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分げつとは?稲の茎数を増やして収量を上げる管理方法を解説

稲作において「分げつ」は、ただの生育過程のひとつではありません。分げつがうまくいくかどうかで、収穫量も品質も大きく変わってきます。

「今年は茎数が少なかった」「実入りが悪かった」──そんな悩みの原因、もしかすると分げつ管理にあるかもしれません。

本記事では、分げつの基礎知識から、水・肥料によるコントロール方法、分げつを活かした収量アップの具体的なコツまでを、農家の目線でわかりやすく解説します。分げつの意味を改めて見直し、あなたの稲作に生かしてみませんか?

分げつとは?稲作の収量を左右する重要なステージ

稲作において「分げつ(ぶんげつ)」は、収量を大きく左右する重要なプロセスです。分げつとは、稲の茎から新しい茎(分げつ茎)が側芽として発生する現象で、1株から多くの茎が育つことで穂数が増加し、結果的に収穫量にも直結します。この時期に適切な管理を行うことで、分げつ数をコントロールし、品質の高い稲作が可能になります。分げつのタイミングやその進行状況を見極め、水や肥料の調整、除草対策などを適切に行うことが、高収量への鍵となります。

分げつ期に入った幼穂

分げつ期になると、稲の茎の中で「幼穂(ようすい)」と呼ばれる次の生長段階が始まります。幼穂は将来の穂のもととなるもので、この時期にしっかりと栄養を蓄えることが重要です。

分げつのピークと幼穂形成期が重なると、栄養の奪い合いが起きるため、分げつを適度な数に抑えながらも、健全な茎を育てることが求められます。圃場の観察を怠らず、葉色や株の広がりを見ながら管理することで、幼穂の健全な発育を促進できます。

水と肥料によるコントロール

分げつをコントロールするうえで欠かせないのが、水と肥料の管理です。水を切ることで株にストレスを与え、無駄な分げつを抑制し、強い茎だけを残す「間引き効果」が得られます。

一方、分げつ初期には水を十分に与え、茎数を増やすことが推奨されます。肥料に関しても、窒素の過剰施用は過剰な分げつを招くため、適切な量とタイミングでの追肥が必要です。過不足なく管理することで、強く、実りの多い稲作へと導くことができます。

耕しながら除草する「中耕除草」

中耕除草とは、田植え後に畦間を耕して土をやわらかくしながら雑草を取り除く作業です。中耕は土壌中の空気と水分のバランスを整える効果もあり、分げつの促進にもつながります。また、根に酸素が供給されることで根張りが良くなり、健全な分げつ茎の形成が期待できます。除草と同時に土壌改善ができる中耕除草は、分げつ期に非常に有効な管理手法といえるでしょう。

分げつ前の稲の成長過程を知ろう

稲の分げつをうまく管理するには、その前段階である生育ステージを正しく理解しておく必要があります。稲は、種をまいてから発芽・芽出しを経て、本葉が展開し、茎の基部から新たな茎を伸ばす「分げつ期」に入ります。

この間の環境条件や栽培管理が、その後の分げつの量と質を大きく左右します。特に芽出しの段階で根が健全に張ることが、その後の栄養吸収や茎数確保の土台になります。気温、水温、育苗管理など、初期段階での適切な対応が、収穫期に向けた成否を決定づけます。

芽出しから分げつまでの稲の成長過程

芽出しとは、種籾から芽と根が出てくる生理現象のことです。ここで重要なのは、芽出しの揃いを良くすること。発芽がバラつくと苗の生育に差が出てしまい、分げつ数にもムラが生じます。

適温(約30℃)で水を絶やさず、酸素のある状態で芽出しを行うと、均一な苗が揃います。その後の育苗期には、本葉2~3枚の頃に最初の分げつが始まります。この初期分げつが順調に進むことで、以後の茎数と収量を高めることができます。

稲の開花とその生理的特徴

分げつが一段落すると、やがて稲は出穂・開花へと進みます。稲の花はとても小さく、開花は午前中のわずか1〜2時間程度に限られます。この時期に適切な気象条件が揃うことが、受粉・結実の成功につながります。

