
稲作において深刻な被害をもたらす「紋枯病」にお悩みではありませんか?毎年多くの農家が収量低下や品質劣化に悩まされています。
「株元の葉鞘に変な病斑が出てきた」「病気が上の方まで広がってしまった」「収量が去年より明らかに少ない」このような経験はありませんか?
実は、紋枯病は早期発見と適切な対策により被害を大幅に軽減できる病害です。しかし、他の病気と見分けがつかない、対策のタイミングが分からない、という声も多く聞かれます。
この記事では、農業研究機構の最新情報を基に、紋枯病の症状の見分け方から効果的な防除方法までを分かりやすく解説します。15分程度でお読みいただける内容で、明日からの稲作に即活用できる実践的な知識をお届けします。
ぜひ最後まで読んで、紋枯病に負けない稲作を実現してください。
紋枯病ってどんな病気?

出典情報:What Is Rice Sheath Blight: Treating Sheath Blight Of Rice
紋枯病の基本
紋枯病は、稲の重要な病気の一つで、学名を「Rhizoctonia solani」という糸状菌(カビ)が原因です。別名「大粒菌核病」「雲形病」「大粒白絹病」とも呼ばれ、英語では「Sheath blight」と表現されます。
この病気は稲の葉鞘(茎を包んでいる部分)に感染し、発生時期や症状によって被害の程度が大きく変わります。病原菌は気温22℃以上の環境で活動を始め、高温多湿条件で最も活発になる特徴があります。
最大の特徴は、病原菌が「菌核」という特殊な構造を作ることです。この菌核は茶褐色の小さな粒状で、土の中で越冬し、翌年の感染源となります。1980年代中頃から一時的に減少していましたが、近年の温暖化に伴い再び全国的に問題となっています。
稲への被害はどれくらい?
紋枯病は稲作において深刻な収量低下を引き起こします。軽微な発生でも10~15%の減収となり、重篤な場合は30%以上の大幅減収をもたらします。特に病気が穂まで達すると、その部分の籾は不稔となってしまいます。
被害は収量だけにとどまりません。病気にかかった茎は弱くなり、倒伏しやすくなります。また、着色粒や変形粒が増加し、米の品質も大幅に低下します。1等米の比率が下がることで、60kg当たり500~2,000円の価格下落を招くこともあります。
暖地では早期栽培を中心に被害が大きく、寒冷地でも早生品種では注意が必要です。近年は普通期栽培でも被害が報告されており、全国的に警戒が必要な病害となっています。
紋枯病の見つけ方
葉鞘に出る症状

出典情報:いまさら聞けない、紋枯病の原因や症状とは? 防除に効果的な農薬も紹介
初期の症状(小さな病斑)
紋枯病の初期症状は、水際に近い下位の葉鞘に現れる小さな病斑から始まります。最初は長径5~10mm、短径3~5mmほどの楕円形で、暗緑色で水がしみたような見た目をしています。この段階を見逃さないことが早期対策の鍵となります。
病斑は最初、葉鞘の表面にぽつんと現れ、健全な部分との境界は比較的はっきりしています。朝露がついている早朝や、曇りの日に観察すると病斑が見つけやすくなります。特に田んぼの畦畔際や水口周辺は菌核が集まりやすく、初発地点となることが多いので重点的にチェックしましょう。
この時期の病斑はまだ小さく見落としがちですが、毎日の見回りで注意深く観察することで発見できます。早生品種や早植え栽培では、他より早い時期から症状が現れるので特に注意が必要です。
進行した症状(典型的な病斑)
病斑が進行すると、紋枯病特有の典型的な症状に変化します。病斑は楕円形のまま大きくなり、周縁部が褐色、中央部が灰白色となる特徴的な三色構造を示します。これが紋枯病を他の病気と見分ける重要なポイントです。
さらに病気が進むと、複数の病斑が合体して大きな不定形の病斑となります。病斑の上には、最初は白い綿のような菌糸の塊が現れ、やがて茶褐色の小さな粒(菌核)が形成されます。この菌核は翌年の感染源となるため、その形成を抑えることが重要です。
