
作物を健康に育て、収量や品質を高めるためには、三大栄養素に加えて「微量要素」の適切な補給が欠かせません。中でも硫黄(イオウ)は、アミノ酸やビタミン、たんぱく質の合成に欠かせない栄養素です。
近年では、工場排煙規制の影響で大気中の硫黄供給が減少し、圃場での硫黄不足が顕在化しています。この記事では、硫黄肥料の効果やメリット・デメリット、種類と使い方、注意点までを農家目線でわかりやすく解説します。
硫黄は作物にとってどんな働きをする栄養素か?
硫黄(イオウ)は、作物が正常に育つために欠かせない「必須微量要素」のひとつです。窒素・リン酸・カリウムのように大量には必要とされないものの、作物の根本的な代謝活動や成長に深く関わっている栄養素です。
特に重要なのが、硫黄がたんぱく質の原料となる含硫アミノ酸(システイン・メチオニン)の合成に不可欠という点です。これらのアミノ酸は、作物の細胞を構成したり、酵素を活性化させたりする役割を持ちます。硫黄が不足すると、これらの合成がうまくいかなくなり、光合成の効率が下がったり、生育が鈍くなったりします。
また、ねぎ・にんにく・玉ねぎといった香味野菜では、風味や香りの源となる含硫化合物の生成にも硫黄が関わっており、「味の濃さ」や「香りの強さ」に直結します。硫黄が足りないと、「見た目は良いけど味が薄い」「日持ちしない」といったトラブルが起きやすくなります。
さらに、硫黄が不足すると、**新しく出てきた葉(新葉)が黄色っぽくなる「黄化症状」**や、全体的な生育遅れといった兆候が見られます。これらは一見すると窒素不足に見えますが、硫黄特有の症状として、葉の“若い部分”から黄変が始まるのが特徴です。硫黄の不足は、気づきにくいけれど確実に品質・収量に影響します。
アブラナ科野菜での重要性
キャベツ、ブロッコリー、はくさいなどのアブラナ科作物は、硫黄の要求量がとくに高い作物群です。これは、これらの野菜が生理的に硫黄を多く含む物質(グルコシノレートなど)を合成する性質を持っているためです。
硫黄が不足すると、葉がうまく展開せず、巻きが甘くなる・葉が小さいまま止まるといった症状が出やすくなります。また、黄化やチップバーン(葉先が枯れる現象)が出る場合もあります。
アブラナ科は市場での品質評価が見た目で決まりやすいため、葉がきれいに展開しないと出荷できない・等級が下がるといった事態にもなりかねません。
香味野菜の風味を左右する
ねぎ・にんにく・玉ねぎ・らっきょうなど、香りの強い野菜の“おいしさ”は、硫黄に含まれる化合物(アリシンなど)によって決まるといっても過言ではありません。
硫黄が十分にあると、これらの野菜は香りが強く、辛味も適度にあり、保存性も良くなるという傾向があります。
一方、硫黄が不足していると、にんにくの香りが弱い・ねぎの味がぼやけている・玉ねぎが傷みやすいといった現象が出ることがあります。硫黄施肥は、“味の良さ”や“リピーターを生む品質”につながる重要なポイントです。
小麦や大豆のたんぱく質形成に関与
小麦や大豆のような穀類・豆類において、硫黄はたんぱく質の量と質を左右する要素として非常に重要です。特に小麦では、グルテンの形成に硫黄が関わるため、製パン・製麺用途に適した品質を得るには不可欠です。
実際に、硫黄を適切に施した圃場では、たんぱく質含有量が1〜2ポイント上がり、等級が一段階上がるという事例もあります。これは買取価格のアップにもつながり、経営面でのメリットも大きいといえます。
大豆でも硫黄をしっかり与えることで、粒のしまりが良くなり、油分やたんぱく質含有量が安定します。
硫黄肥料を使うメリット
硫黄肥料を適切に使うことで、作物の品質・収量・風味・病気への強さ・土づくりといった、農業経営に直結するさまざまなメリットが得られます。
かつては雨や空気中から自然と供給されていた硫黄ですが、現在では意識して施肥しなければ足りなくなることも多く、「効いてない肥料」「なぜか味が落ちた」などの原因が、実は硫黄不足である場合もあります。
硫黄は「見えないけれど、作物の中でしっかり働く」影の立役者。ここではそのメリットを詳しく見ていきましょう。
作物の品質・収量がアップする
硫黄がしっかり効いていると、作物のアミノ酸やたんぱく質の生成がスムーズになり、光合成の働きも高まります。結果として、茎葉がよく茂り、根張りも良くなるため、栄養の吸収力が向上。
