効果を発揮します。ただし、未熟な有機物は窒素の急激な放出を引き起こすため、完熟したものを使用することが重要です。
うどんこ病の防除方法
化学的防除(農薬散布)
化学的防除は、うどんこ病対策の中で最も即効性があり、確実な効果が期待できる方法です。現在、うどんこ病に対して登録されている薬剤は多数あり、作用機作の異なる複数の薬剤を使い分けることで、効果的な防除が可能です。
予防散布と治療散布の使い分けが重要で、発生前の予防散布では浸透移行性の高い薬剤を選択し、発生後の治療散布では即効性のある薬剤を使用します。また、散布時期は気象条件を考慮し、効果が最大となるタイミングで実施することが重要です。
うどんこ病に効果的な薬剤は、作用機作によって分類されます。主要なものには、DMI系(トリアゾール系)、QoI系(ストロビルリン系)、SDHI系、無機銅剤などがあります。それぞれ異なる作用点を持つため、薬剤抵抗性の発達を防ぐため、ローテーション使用が推奨されています。
薬剤散布の効果を最大化するためには、適切なタイミングでの実施が不可欠です。予防散布は発生予察情報や気象条件を参考に、感染リスクが高まる前に実施します。一般的には、春季の気温上昇期(4-5月)に初回散布を行い、その後の発生状況に応じて追加散布を検討します。
薬剤抵抗性の発達は、化学的防除の大きな課題の一つです。同一系統の薬剤を連続使用することで、抵抗性菌の選抜圧が高まり、薬剤の効果が低下します。これを防ぐためには、作用機作の異なる薬剤をローテーション使用することが基本となります。
生物的防除
生物的防除は、天敵微生物や拮抗微生物を利用してうどんこ病を防除する方法です。環境に優しく、薬剤抵抗性の心配がないため、持続可能な農業における重要な技術として注目されています。
主要な生物的防除資材には、細菌系と糸状菌系があります。細菌系では枯草菌(Bacillus subtilis)を利用した製剤が実用化されており、糸状菌系では各種の拮抗菌が研究されています。これらの微生物は、抗生物質の生産、栄養競合、菌糸の直接的な攻撃などにより病原菌を抑制します。
生物的防除の効果を安定させるためには、使用方法と環境条件の理解が重要です。生物農薬は生きた微生物であるため、保存条件や使用条件が効果に大きく影響します。また、化学農薬との組み合わせでは、生物農薬に影響を与えない薬剤を選択する必要があります。
物理的防除方法
物理的防除は、病原菌の物理的な除去や感染環境の改変により防除効果を得る方法です。直接的な効果は限定的ですが、他の防除方法と組み合わせることで相乗効果が期待できます。
土壌消毒や熱処理による病原菌の死滅、紫外線や銀イオンを利用した殺菌、物理的な除去などが含まれます。また、被覆資材を利用した環境制御により、病原菌の増殖に不適な条件を作り出すことも物理的防除の一種です。
近年では、光や音波を利用した新しい物理的防除技術も研究されており、将来的な実用化が期待されています。これらの技術は環境負荷が小さく、薬剤抵抗性の心配もないため、持続可能な防除技術として有望視されています。
発生後の対処法と被害軽減策
うどんこ病が発生した場合、迅速で適切な対応により被害を最小限に抑えることが可能です。発生初期の対応が特に重要で、この段階での適切な処置により、その後の拡大を効果的に防ぐことができます。
早期発見は効果的な対処の前提条件です。定期的な圃場観察により、症状の初期段階で発見することが重要です。観察は週に2-3回程度、特に気象条件が感染に適している時期には毎日行うことが理想的です。観察のポイントとして、下位葉や茎の基部、風通しの悪い密植部分を重点的にチェックします。
症状を確認した場合、速やかに緊急防除を実施します。初期症状の段階では、即効性のある治療薬剤を選択し、症状が確認された株とその周辺に重点的に散布します。全面散布が理想的ですが、部分的な発生の場合は局所散布でも効果があります。
発生が確認された圃場では、他の健全な圃場への拡散を防ぐための措置が重要です。作業機械や作業衣服に付着した胞子による機械的伝播を防ぐため、発生圃場での作業後は機械の清掃と作業衣服の交換を行います。
うどんこ病による収量への影響は、感染時期と感染程度によって大きく異なります。感染により光合成能力が低下した場合、追肥による栄養補給が効果的です。特にカリウムの追加施用は、残存する健全葉の機能を向上させ、粒の充実を促進します。
よくある質問(FAQ)
うどんこ病は人体に害がある?