湿度が高い条件では、病斑部分で胞子が長期間作られ続けます。また、茎と茎の間にクモの巣のような白い菌糸が見えることもあり、これは病気が活発に活動している証拠です。
ひどくなった時(上位進展)
病気がさらに進行すると、下位の葉鞘から上位の葉鞘へと順次広がっていきます。この「上位進展」は、菌糸が葉鞘の表面や内側を伝って上に向かって進んでいく現象です。イネの生育とともに病気も上に向かって進み、最終的には最上位の葉鞘(止葉葉鞘)に到達します。
病勢が激しい場合は、葉鞘だけでなく葉身(葉の部分)にも感染が広がります。葉身に感染すると光合成能力が大幅に低下し、稲の生育に深刻な影響を与えます。さらに進行すると、穂への感染も起こり、直接的な収量減少の原因となります。
上位進展の速度は気象条件に大きく左右されます。高温多湿の条件下では1日で数センチも進展することがあり、あっという間に被害が拡大してしまいます。この段階に至る前の早期発見・早期対策が極めて重要です。
穂に出る症状

出典情報:紋枯病(島根県農業技術情報)
穂首いもち(白穂になる)
穂首いもちは穂の付け根の部分(穂首節)が侵される病気で、紋枯病の中でも最も深刻な被害をもたらします。穂首部分に暗褐色の病斑が生じ、速やかに穂首節全体に広がります。病変部分は中央が灰褐色から茶褐色、周辺部が濃褐色から黒褐色となって枯死します。
病変部から先端は水分や養分の供給が断たれるため、穂全体が萎れて枯れてしまいます。この状態を「白穂」と呼び、その部分の籾は完全に不稔となってしまいます。白穂が多発すると、見た目にも明らかに収量が減少していることが分かります。
穂が最も感染しやすいのは出穂から開花時期で、この時期の感染は収量に最も大きな影響を与えます。特に出穂期に高温多湿の条件が続くと、短期間で多数の穂に感染が広がり、壊滅的な被害をもたらすことがあります。
枝梗・籾への感染
枝梗いもちは穂の枝分かれした部分に発生する病害で、穂首いもちとほぼ同様の症状を示しますが、色調はやや淡く見えることが多いです。枝梗が侵されると、その先の籾への養分供給が断たれるため、籾は充実せずに不稔となります。
籾いもちは籾そのものに発生する病害です。出穂間もない籾では最初に退緑色の症状を示し、徐々に褐色に変化していきます。籾全体が侵されると、そこから枝梗への枯れ下がりの原因となることもあります。
これらの穂での病害は、直接的な減収要因として極めて深刻です。また、感染した籾は次年度の重要な伝染源となるため、種子管理の観点からも重要な意味を持ちます。自家採種を行う場合は、健全な穂から種子を採取することが重要です。
他の病気と間違えやすいもの
いもち病との違い
いもち病の病斑は細長い紡錘形で、特徴的な「壊死線」と呼ばれる枯れた葉脈が病斑から伸びます。一方、紋枯病の病斑は楕円形で、周縁部が褐色、中央部が灰白色となる三色構造が特徴です。また、紋枯病は主に葉鞘に発生しますが、いもち病は葉身にも多く発生します。
発生部位も大きく異なります。紋枯病は水際に近い下位葉鞘から始まりますが、いもち病は葉身のどの部分にも発生する可能性があります。また、紋枯病では茶褐色の菌核が形成されますが、いもち病では菌核は作られません。
発生時期にも違いがあります。紋枯病は高温期(22℃以上)に発生しますが、いもち病はより涼しい条件(16~25℃)で多発します。これらの違いを理解することで、適切な診断と対策が可能になります。
ごま葉枯病・すじ葉枯病との違い
ごま葉枯病の病斑は楕円形ですが、紋枯病のような三色構造にはならず、褐色の斑点が特徴です。また、発生時期が紋枯病より遅く、生育後半に目立つようになります。穂での症状も、紋枯病のような白穂にはならず、黒色の短い条斑が現れます。
すじ葉枯病は葉脈に沿って細長い紫褐色の条斑を形成し、紡錘形の病斑とは明確に区別できます。条斑の幅は1mm程度で、両端が尖った特徴的な形をしています。紋枯病の楕円形病斑とは全く異なる症状パターンを示します。