この好循環が、しっかりした実や根の肥大化につながり、最終的な収量アップに直結します。
また、硫黄によって粒の詰まりや締まりも良くなり、見た目や等級面での“商品価値”も向上します。実際、小麦や豆類ではたんぱく質含量の増加が目に見えて現れることも多いです。
病害への耐性を高める
硫黄は、作物自身が持つ生理的な防御反応(抵抗性)を活性化する役割があります。硫黄が十分にあると、葉や茎の細胞が丈夫になり、うどんこ病や灰色かび病といった真菌性の病気にかかりにくくなります。
とくにキャベツやレタスなど、葉が主体の作物では、葉面からの侵入を防ぐ壁が厚くなるイメージです。減農薬・有機栽培を目指している農家さんにとっては、農薬以外の“防除手段”として硫黄を活用する価値が十分にあります。
土壌のpH矯正に使える
圃場の土壌pHが7.0〜7.5以上に上がっている場合、ミネラルの吸収がうまくいかず、作物の生育が鈍くなることがあります。そうした場面では、硫黄肥料(とくに元素状硫黄)を使うことで、土壌を弱酸性に近づけることが可能です。
これは、硫黄が土壌中で硫酸に変わる際に酸を出し、石灰によって高くなったpHを緩やかに下げる働きがあるためです。
水田の転作畑や、石灰を多く使った畑などでは、この硫黄のpH調整効果が活きてきます。
野菜の風味や香りを強化
硫黄は、にんにく・玉ねぎ・らっきょう・ねぎといった香味野菜の味や香りの成分の合成に深く関わっています。
硫黄をしっかり施して育てた作物は、「辛味がしっかりある」「香りが強くて料理に使いやすい」といった市場評価を受けやすく、リピーターがつく“売れる野菜”になりやすいです。
とくに産直や直売所での販売では、「味が濃い」と言ってもらえることがブランド化につながるので、硫黄施肥はその一歩となる可能性があります。
硫黄肥料を使うデメリットと注意点
硫黄は作物にとって非常に重要な栄養素ですが、どんな肥料でも「やりすぎ」は禁物です。とくに硫黄の場合は、土壌に影響を与える力が強いため、施用量や施用タイミング、他の養分とのバランスに注意しなければなりません。
ここでは、実際の圃場で起こりうる硫黄肥料のデメリットや注意点を、4つのポイントに分けて紹介します。
過剰施用による土壌酸性化
硫黄は土のpHを下げる作用を持っているため、多量に施すと土壌が強い酸性になってしまう可能性があります。
特に、すでにpHが低め(5.5以下)の圃場では注意が必要で、カルシウムやマグネシウムなどの吸収が妨げられ、逆に生育障害を引き起こす原因になります。
酸性化が進むと、作物によっては根がうまく張れず、病気も発生しやすくなるため、事前の土壌診断を必ず行うようにしましょう。
肥料焼けのリスク
硫黄肥料のうち、硫酸アンモニウムや硫酸カリなどの硫酸塩系は、強い肥料成分を含むため、根に直接触れると“肥料焼け”を起こす可能性があります。
とくに幼苗や育苗期の作物では要注意で、元肥として土に混ぜ込む場合も、作物の根から離れた場所に施す・水で薄めて施すといった工夫が必要です。
施肥位置や希釈倍率に注意しながら、“効かせるけど効きすぎない”使い方がポイントです。
塩類濃度の上昇に注意
硫酸塩系の硫黄肥料を長期的・大量に使用すると、土壌中の塩類濃度(EC値)が上がりやすくなります。
ECが高くなると、浸透圧障害(根が水を吸いづらくなる現象)や根傷みを引き起こす可能性があります。
とくにハウス栽培などでは水分調整も難しいため、年1回は土壌分析を行い、EC値と硫黄量のバランスを確認することをおすすめします。
他成分とのバランスが崩れる可能性
硫黄を施肥すると、土壌中のカリウム・マグネシウム・カルシウムといった他の陽イオン栄養素との吸収バランスに影響を与えることがあります。
特に、マグネシウムと硫黄の拮抗関係が強く、硫黄過多になると苦土欠乏(葉の縁が黄変するなど)が発生することも。
そのため、硫黄施肥を行う際は、苦土石灰などを併用してミネラルバランスを整えるのが賢い方法です。土壌分析に基づいた設計が、トラブル防止につながります。
このように、硫黄肥料はうまく使えば“作物の隠れた力”を引き出してくれる栄養素ですが、使いすぎればリスクもあるもの。
「どの作物に、いつ、どれだけ与えるか」を見極めて、土と作物に合わせた“ちょうどよい施肥”を心がけていきましょう!