重要なのは、この生殖成長期に無駄な分げつが多すぎると、幼穂への栄養が分散され、登熟不良を起こすリスクがあることです。生育ステージごとの変化を理解しておくことで、分げつと開花のバランスを取りながら稲を健全に育てることができます。

分げつを促す方法と管理のポイント

分げつは自然に発生するものですが、栽培管理によって増やすことができます。目標とする分げつ数に到達するためには、水や肥料の与え方、気象条件への対応など、いくつかの要素を計画的にコントロールする必要があります。

特に初期分げつの時期(本葉3枚期から5葉期)は、茎数の増加を促す最も重要なタイミングです。この時期に適切な環境と栄養供給が整えば、健全で多収につながる基礎が築かれます。

分げつを増やすための水管理のコツ

分げつを活発にさせるためには、水管理が非常に重要です。一般に田植え直後から活着までは浅水に保ち、その後、分げつを促進するために「間断かんがい」や「中干し」を行います。

分げつ初期には水をしっかりと張ることで株元を安定させ、分げつ数を増やす効果が期待できます。ある程度分げつが進んだら水を抜いて刺激を与えることで、不要な分げつを抑制し、茎の太い強い株を選抜するような効果も得られます。

水を抜く「中干し」が持つ意味

中干しとは、田んぼの水を一時的に抜いて乾燥させる作業です。これにより、根に酸素が供給され、根の伸長が促されます。結果として、根張りがよくなり、倒伏に強く、吸肥力の高い株に育ちます。

また、過剰な分げつを抑えて、本数を適正に保つための効果もあります。中干しの開始時期や期間は地域や品種によって異なりますが、過不足なく行うことが、健全な分げつ管理のカギを握ります。

水管理のタイミングと注意点

水管理のタイミングを誤ると、分げつ数が不足したり、逆に過剰になってしまうリスクがあります。特に、間断かんがいや中干しを行う時期を早めすぎると、分げつが不十分になり、穂数が減ってしまいます。

一方で、過剰に水を張り続けると、根腐れや倒伏の原因になるため注意が必要です。分げつ期の圃場を日々観察し、葉色や茎の状態、水面の変化に気を配ることで、最適なタイミングでの水管理が可能となります。

追肥の効果的なタイミング

分げつを促すには、適切な時期に追肥を行うことが不可欠です。一般的には田植え後10〜15日頃に「分げつ肥」と呼ばれる追肥を行います。タイミングが遅れると効果が薄くなり、早すぎると雑草の発生や肥料の浪費につながることも。

分げつ肥には主に窒素を含んだ資材が使用され、分げつ茎の成長をサポートします。ただし、葉色や稲の育ち具合を観察しながら施肥する必要があり、一律な対応では逆効果になることもあります。

分げつ肥の適正量と施用時期

分げつ肥の量は、田植え時の元肥の量や圃場の地力によって変わります。元肥が多めであれば分げつ肥は控えめに、逆に元肥が少ない場合にはしっかりと追肥を行う必要があります。

施用時期は分げつが始まった頃、本葉4~5枚あたりが目安とされており、この時期に分げつ肥を与えることで、茎の本数と太さの両方を確保できます。タイミングを逃さず適正量を施すことが、健全な分げつに直結します。

窒素の過不足による影響

窒素は分げつを活発にする重要な要素ですが、過剰に与えると軟弱徒長(なんじゃくとちょう)を招き、病害虫に弱く、倒れやすい稲になってしまいます。一方で不足すれば分げつ数が足りず、収穫量の低下を招きます。

葉色や生育の様子を見ながら、追肥を必要最小限に抑えるのが賢明です。土壌診断や葉色板の活用、経験的な判断を組み合わせて、バランスの取れた窒素管理を行うことが求められます。