正確な診断は適切な防除を行う上で極めて重要です。判断に迷う場合は、地域の普及センターやJAの技術者に相談し、確実な診断を受けることをお勧めします。
紋枯病が出やすい条件
天気・気候
高温多湿の条件
紋枯病菌の活動には温度が最も重要な要素で、気温22℃以上になると活動を始めます。最も活発になるのは25~30℃の範囲で、この温度帯での発生リスクが急激に高まります。特に夜間も気温が下がらない熱帯夜が続くと、菌の活動時間が長くなり被害が拡大しやすくなります。
湿度も発病に大きく影響します。相対湿度80%以上の高湿度条件が続くと、菌糸の伸長や胞子の形成が活発になります。特に朝露が午前10時頃まで残るような条件では、感染のリスクが大幅に高まります。
梅雨明け後の猛暑と高湿度が組み合わさると、紋枯病にとって最適な環境となります。この時期は特に注意深い観察と、必要に応じた予防的防除が重要になります。最近の気候変動により、このような条件が長期間続くことが多くなっており、被害のリスクが高まっています。
雨が続く時期
出穂期に降雨が続くと、紋枯病菌の感染や増殖が大幅に助長されます。雨による湿度の上昇は、胞子の形成・飛散・感染のすべての段階を促進します。特に穂が最も感染しやすい出穂から開花期に雨が続くと、穂いもちの多発につながります。
長雨により日照不足が続くと、稲の体質も軟弱になり病気に対する抵抗力が低下します。また、気温が低く保たれることで、紋枯病菌にとって好適な環境が長時間継続します。このような条件下では、病気の進展速度も速くなる傾向があります。
台風や前線の影響で断続的に雨が降る場合も要注意です。雨の合間に高温になると、非常に危険な条件となります。気象予報をこまめにチェックし、危険な気象条件が予想される場合は予防的な薬剤散布を検討することが重要です。
田んぼの環境

出典情報:図説:水稲の主要生育ステージとその特徴
肥料のやりすぎ(特に窒素)
窒素肥料の多施用は、紋枯病発生を助長する最も重要な要因の一つです。稲体内に可溶性窒素が多くなると、紋枯病菌に対する抵抗力が著しく低下します。特に窒素成分が急激に上昇するような施肥は避けるべきで、施肥量だけでなく施肥のタイミングにも注意が必要です。
窒素過多の稲は葉色が濃くなり、茎葉が軟弱に育ちます。このような稲は病原菌にとって侵入しやすく、感染後の病気の進展も速くなります。また、過繁茂により株間の通風が悪くなり、湿度が高く保たれることも発病を助長します。
適正な施肥量は地域や土壌条件により異なりますが、一般的には窒素成分で10a当たり8~12kgが目安となります。土壌診断を行い、土壌の肥沃度に応じた適切な施肥計画を立てることが重要です。特に追肥は稲の生育状況を見ながら慎重に行いましょう。
日当たりが悪い環境
山際など日陰になりやすい水田では、紋枯病が多発しやすい傾向があります。日照不足により結露時間が長くなるだけでなく、稲の体質も軟弱になり抵抗性が弱くなります。また、気温が低く保たれることで、紋枯病菌にとって好適な環境が長時間継続します。
周囲を山や林に囲まれた田んぼでは、風通しも悪くなりがちです。無風状態が続くと、株間の湿度が高く保たれ、菌糸の伸長が促進されます。また、朝霧や靄が発生しやすく、これも病気の発生を助長する要因となります。
このような立地条件の田んぼでは、品種選択により一層の注意を払い、抵抗性の強い品種を選ぶことが重要です。また、予防的な薬剤防除を徹底し、密植を避けて通風を確保することも効果的です。
水管理の問題
常時深水管理を行っている田んぼでは、株間の湿度が高くなり紋枯病の発生リスクが高まります。水深が10cm以上になると、水面からの蒸発により田面付近の湿度が90%以上に保たれ、菌糸の活動が活発になります。
沢水など冷水を使用している水田では、さらにリスクが高くなります。冷水により稲の根圏温度が低下すると、稲の生育が抑制され抵抗性が弱くなります。また、水面からの蒸発により湿度が高く保たれ、結露時間も長くなりがちです。