硫黄肥料の種類とそれぞれの使い分け
硫黄肥料と一口に言っても、種類によって効果の出方や使い方が大きく異なります。目的に応じて適切なタイプを選ばないと、期待する効果が得られないだけでなく、逆に生育障害を招くリスクも。
ここでは主に使われている硫黄肥料の3種類(硫酸塩系、元素状硫黄、有機資材)について、その特徴と向いている使い方をわかりやすく解説します。
硫酸塩系肥料(速効性タイプ)
硫酸アンモニウム、硫酸カリ、硫酸マグネシウムなどがこれに当たります。
水に非常に溶けやすく、速やかに硫黄が吸収されるため、追肥や応急処置に向いています。例えば、葉色が悪くなってきたタイミングや、風味を強くしたい時期に使うと効果的です。
- 【例1】ねぎやにんにくで風味強化のために追肥
- 【例2】小麦の生育期にたんぱく質を増やす目的で施用
ただし、塩類濃度が上がりやすいため、連用や多量施肥は避けるのが鉄則です。
元素状硫黄(遅効性タイプ)
「硫黄華」「粒状硫黄」などの名称で流通しています。微生物の働きによってゆっくり硫酸に変化し、作物に吸収されていきます。
効果が出るまで時間がかかる反面、土壌改良やpH矯正には最適です。特に、石灰でアルカリ性に傾いた圃場や、水はけの悪い畑に向いています。
- 【例1】定植前にすき込んで土壌の酸性度を調整
- 【例2】連作障害対策として元素状硫黄を元肥に混ぜる
分解には温度と水分、微生物の活動が必要なので、寒冷地や乾燥地では効果が出にくい点に注意。
有機資材に含まれる硫黄(じっくり型)
油かす・鶏ふん・米ぬか・魚かすなど、有機資材にも硫黄は含まれています。これらは微生物の分解によってじわじわと硫黄が放出されるため、作物の根にやさしく、長期的な効果が期待できます。
- 【例1】有機栽培圃場で、堆肥+油かすをベースに硫黄も確保
- 【例2】根菜類の土づくりで、硫黄を含む鶏ふんを施用
即効性はないものの、長期的に“じわっと効かせたい”場合や、他の養分との相乗効果を狙う場面におすすめです。
作物や目的別の使い分けがポイント
- 品質・風味をすぐに上げたい → 硫酸塩系を追肥で
- 土壌改良やpH対策をしたい → 元素状硫黄を元肥で
- 有機肥料中心で管理したい → 鶏ふん・油かすなど有機系を活用
このように、作物の種類・時期・目的に応じて適材適所の選択が大切です。
硫黄肥料の施用方法と使い方のポイント
硫黄肥料の効果をしっかり引き出すには、ただ与えるだけでなく、“どう使うか”がとても重要です。特に、施用時期・施用場所・施用量の3点を押さえることで、過不足なく安全に活用できます。
ここでは、現場で実践しやすい硫黄施肥の基本的な考え方とコツをご紹介します。
元素状硫黄は定植の2~3週間前に施用
元素状硫黄はそのままでは作物に吸収されず、土中の微生物が分解して「硫酸イオン」に変える必要があります。
そのため、最低でも定植の2~3週間前に土壌にすき込んでおくのが基本です。早めに施用することで、作付け時には吸収可能な形に変わり、生育初期からしっかり効果を発揮します。
硫酸塩系は生育期の追肥として活用
硫酸塩系肥料は即効性があるため、生育途中での葉色改善・たんぱく質強化・風味向上を目的とした追肥に適しています。
