
毎年安定した収量を確保したい――
それはすべての農家にとって変わらない願いです。しかし、同じ作物を繰り返し栽培することで「連作障害」が発生し、収穫量の減少、品質低下、圃場の疲弊といった深刻な問題を引き起こすことがあります。
連作障害は、単に病害虫の問題ではありません。土壌そのものの「健康」が崩れ、農業経営そのものにダメージを与えるリスクをはらんでいます。
本記事では、連作障害のメカニズムと原因をわかりやすく解説し、実際の農作業で役立つ土壌改良技術・輪作体系・資材活用法まで、農家が今日から実践できる対策を具体的に紹介します。
圃場を健全に保ち、安定した収量と品質を守るために、正しい知識と実践方法をここでしっかり押さえていきましょう!
土壌改良が連作障害の予防・対策に不可欠な理由
連作障害は土壌環境の悪化が本質的な原因です。
単に施肥量を増やすだけでは解決せず、土そのものの再生が求められます。
- 養分バランスの崩壊(カリウム、カルシウム欠乏など)
- 微生物バランスの崩壊(善玉菌減少、病原菌増加)
- 物理性の悪化(排水不良・耕盤形成)
これらを同時に改善しなければなりません。
たとえば、10aあたり完熟堆肥を2t以上投入し、深さ30cmまで丁寧に鋤き込むなど、しっかりとした土づくりが不可欠です。
また、微生物多様性を高めるため、緑肥作物の導入や腐植酸質資材の併用も有効です。
連作障害とは?農業経営に与える影響を解説
連作障害とは、たとえば「ナスを3年続けたら突然実が小さくなった」「キャベツが立ち枯れた」といった現象の裏にある土壌劣化のことを指します。
土壌では、フザリウムやリゾクトニアといった病害菌が増殖し、さらにネコブセンチュウなどの土壌線虫が爆発的に繁殖していきます。特定の養分、特にカルシウムやカリウムが枯渇することも連作障害を引き起こす要因です。
これらの問題が複合的に絡み合い、収量減少から品質低下、最終的には圃場価値の低下へとつながります。特に施設栽培や集約的に管理している圃場ではリスクが高く、1〜2作の成功に慢心することなく、長期的な土壌管理が重要になります。
連作障害の主な原因
連作障害を引き起こす主な原因には、土壌の化学性、生物性、物理性の悪化、そして自家中毒(アレロパシー)があります。
土壌化学性の悪化
まず、土壌化学性の悪化についてです。過剰な施肥による塩類集積(EC値の上昇)、カルシウムやマグネシウムなど特定養分の欠乏、そしてpHの低下による微生物環境の悪化が進行します。これを防ぐためには、3年に1回を目安にpH検査・EC検査を行い、pH6.0〜6.5を維持するために必要に応じて苦土石灰(10aあたり50〜100kg程度)を施用します。
土壌生物性の悪化
次に、土壌生物性の悪化があります。善玉菌が減少し、逆に病原菌や害虫が優勢になり、根圏の微生物多様性が低下していきます。この対策としては、ヘアリーベッチやクローバーといった緑肥作物の導入に加え、完熟堆肥を投入して善玉菌を回復させる方法が効果的です。
土壌物理性の悪化
さらに、土壌物理性の悪化も大きな要因です。耕盤形成によって排水が悪くなり、土壌密度が高まり根張りが悪くなります。これに対しては、3〜5年に1回サブソイラー(心土破砕)作業を実施し、50cm程度まで貫通させて排水性を改善する必要があります。
最後に、自家中毒(アレロパシー)の影響も見逃せません。トマト、ナス、キュウリなどは自らフェノール類などの生育阻害物質を分泌し、これが土壌に蓄積すると同じ作物が育ちにくくなります。これを避けるためには、最低でも3年間は同じ科の作物を連作せず、ネギやニラなどの耐病性作物を間作に取り入れることが重要です。
土壌改良による連作障害対策【基本編】
土壌改良による基本的な連作障害対策には、輪作、有機物投入、物理性改善、そして土壌リフレッシュ作業が含まれます。
まず輪作については、たとえばナス科作物を栽培したら次作にはネギ類、その後に水稲や大豆など異なる科の作物を組み合わせていく方法が有効です。
ウリ科作物についても、枝豆などマメ科作物を間に挟むと効果的です。輪作のサイクルは最低でも3〜4年は設けるようにしましょう。
有機物投入では、牛ふん堆肥や鶏ふん堆肥などの完熟堆肥を10aあたり2〜3t投入し、さらにヘアリーベッチやソルゴーといった緑肥作物を栽培してから鋤き込むことで、土壌微生物相を豊かにし、病害菌の蔓延を防ぎます。
物理性改善としては、サブソイラー作業によって土壌の締まりを解消し、さらに暗渠排水を設置して地下水位をコントロールすることが求められます。
また、圃場リフレッシュには、太陽熱消毒(夏場にビニールマルチで覆い、高温で病害菌を死滅させる方法)や、蒸気消毒、未熟有機物施用後のバイオ消毒といった方法があり、作物や圃場状況に応じて適切な方法を選びます。
具体的な連作障害防止・改善手法
連作障害を防止・改善するためには、単なる施肥や耕うんだけでなく、作物の特性を理解した計画的な圃場運営が欠かせません。ここでは、現場で実践できる対策を作物別に紹介します。
ナス科作物(トマト・ナス・ピーマン)
まず、ナス科作物(トマト・ナス・ピーマン)では、青枯病や半身萎ちょう病、根腐れ病などのリスクが高まります。このリスクを軽減するためには、最低でも4年以上ナス科を空けることが重要です。