適切な水管理は、移植後は2~3cmの浅水、分げつ期は3~5cm、出穂期前後は5~7cmの水深を保つことです。また、最高分げつ期には中干しを行い、根系の発達を促すとともに過繁茂を防ぐことが重要です。
品種による違い
抵抗性の強い品種・弱い品種
稲品種の紋枯病抵抗性には大きな違いがあり、品種選択は最も基本的な防除対策です。一般的に、1970年代以降に普及した良食味品種の多くは抵抗性が弱く、栽培時には特別な注意が必要です。
抵抗性の強い品種としては、「ちほみのり」「まっしぐら」「つがるロマン」などがあります。これらの品種は同じ栽培条件でも発病が少なく、薬剤防除の回数を減らすことができます。一方、「コシヒカリ」「ひとめぼれ」「あきたこまち」などの主要品種は中程度の抵抗性を持ちます。
品種選択の際は、抵抗性だけでなく、収量性・品質・食味・地域適応性を総合的に考慮する必要があります。地域の普及センターや農業試験場に相談し、地域の気象条件や病原菌の分布状況を考慮して、最適な品種を選択しましょう。
早生品種・短稈品種のリスク
早生品種は抵抗力が低下する時期と高温期が重なりやすく、紋枯病の被害を受けやすい傾向があります。特に早期栽培では、幼穂形成期から登熟期にかけて7~8月の最も暑い時期と重なるため、病気の進展が急激に進みます。
短稈品種では、病斑の上位葉鞘への進展距離が短いため、穂への到達が容易になりリスクが高まります。草丈が60cm以下の品種では、特に注意深い管理が必要です。
多げつ性品種では、株内の茎数が多くなるため株間湿度が高まり、病勢進展が激しくなります。また、茎同士の接触機会も増加し、菌糸による直接伝染のリスクも高まります。これらの品種を栽培する場合は、密植を避け、適正な水管理と施肥管理を行うことが重要です。
紋枯病の予防と対策
予防が大切
代かき後の清掃作業
紋枯病の第一次伝染源は、前年に形成された菌核です。これらの菌核は代かき時に水面に浮上するため、代かき後に浮遊している菌核を植物残渣とともに物理的に除去することが最も効果的な予防法です。
代かき後2~3日経つと、菌核や植物残渣が水面に浮き上がってきます。この時期に、熊手や網を使って水面の浮遊物をすくい取ります。特に畦畔際は菌核が集積しやすいので、重点的に清掃しましょう。除去した残渣は圃場外で適切に処分することが重要です。
この作業により、感染源を70~90%減らすことができ、初発時期を2~3週間遅らせる効果があります。10a当たり1~2時間程度の作業で大きな予防効果が得られるため、コストパフォーマンスの高い対策といえます。
抵抗性品種を選ぶ
抵抗性品種の利用は、最も経済的で環境に優しい防除法です。抵抗性品種は同じ栽培条件でも発病が少なく、薬剤防除の回数を減らすことができます。また、抵抗性崩壊が起こりにくく、安定した防除効果が期待できます。
2010年代以降、抵抗性を強化した良食味品種の開発が進んでいます。地域の奨励品種の中から、抵抗性評価の高い品種を選択することが重要です。ただし、抵抗性だけでなく、収量性・品質・食味も考慮した総合的な判断が必要です。
品種選択の際は、地域の普及センターやJAの技術者に相談し、地域の気象条件や栽培体系に適した品種を選びましょう。また、複数品種を組み合わせることで、リスクの分散と作業の分散を図ることも効果的です。
肥料の調整
適切な施肥管理は、紋枯病予防の重要なポイントです。特に窒素成分については、稲体内の窒素が急激に上昇しないよう、量と施肥タイミングの両方に注意を払う必要があります。多肥を避け、稲の生育段階に応じた適切な施肥を心がけることで、稲の抵抗性を維持できます。
土壌診断に基づく適正施肥が基本となります。窒素成分は10a当たり8~12kgを目安とし、元肥と追肥のバランスを考えて施用します。特に追肥は、稲の生育状況と葉色を確認しながら慎重に行いましょう。