例として、小麦の出穂前、大豆の着莢期、ねぎの太り始めなどが追肥タイミングとして有効です。
ただし、根に直接触れないよう、株元から少し離れた場所に施用するか、灌水後に施すと安全です。
肥料焼けを防ぐための希釈や分施も有効
とくに硫酸アンモニウムなどの強めの肥料は、薄めて使う・複数回に分けて与えるなどの工夫で、作物への負担を軽減できます。
たとえば、液肥で使う場合は500〜1000倍希釈が基本。水にしっかり溶かして葉面散布すれば、速効性を活かしつつ肥料焼けのリスクも減らせます。
苦土石灰などとの併用でpHバランスを保つ
硫黄には土壌酸性化のリスクがあるため、石灰や苦土とのバランスも意識することが重要です。
とくに酸性土壌では、苦土石灰と一緒に使うことでpHを調整しつつ、カルシウムやマグネシウムなどのミネラルも補給できます。
土壌分析を定期的に行い、硫黄を施す“タイミングと量”を見極めることが成功の鍵です。
これらを意識することで、硫黄の力をムダなく活かし、品質アップ・収量アップ・土壌改良という3つの成果が期待できます。
“よく効く肥料”ほど、丁寧な扱いが大切というのは、硫黄にもぴったり当てはまる言葉です。
まとめ|硫黄は“見えない品質”を支える重要成分
硫黄は、窒素やカリウムほど目立つ存在ではありませんが、作物の品質・味・病気への強さ・土の健康にまで関わる、まさに“縁の下の力持ち”ともいえる栄養素です。
特に最近では、大気中から自然に供給されていた硫黄が減っているため、施肥設計の中でしっかり意識しないと、気づかないうちに不足してしまうこともあります。
「葉色が悪い」「収量が落ちた」「味がぼやける」といった不調の原因が、実は硫黄不足だったというケースは少なくありません。
しかし、逆にいえば、硫黄を上手に補えば、作物本来の力をしっかり引き出せるということでもあります。
小麦や大豆ではたんぱく質含量がアップし、ねぎやにんにくでは風味が強くなり、アブラナ科野菜では葉がよく伸びて巻きも良くなる。施肥のひと工夫が、作物の“売れる力”を引き出してくれるのです。
ただし、酸性化や肥料焼けといったリスクもあるため、土壌診断や施用バランスに注意を払いながら使うことが大切です。施用時期・肥料の種類・作物の特性をしっかり見極めることで、リスクを抑えつつ効果を最大限に引き出せます。
「最近、思ったほど実が太らない」「味の評価がいまひとつ」と感じたときには、硫黄の見直しを検討してみてはいかがでしょうか?
見えないけれど確かな力を持つ硫黄は、これからの土づくりと品質重視の農業に欠かせない存在になるはずです。
監修者
人見 翔太 Hitomi Shota

滋賀大学教育学部環境教育課程で、環境に配慮した栽培学等を学んだ後、東京消防庁へ入庁。その後、株式会社リクルートライフスタイルで広告営業、肥料販売小売店で肥料、米穀の販売に従事。これまで1,000回以上の肥料設計の経験を活かし、滋賀県の「しがの農業経営支援アドバイザー」として各地での講師活動を行う。現在は株式会社リンクにて営農事業を統括している。生産現場に密着した、時代にあった実践的なノウハウを提供致します。
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