分げつの成功がもたらす稲作の未来

分げつ管理がうまくいくかどうかは、稲作の収量と品質を大きく左右します。適正な分げつ数を確保できれば、1株あたりの穂数が増え、登熟も揃いやすくなります。その結果、実入りのよい健全な稲に育ち、高品質で安定した収穫が見込めるのです。

逆に分げつが少なすぎたり多すぎたりすると、収量の減少や登熟不良を引き起こす原因になります。分げつの成否は単なる中間過程ではなく、収穫の成否を左右する「分かれ道」なのです。

分げつが多すぎる・少なすぎる場合の対処法

分げつが多すぎる場合、株が過密になり、栄養が分散してしまいます。その結果、穂が小さくなったり、登熟が不揃いになるリスクが高まります。このような場合は、中干しを早めに実施するなどして、分げつを抑制する手段を取りましょう。

反対に分げつが不足している場合は、水管理の見直しや追肥によって、追加の分げつを促すことが必要です。葉色や茎の状態を日々観察し、早期の対処で最適な分げつ数へと調整することが可能です。

最適な分げつ数とは?

分げつ数に「正解」はありませんが、一般的には最終的に**有効茎数(収穫時に穂になる茎)**が1株あたり15~20本程度になることが理想とされます。これは、収量と品質のバランスが最も良くなる目安です。

最初の分げつ数はこれよりも多く、途中で無効な分げつ(養分不足で育たない茎)が淘汰されていくのが自然な流れです。そのため、生育初期にはやや多めの分げつを目指し、中干しや水管理によって絞り込んでいくのが効果的です。

品種や栽培方法による違い

最適な分げつ数は、品種によっても異なります。多収型の品種では分げつ数が多めに必要で、逆に品質重視型の品種では無理に分げつを増やさないほうがよい場合もあります。また、直播栽培や疎植栽培では基本の株数が異なるため、それに応じて分げつの目標本数も変わってきます。

自分の圃場の特性や目的に合わせた分げつ管理が必要です。カタログ値や栽培ガイドだけでなく、現場の経験と実測データも踏まえて判断するのがよいでしょう。

分げつ数と収穫量の関係

分げつ数は収穫量に直結しますが、単純に「多ければよい」というわけではありません。有効茎数が適正でも、穂の数が過剰だと登熟が不良になったり、病害虫のリスクが高まります。

逆に少なすぎると穂の数が足りず、明らかに収量が減ってしまいます。収量アップには「茎の数・穂の大きさ・登熟の良さ」のバランスが不可欠です。分げつ管理はその基盤づくりに直結するため、ていねいな観察と的確な管理が求められます。

まとめ:分げつ管理が稲作成功のカギを握る

分げつは、稲作において「収量」と「品質」の両面を左右する極めて重要なステージです。芽出しから始まる成長の流れを正しく理解し、水や肥料の管理を計画的に行うことで、理想的な分げつ数と健全な株づくりが可能になります。分げつが多すぎれば栄養が分散し、少なすぎれば穂数が不足します。だからこそ、日々の観察と調整が欠かせません。

また、中耕除草や中干しなどの物理的な管理も効果的に活用し、不要な分げつを抑えながら、強くて太い茎を残す工夫も重要です。品種や圃場環境に応じて最適な分げつ数を見極め、適切な管理を重ねることで、安定した収穫と高品質な米づくりを実現できます。

まずは圃場の現状を観察し、今年の分げつ管理に活かせる施策を一つでも取り入れてみましょう。分げつを制する者が、稲作を制するのです。

監修者

人見 翔太 Hitomi Shota

滋賀大学教育学部環境教育課程で、環境に配慮した栽培学等を学んだ後、東京消防庁へ入庁。その後、株式会社リクルートライフスタイルで広告営業、肥料販売小売店で肥料、米穀の販売に従事。これまで1,000回以上の肥料設計の経験を活かし、滋賀県の「しがの農業経営支援アドバイザー」として各地での講師活動を行う。現在は株式会社リンクにて営農事業を統括している。生産現場に密着した、時代にあった実践的なノウハウを提供致します。

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