ケイ酸カルシウム(ケイカル)を10a当たり150~200kg施用すると、紋枯病の発生を抑制する効果があります。特に灌漑水にケイ酸分が少ない地域では有効です。また、有機質肥料の併用により、土壌の物理性を改善し、稲の健全な生育を促すことも重要です。
薬での防除
育苗箱での薬剤処理
育苗箱施用剤は、移植後早期からの紋枯病防除に最も確実で効果の高い方法です。長期残効型の薬剤を使用すれば、通常年では紋枯病流行のほぼ全期間を防除できます。また、他の病害虫との同時防除も可能で、非常に効率的な防除法です。
主要な育苗箱施用剤には、イソチアニル粒剤、フラメトピル粒剤、ペンチオピラド粒剤などがあります。これらの薬剤は播種時覆土前、緑化期、移植直前など、薬剤に応じて適切なタイミングで施用します。移植当日または前日の処理がより効果的で、省力化も図れます。
施用量は育苗箱1箱当たり50g(苗100本当たり3~4g)が標準です。育苗箱全面に均一に散布し、軽く土と混和します。高温時の施用は薬害のリスクがあるため、気温の低い時間帯に作業を行いましょう。
田んぼでの薬剤散布
本田での薬剤防除には、粒剤の水面施用と散布剤の茎葉散布があります。粒剤は初発の7~20日前から施用でき、水深3cm以上を数日間保つことが効果発現の条件です。散布剤は基本的に予防効果の高いものを選択し、初発確認から1週間以内の散布が原則です。
粒剤の水面施用は、出穂30~10日前が適期です。湛水状態で処理し、施用後3~4日間は止水を保ちます。乾田状態やかけ流しでは効果が大幅に低下するので注意が必要です。均一散布を心がけ、特に畦畔際まで確実に散布しましょう。
茎葉散布剤は、株元重点散布が重要です。病患部は株の下部にあるため、ノズルを下向きに調整し、株元に十分薬液がかかるように散布します。風の少ない夕方の時間帯を選び、適正な薬液量(10a当たり100~150L)で散布しましょう。
散布のタイミング
薬剤散布のタイミングは防除効果を大きく左右します。紋枯病に対しては、都道府県が発表する発生予察情報を参考に、適切な時期に実施することが重要です。一般的には、穂ばらみ期から出穂期が最も効果的な散布時期とされています。
発病株率15~20%に達した時点での薬剤散布が基本的な判断基準となります。ただし、気象予報で高温多湿条件が予想される場合は、予防的な散布も検討します。1回の適期散布で済ませることを目標とし、散布時期を逃さないよう注意しましょう。
多発が予想される場合は、幼穂形成期と穂ばらみ期の2回散布を行います。予防剤は感染前の散布が効果的で、治療剤は感染初期に使用することで病斑の拡大を抑制できます。雨中や雨の直前の散布は薬剤流亡のため避けるべきです。
時期別の対策
育苗期から田植えまで

出典情報:育苗器について | 苗の成長と田植え
育苗期は第一次感染を防ぐ最も重要な時期です。健全種子の使用と確実な種子消毒から始まり、育苗箱施用剤の利用により初期感染を防ぎます。播種時、緑化期、移植直前のいずれかのタイミングで薬剤処理を行い、育苗施設周辺に前年の被害稲わらを放置しないよう注意します。
軟弱徒長苗は感受性が高いため、適切な温度・水分管理により健苗育成を心がけることが大切です。育苗箱での過度な潅水は避け、適度な乾燥を保ちます。また、育苗ハウス内の換気を十分に行い、高湿度条件を避けましょう。
田植え時期の調整も重要な対策の一つです。可能であれば、登熟期が高温期を避けるような作期を選択します。早期栽培では特に注意が必要で、品種選択と合わせて総合的に検討しましょう。
田植え後から分げつ期
移植後は補植用苗の管理に注意し、使用後は速やかに処分します。余った苗を田んぼの隅に放置すると、そこから病気が広がる可能性があります。育苗箱施用剤を使用していない場合は、本田施用粒剤による早期防除を実施しましょう。
この時期の肥料管理も極めて重要です。窒素肥料の多施用を避け、稲の抵抗性を維持します。活着後の生育を見ながら、必要に応じて軽い追肥を行いますが、過度な施肥は病気を助長するので注意が必要です。