また、水稲や麦類を間作に導入し、土壌病原菌のリセットを図る方法も有効です。さらに、10aあたり3tの完熟堆肥や50kg程度の苦土石灰を投入し、必要に応じて太陽熱消毒を実施すると効果が高まります。
ウリ科作物(スイカ・キュウリ・メロン)
ウリ科作物(スイカ・キュウリ・メロン)については、つる割病や疫病、根こぶ病の発生が問題となります。線虫抑制効果のあるクロタラリアを栽培して鋤き込むことや、排水性確保のため畝を高く(20cm以上)設計することが効果的です。
アブラナ科作物(キャベツ・白菜・ブロッコリー)
アブラナ科作物(キャベツ・白菜・ブロッコリー)では、萎黄病や根こぶ病に注意が必要です。これらを防ぐには、根こぶ病抵抗性品種を選び、土壌pHを6.5以上に維持するために適切な量の苦土石灰を投入する必要があります。
マメ科作物(枝豆・インゲン)
マメ科作物(枝豆・インゲン)については、立枯病や線虫害が懸念されます。栽培前に完熟堆肥を投入し、排水性の良い圃場環境を作ることでリスクを低減できます。
また、線虫害や土壌病害への対策としては、ソルゴーやクロタラリアなどの線虫抑制作物を活用し、生物性土壌消毒を実施して善玉菌を優勢に保つことが有効です。苗の導入時には、根部の殺菌処理も忘れずに行い、初期感染を防ぎましょう。
土壌診断によるリスク管理も大切です。年に1回はpHやEC、主要な養分(リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウム)を測定し、データに基づいて施肥設計や資材投入計画を立て、圃場単位での土づくりを可視化することが、長期的な圃場健全化につながります。
連作障害に強い作物の活用と圃場回復
連作障害リスクが高い圃場では、耐病性作物を活用して土壌環境をリセットすることが有効です。
特に有効な手法が、水稲を利用した田畑輪換です。一度圃場を水田化して水稲を栽培すると、酸欠環境の中で青枯病菌や根こぶ病菌、線虫類などの病原体が大幅に減少します。
ただし、水田化から乾田への戻しには、暗渠排水など排水設計がしっかりしていることが条件となります。
また、ネギ、ニンニク、ニラなどのネギ属作物も圃場リセット作物として非常に優れています。ネギ類は根圏からアリシンという抗菌物質を分泌するため、連作障害の原因菌を抑制し、圃場を健全な状態に戻す力があります。
たとえばナス科作物の栽培後にネギやニラを1作導入することで、次作のウリ科やナス科作物の栽培にも良い影響が期待できます。
バイオ炭・腐植酸資材による土壌改良
土壌改良資材としては、バイオ炭や腐植酸質資材の活用も非常に効果的です。
バイオ炭は、土壌の通気性や保水性を向上させ、微生物層の多様化を促進します。また、土壌の養分保持力(CEC)を高める効果も期待できます。
使用する際は、完熟バイオ炭を10aあたり200〜300kgの目安で投入し、未熟炭は使わないよう注意が必要です。未熟炭はpH過剰や窒素飢餓を引き起こし、逆効果になる恐れがあります。
一方、腐植酸質資材は、土壌のイオン交換容量を高めて肥料の効率を上げる効果があります。さらに、根の活性を促し、作物のストレス耐性を向上させます。
施用タイミングとしては、定植前の元肥に混和する方法が基本で、10aあたり50〜100kg程度を目安に施用すると効果的です。
日常管理でできる連作障害予防策
日々の管理の中でできる連作障害予防策も重要です。
まず、畑の健康診断を習慣化しましょう。週に1回は圃場を歩き、葉色の変化や下葉の黄化、生育ムラなどの異常がないかを観察します。また、地表の乾き具合、ひび割れの有無、病害の初期症状にも常に目を配ることが重要です。
異常を発見した場合は、小さなサインでも見逃さず、すぐにpH検査や水管理の見直し、施肥設計の再検討を行いましょう。必要に応じて、作付け計画そのものを柔軟に変更する判断力も、圃場を守るうえで欠かせません。
まとめ|収量を守るために、連作障害と正しく向き合おう
連作障害は、時間とともに静かに圃場にダメージを蓄積させます。しかし、正しい知識を持ち、適切な土壌改良や輪作、有機物投入、土壌診断を計画的に進めれば、連作障害は確実に防ぐことができます。
大切なのは、短期的な結果にとらわれず、土の健康と向き合う長期的な視点を持つこと。今日の一つひとつの積み重ねが、未来の安定収量と高品質につながります。
圃場の未来を守るために、今日からできる土づくりを一緒に実践していきましょう。
監修者
人見 翔太 Hitomi Shota

滋賀大学教育学部環境教育課程で、環境に配慮した栽培学等を学んだ後、東京消防庁へ入庁。その後、株式会社リクルートライフスタイルで広告営業、肥料販売小売店で肥料、米穀の販売に従事。これまで1,000回以上の肥料設計の経験を活かし、滋賀県の「しがの農業経営支援アドバイザー」として各地での講師活動を行う。現在は株式会社リンクにて営農事業を統括している。生産現場に密着した、時代にあった実践的なノウハウを提供致します。
\農家さん限定!今だけ無料プレゼント/
LINE登録で「肥料パンフレット」&
「お悩み解決シート」進呈中!

「どの肥料を使えばいいかわからない」
「生育がイマイチだけど、原因が見えない」
そんな悩みを解決する、実践的なヒントが詰まったPDFを無料プレゼント中!
プレゼント内容
- 肥料の選び方がわかるパンフレット
- 症状別で原因と対策がひと目でわかる「お悩み解決シート」
LINEに登録するだけで、今すぐスマホで受け取れます!