
「同じ品種、同じ肥料なのに、なぜ隣の畑と収量が違うのか?」「長雨の後、作物の元気がなくなった」——こうした経験はありませんか?
実は、その原因の多くが土壌の酸素不足にあります。植物は光合成で酸素を作るのに、なぜ酸素が必要なのか?不思議に思う方もいるかもしれません。
本記事では、40年以上前にジョージア大学で行われたさつまいもの画期的な研究を軸に、すべての作物に共通する「根の酸素の必要性」を分かりやすく解説します。収量が10分の1になる衝撃的なデータから、あなたの圃場で今日から実践できる対策まで、科学的根拠に基づいた情報をお届けします。
【基礎知識】植物の根はなぜ酸素を必要とするのか?
植物の二つの顔:光合成と呼吸
多くの方が誤解しているのが、「植物は光合成で酸素を作るから、酸素は不要」という考えです。しかし、これは大きな間違いです。
地上部での光合成
葉では光を使って二酸化炭素と水から糖を作り、酸素を放出します。これが私たちがよく知っている光合成です。
光 + CO₂ + H₂O → 糖 + O₂(酸素放出)
地下部での呼吸
一方、根では私たち人間と同じように、糖と酸素を使ってエネルギーを作っています。これを根の呼吸といいます。
糖 + O₂ → エネルギー + CO₂ + H₂O
つまり、地上部は酸素を作り、地下部は酸素を消費する——これが植物の基本的な仕組みです。
根が酸素を必要とする3つの理由
理由1:効率的なエネルギー生産のため
根の細胞が養分を吸収したり、成長したりするには、大量のエネルギー(ATP)が必要です。
酸素の有無でエネルギー効率は19倍違う
| 呼吸の種類 | 条件 | グルコース1分子から得られるATP |
| 好気呼吸 | 酸素あり | 38 ATP |
| 嫌気呼吸 | 酸素なし | 2 ATP |
酸素がない環境では、エネルギー効率が約19分の1に激減します。これでは、根が正常に機能するはずがありません。
理由2:養分を吸い上げる「ポンプ」を動かすため
植物が土壌から肥料成分(窒素、リン酸、カリウムなど)を吸収する際、多くの場合「能動輸送」という仕組みを使います。
これは、濃度の低い土壌から濃度の高い根の中へ、無理やり養分を取り込む方法です。水が低いところから高いところへ流れないように、これには大量のエネルギーが必要です。
酸素不足になると何が起こるか
- エネルギー不足で能動輸送ができない
- 肥料を撒いても吸収できない
- 肥料代が無駄になる
「肥料をやっているのに効かない」という悩みの多くは、実は酸素不足が原因です。
理由3:根を伸ばして広げるため
根の先端では常に細胞分裂が行われており、これにも大量のエネルギーが必要です。
酸素不足になると:
- 根の伸長が止まる
- 細根が出なくなる
- 根系全体が貧弱になる
- 結果として、養分・水分を吸える範囲が狭くなる
【衝撃の研究】さつまいもで証明された酸素不足の恐ろしさ
収量が41分の1になった実験結果
1981年、ジョージア大学のChuaとKaysによる研究は、土壌酸素濃度が作物に与える影響を数値で明確に示した画期的なものでした。
実験条件と驚くべき結果
| 項目 | 通常酸素(21%) | 低酸素(2.5%) | 差 |
| 貯蔵根数(個/株) | 6.2個 | 0.8個 | 1/8 |
| 貯蔵根重量(g/株) | 24.6g | 0.6g | 1/41 |
| 地上部重量(g) | 51.0g | 99.7g | 2倍 |
この数字が教えてくれる3つの重要な事実
事実1:酸素不足は収量を壊滅させる
貯蔵根の重量が41分の1——これは単なる生育不良ではありません。収穫する部分がほとんど作られないということです。
現場で言えば、「掘ってもイモがない」「細い根ばかり」という状態です。
事実2:養分の行き先が変わってしまう
興味深いのは、地上部の重量が逆に2倍になっている点です。これは何を意味するのでしょうか?
正常時
光合成で作った糖
↓
イモ(貯蔵根)に蓄積
↓
収穫物の肥大
酸素不足時
光合成で作った糖
↓
イモができない(貯蔵先がない)
↓
茎葉ばかり茂る
↓
「ツルボケ」状態
つまり、肥料過多だけでなく、酸素不足でもツルボケは起こるのです。
事実3:途中から改善しても間に合う(希望!)