水管理では、移植後は2~3cmの浅水管理を基本とし、活着を促進します。分げつ期に入ったら3~5cmの水深とし、過度な深水は避けます。最高分げつ期には適度な中干しを行い、根系の発達を促すとともに過繁茂を防ぎます。
発生予察情報に基づいて、紋枯病の初発を注意深く観察することも重要です。特に早生品種や早植え栽培では、この時期から症状が現れる可能性があります。毎日の見回りで、水際の葉鞘に異常がないかチェックしましょう。
穂ばらみ期から出穂期

出典情報:出穂期(2018年)
穂ばらみ期から出穂期は、紋枯病防除の最重要時期です。この時期に病斑の上位進展が最も活発になるため、確実な薬剤散布が必要です。発病株率が15~20%に達した時点、または気象条件から判断して散布を実施します。
穂ばらみ期の薬剤散布は、穂への感染を防ぐ最後のチャンスでもあります。出穂後では薬剤の効果が大幅に低下するため、出穂前の確実な防除が極めて重要です。天候に注意し、雨の前に散布が完了するよう計画を立てましょう。
出穂期の天候不順により出穂期間が長引く場合は、追加防除を検討します。特に出穂期に雨が続く場合は、穂への感染リスクが急激に高まるため、天候の回復を待って追加散布を行います。
この時期の水管理では、出穂前後は水切れを避け、5~7cmの安定した水深を保ちます。出穂期の水不足は稲にストレスを与え、病気に対する抵抗力を低下させるため注意が必要です。
出穂後から収穫まで
出穂後は穂が感染リスクにさらされる期間が続きます。穂は出穂後15日程度まで感染の可能性があるため、気象条件を注意深く観察し、必要に応じて穂揃期の追加散布を検討します。ただし、出穂後20日以降の散布は効果が大幅に低下するため、費用対効果を慎重に判断しましょう。
この時期に病気が激発した場合は、倒伏防止対策が重要になります。罹病茎は強度が低下し、倒伏しやすくなります。倒伏すると被害がさらに拡大するため、必要に応じて支柱の設置などの物理的支持を検討します。
登熟期の水管理では、出穂後20~25日頃から段階的な落水を開始します。ただし、急激な落水は避け、稲の登熟に支障をきたさないよう注意深く行います。また、早期収穫により病気の進展を食い止めることも一つの対策です。
収穫後は被害残渣の適切な処理が重要です。稲わらをすき込む場合は、できるだけ早く行い、菌核の分解を促進します。また、畦畔の雑草管理を徹底し、越冬場所を減らすことで翌年の発生源を削減できます。
よくある質問
いつ頃から注意すればいい?
紋枯病は稲の生育期間全体を通じて注意が必要ですが、特に重要な時期があります。まず田植え直後から分げつ期にかけては、初発の確認が重要です。病原菌は気温22℃以上で活動を始めるため、地域により時期は異なりますが、暖地では6月下旬頃から、寒冷地では7月下旬頃から注意が必要です。
最も警戒すべきは穂ばらみ期から出穂期で、この時期の感染は収量に直結します。気象情報と発生予察情報をこまめにチェックし、高温多湿の条件が予想される場合は特に注意深く観察しましょう。
早生品種や早期栽培では、他より2~3週間早い時期から症状が現れる可能性があります。品種の特性と作期を考慮して、適切な時期から観察を開始することが重要です。
薬はいつまくのがベスト?
薬剤散布の最適なタイミングは、使用する薬剤と対象とする病害の進行段階により異なります。予防を目的とする場合は、発病株率が15~20%に達した時点、または気象条件から判断して感染が予想される前に散布します。
育苗箱施用剤は移植当日または前日の処理が最も効果的です。本田での粒剤施用は出穂30~10日前が適期で、茎葉散布剤は穂ばらみ期から出穂期が基本となります。
治療を目的とする場合は、初発確認から1週間以内の散布が効果的です。ただし、出穂後は薬剤の効果が大幅に低下するため、出穂前の確実な防除が重要です。気象予報を参考に、雨の前に散布が完了するよう計画を立てましょう。
有機栽培でもできる対策は?