麦のうどんこ病菌(Blumeria graminis)は植物専用の病原菌で、人体には無害です。感染した麦を取り扱っても健康に影響はありません。ただし、大量の胞子を吸入することによるアレルギー反応が起こる可能性があるため、重度に感染した圃場での作業時はマスクの着用をお勧めします。
薬剤散布時の安全対策の方が重要で、農薬の使用基準を守り、適切な保護具を着用することが必要です。散布後は手洗いうがいを徹底し、作業衣服も適切に洗濯することで、安全な作業環境を維持できます。
収穫した麦は食べられる?
軽度の感染であれば、収穫した麦は通常通り利用できます。ただし、重度に感染した麦は品質が低下し、カビ臭や変色が生じる場合があります。このような麦は食用としての利用は避け、飼料用として利用するか、廃棄処分することをお勧めします。
調製時の選別により、健全粒と被害粒を分離することで、品質の維持が可能です。また、適切な乾燥と保存により、二次的なカビの発生を防ぐことも重要です。不安な場合は、農協や関係機関に相談し、適切な判断を仰ぐことをお勧めします。
来年への影響は?
うどんこ病菌は主に子嚢殻という形で越冬し、翌年の第一次感染源となります。重度に発生した圃場では、翌年の発生リスクが高まる可能性があります。残渣の適切な処理と土壌消毒により、越冬菌の密度を低減できます。
輪作による宿主植物の排除も効果的で、イネ科以外の作物との輪作により発生密度を低下させることができます。また、抵抗性品種への転換や栽培管理の改善により、翌年の発生を予防できます。
有機栽培での対処法は?
有機栽培では化学農薬が使用できないため、予防対策と生物的防除が中心となります。抵抗性品種の選択、適切な栽培管理、生物農薬の活用により、一定の防除効果が期待できます。
硫黄粉剤などの有機認証資材や、重曹を利用した防
地域別・時期別の防除スケジュール
日本の麦作地域は気候条件が多様で、うどんこ病の発生パターンも地域によって大きく異なります。効果的な防除を実現するためには、地域の気候特性と発生パターンに適応したスケジュールの構築が不可欠です。
北海道地域での対策
北海道では冷涼な気候のため、うどんこ病の発生は本州より遅く、5月下旬から6月にかけて発生が始まります。春小麦が主体のため、生育期間中の管理が特に重要になります。
防除スケジュールでは、5月中旬の予防散布から開始し、6月上旬、6月下旬の計3回散布を基本とします。ただし、冷害年には発生が遅れる傾向があるため、気象条件に応じた調整が必要です。
北海道特有の対策として、長雨による多湿条件での急激な拡大に注意が必要です。また、収穫期の降雨により感染粒が混入するリスクがあるため、収穫前の圃場観察を入念に行い、必要に応じて選別を徹底します。
東北・関東地域での対策
東北・関東地域では、4月下旬から5月上旬にかけて発生が始まり、梅雨期に急激に拡大する傾向があります。この地域の防除では、梅雨入り前の予防対策が特に重要です。
基本的な防除スケジュールは、4月下旬の初回散布、5月中旬、6月上旬の3回散布を標準とします。梅雨期間中は散布適期が限られるため、梅雨入り前の防除を重視します。
関東地方では都市部の影響による局地的な気象条件の変化があるため、地域内でも発生パターンが異なる場合があります。圃場周辺の環境条件を考慮した個別対応が必要で、近隣農家との情報交換も重要です。
西日本地域での対策
西日本地域は温暖な気候のため、うどんこ病の発生期間が長く、4月上旬から発生が始まる地域もあります。また、秋播き小麦の栽培が主体のため、越冬期の管理も考慮する必要があります。
防除スケジュールでは、4月上旬から中旬の初回散布を皮切りに、4月下旬、5月中旬、必要に応じて6月上旬の散布を行います。温暖な気候では薬剤の分解が早いため、散布間隔を短めに設定することがあります。
九州地方では台風の影響による強風と多雨により、薬剤の流亡リスクが高いため、気象予報に基づいた散布計画の調整が重要です。また、高温多湿な条件では薬害のリスクも高まるため、薬剤選択と散布条件に注意が必要です。
月別防除カレンダー
3月: 圃場の観察開始、越冬状況の確認、防除計画の最終確認を行います。この時期から定期的な圃場巡回を開始し、生育状況と環境条件を把握します。
4月: 初回予防散布(西日本)、圃場観察の強化、発生状況の記録開始を行います。気温の上昇とともに感染リスクが高まるため、予防的な散布を開始します。