有機栽培では化学農薬が使用できないため、耕種的防除が中心となります。最も重要なのは抵抗性の強い品種の選択で、品種による防除効果は化学防除に匹敵する場合もあります。地域の奨励品種の中から、抵抗性評価の高い品種を選択しましょう。
代かき後の菌核除去は、有機栽培でも実施できる効果的な対策です。物理的に感染源を除去することで、発病リスクを大幅に低減できます。また、適正な施肥管理により稲の抵抗性を維持することも重要です。
ケイ酸資材の施用、適切な水管理、栽培環境の改善(日当たり、通風など)により発病を抑制できます。また、発病株の早期除去や被害残渣の適切な処理により、伝染源を減らすことも有効です。
発生してしまった時の対処法は?
紋枯病が発生してしまった場合は、速やかな対応が被害拡大防止の鍵となります。まず発病程度と病斑の状態を確認し、上位進展の速度を把握します。病斑の上位進展が活発な場合は、直ちに治療効果のある薬剤による散布を検討しましょう。
同時に、窒素追肥を控え、水管理を見直して稲の抵抗性回復を図ります。過度な深水は病気の進展を助長するため、適正な水深に調整します。また、倒伏防止のための対策も重要で、必要に応じて支柱の設置を検討します。
出穂後に穂への感染が確認された場合は、被害籾の除去と次年度の種子確保に注意が必要です。自家採種を行う場合は、健全な穂から種子を採取しましょう。収穫後は被害残渣の適切な処理を行い、翌年の感染源を減らすことが重要です。
まとめ
紋枯病対策のポイント
紋枯病の効果的な防除には、予防を基本とした総合的な対策が重要です。最も基本となるのは、代かき後の菌核除去、抵抗性品種の選択、適切な施肥管理による稲の抵抗性維持です。これらの耕種的防除を確実に実施することで、薬剤防除の負担を大幅に軽減できます。
薬剤防除では、育苗箱施用による初期防除と、発生予察情報に基づく適期防除が効果的です。特に穂ばらみ期から出穂期の防除は収量に直結するため、この時期の確実な防除が欠かせません。1回の適期散布で済ませることを目標とし、タイミングを逃さないよう注意しましょう。
経済的な観点からも、予防投資の効果は極めて高いです。適期防除により2,000~3,000円の投資で、10~30万円の被害を回避できます。発病後の対応よりも予防的対策に重点を置き、気象条件と稲の生育状況を総合的に判断した防除計画を立てることが成功の鍵となります。
継続的な管理の必要性
紋枯病は単年度の対策だけでは十分でなく、継続的な管理が必要な病害です。菌核が土壌中で2~3年間生存するため、一度発生した圃場では翌年以降も注意が必要です。しかし、適切な管理により被害を段階的に軽減することは十分可能です。
品種の見直し、栽培環境の改善、圃場衛生管理など、中長期的な視点での取り組みが重要です。特に排水改善や畦畔管理などの基盤整備は、一度実施すると長期間効果が持続します。
薬剤抵抗性の発生を防ぐため、同一系統薬剤の連用を避け、異なる作用機作の薬剤をローテーション使用することも大切です。また、気候変動により発生パターンも変化する可能性があるため、最新の技術情報と発生動向に注意を払う必要があります。
専門機関への相談窓口
紋枯病対策で困った際は、各地の専門機関に相談することをお勧めします。都道府県の農業改良普及センター、農業試験場、JAの営農指導員などが主な相談窓口となります。これらの機関では、地域の発生動向、適用薬剤、防除タイミングなど、具体的で実践的なアドバイスが得られます。
病害診断サービスを利用することで、確実な診断に基づく適切な対策を立てることができます。紋枯病と他の病害の見分けが困難な場合は、迷わず専門家に相談しましょう。正確な診断は適切な防除の第一歩です。
最新の研究成果や技術情報についても、これらの専門機関を通じて入手できます。継続的な情報収集の窓口としても活用し、地域の技術者や他の農家との情報交換も積極的に行いましょう。一人で悩まず、専門家の知識と経験を活用することで、より効果的な紋枯病対策を実現できます。
記録の蓄積により、自分の田んぼの特性を把握することも重要です。発生時期、気象条件、防除効果などを記録し、翌年以降の対策に活用しましょう。継続的な観察と記録により、その圃場に最適な防除体系を確立できます。