5月: 予防散布の実施(全国)、発生確認時の緊急対応、生育状況の確認を行います。この時期は最も感染リスクが高い時期のため、重点的な管理が必要です。
6月: 追加散布の検討、梅雨期対策の実施、収穫前の圃場点検準備を行います。梅雨期の多湿条件により急激な拡大が起こりやすいため、継続的な観察が重要です。
各月の具体的な作業内容は地域により異なりますが、継続的な観察と記録が全ての地域で共通する重要なポイントです。また、気象予報と発生予察情報を活用し、計画の柔軟な調整を行うことで、効果的な防除を実現できます。
うどんこ病防除の最新技術
農業分野でのデジタル技術の発展により、うどんこ病の防除にも革新的な技術が導入されています。これらの技術は従来の防除方法を補完し、より精密で効率的な病害管理を可能にしています。
IoTを活用した早期発見
IoTセンサーを利用した環境モニタリングシステムにより、うどんこ病の発生リスクをリアルタイムで評価できます。温度、湿度、風速、降水量などの気象データを連続的に収集し、発生予測モデルと組み合わせることで、感染リスクの高い時期を事前に把握できます。
画像センサーを組み合わせたシステムでは、葉の色調変化や白い斑点の出現を自動的に検出し、初期症状の段階で警告を発することができます。これにより、人による観察では見落としがちな初期症状も確実に捉えることができます。
ドローンによる効率的散布
ドローンを利用した薬剤散布は、従来の地上散布では困難な条件下でも効率的な防除を可能にします。特に圃場が軟弱で機械が入れない条件や、緊急的な散布が必要な場合に威力を発揮します。
精密散布技術により、発生箇所に重点的な散布が可能で、薬剤使用量の削減と防除効果の向上を同時に実現できます。GPS誘導システムにより、散布ムラを防ぎ、均一な薬剤付着を確保できます。
AIによる病害診断
AI技術を活用した画像診断システムは、うどんこ病の症状を高精度で識別できます。スマートフォンで撮影した画像をAIが解析し、症状の有無、進行度、他の病害との区別を瞬時に判定します。
機械学習により診断精度は継続的に向上し、地域特性や品種特性を反映した専用モデルの構築も可能です。また、診断結果と併せて最適な防除方法の提案も行い、農家の意思決定を支援します。
まとめ
麦のうどんこ病は適切な知識と対策により、被害を大幅に軽減できる病害です。本記事で解説した予防対策、早期発見、適切な防除により、安定した麦生産を維持することができます。
重要なポイントの再確認
うどんこ病防除の成功には、「予防第一」「早期発見」「適切な対応」の3つが重要です。予防では抵抗性品種の活用と適切な栽培管理により、発生リスクを最小化します。早期発見では定期的な観察と記録により、初期症状を見逃さないことが重要です。
薬剤防除では、適期散布と薬剤ローテーションにより効果を最大化し、抵抗性の発達を防ぎます。また、単一の防除方法に依存せず、複数の手法を組み合わせることで、安定した防除効果を実現できます。
最も重要なのは予防的な管理で、品種選択、栽培管理、環境改善により発生そのものを抑制することです。発生した場合も早期発見と迅速な対応により、被害を最小限に抑えることができます。
継続的な管理の重要性
うどんこ病の防除は一時的な対策ではなく、継続的な管理システムとして捉えることが重要です。年間を通じた計画的な管理により、安定した麦生産と品質確保を実現できます。
近年の技術発展により、より精密で効率的な防除が可能になっています。従来の技術と最新技術を適切に組み合わせ、持続可能な防除体系を構築することで、経済的で環境に優しい麦生産を実現できます。
定期的な情報収集と技術向上により、変化する病害発生パターンに対応し、常に最適な防除戦略を維持することが、安定した麦生産の鍵となります。
監修者
人見 翔太 Hitomi Shota

滋賀大学教育学部環境教育課程で、環境に配慮した栽培学等を学んだ後、東京消防庁へ入庁。その後、株式会社リクルートライフスタイルで広告営業、肥料販売小売店で肥料、米穀の販売に従事。これまで1,000回以上の肥料設計の経験を活かし、滋賀県の「しがの農業経営支援アドバイザー」として各地での講師活動を行う。現在は株式会社リンクにて営農事業を統括している。生産現場に密着した、時代にあった実践的なノウハウを提供致します。
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