この研究で最も重要な発見は、酸素不足の影響は可逆的(元に戻せる)という点です。
回復実験の結果
- 低酸素環境81日間 → 貯蔵根0.8個/株
- その後通常酸素28日間 → 貯蔵根8.7個/株(ほぼ正常)
これは、「途中からでも土壌環境を改善すれば収量回復が可能」という希望を示しています。
【他の作物でも同じ】酸素不足で起こる症状一覧
さつまいもで明らかになった原理は、他のすべての作物にも当てはまります。
根菜類での症状
ダイコン
- 根の肥大不良(細く短いダイコン)
- 又根・奇形根の多発
- 内部褐変(中が茶色く変色)
- 商品価値の大幅低下
ニンジン
- 極端に細い根
- 分岐根の発生
- 着色不良(色が薄い)
- サイズのバラつき
ゴボウ
- 根長の短縮
- 表皮が硬く粗い
- 収量の著しい低下
果菜類での症状
トマト
- 根腐れ病の多発
- 草勢の低下
- 尻腐れ果の増加
- 全体的な収量減
キュウリ
- つる先の萎れ
- 葉の黄化
- 着果不良
- 曲がり果の増加
ナス
- 短果・石ナスの発生
- 収穫期間の短縮
- ボケ果の増加
葉菜類での症状
ホウレンソウ
- 葉の黄化
- 生育停滞
- 立枯れ病の発生
レタス
- 玉の肥大不良
- 球内腐敗
- 軟腐病の多発
ハクサイ
- 結球不良
- 芯腐れ
- 根こぶ病の多発
水稲での症状
- 根腐れ(秋落ち)
- 硫化水素害
- 白穂の発生
- 収量・品質の低下
なぜ土壌で酸素不足が起こるのか?5つの主要原因
原因1:過剰な水分(湛水・多雨)
なぜ問題なのか
土壌の隙間が水で満たされると、空気の流入が遮断されます。
水中と空気中の酸素拡散速度の違い
- 空気中:速い
- 水中:空気中の1万分の1
つまり、土壌が水で飽和すると、酸素供給が極端に遅くなるのです。
現場での兆候
- 長雨後の生育停滞
- 圃場の低地部分だけ収量が悪い
- 排水溝周辺の作物だけが元気
対策のポイント
- 明渠・暗渠の整備
- 高畝栽培の徹底
- 降雨後の速やかな排水確認
原因2:土壌の締固め
何が起こっているのか
重機の繰り返し走行や、降雨時の作業により、土壌が締め固まると:
- 土壌粒子が詰まる
- 隙間(孔隙)が少なくなる
- ガス交換ができなくなる
- 根が伸びられなくなる
見分け方
- スコップが刺さりにくい
- 雨上がりに土が固くなる
- 耕起しても塊が残る
改善方法
- 同じ轍を通らない工夫
- 適切な含水率での作業
- 深耕による硬盤層の破壊
- 有機物の投入
原因3:有機物の過剰施用
意外な落とし穴
「有機物は土を良くする」——これ自体は正しいのですが、過剰施用は逆効果です。
未熟堆肥を入れすぎると何が起こるか
未熟堆肥の投入
↓
微生物が急激に増える
↓
微生物が大量の酸素を消費
↓
一時的な酸素欠乏
↓
嫌気発酵が始まる
↓
有害ガス(硫化水素など)発生
適正量の目安
- 完熟堆肥:1〜2t/10a
- 未熟堆肥は避ける
- 植付け1ヶ月前までに施用
原因4:粘土質土壌
物理性の問題
粘土質土壌の特徴:
- 土壌粒子が細かい
- 隙間が小さい
- 保水性が高い(乾きにくい)
- ガス交換が起こりにくい
改良方法
- 砂質資材の混和
- 深耕による物理性改善
- 緑肥作物の活用
- パーライト・バーミキュライトの投入
原因5:連作による土壌劣化
何が起こっているのか
- 土壌構造の悪化
- 微生物バランスの崩壊
- 通気性の低下
- 病原菌の増加
特に、ナス科・ウリ科など連作障害が出やすい作物では、酸素不足が症状を悪化させます。
【実践編】土壌の酸素環境を改善する方法
基本対策:栽培前の準備
1. 適切な圃場選定
チェックポイント
- 排水性の良い圃場
- 地下水位が低い場所
- 傾斜地の活用(水が溜まらない)
2. 深耕の実施
効果
- 硬盤層の破壊
- 根域の拡大
- 排水性の向上
推奨深さ
- 最低30cm以上
- 可能であれば40〜50cm
タイミング
- 栽培開始1ヶ月前
- 土壌が適度に乾いている時
3. 高畝の形成
標準的な畝の仕様
| 圃場条件 | 推奨畝高 |
| 標準的な圃場 | 30〜40cm |
| 排水不良地 | 40〜50cm |
| 砂質土壌 | 25〜30cm |
畝の形状
- 亀甲型が理想的
- 頂部が平らすぎない
- 側面の傾斜は緩やか
栽培中の管理対策
1. 排水管理の徹底
具体的施策
- 明渠の設置(圃場周囲と圃場内)
- 暗渠排水の導入(可能な場合)
- 降雨後の速やかな排水確認
- 溜まり水の迅速な排除
2. 中耕の実施
タイミング
- 活着後2〜3週間
- つる返し前
- 長雨後
効果
- 土壌表層の膨軟化
- 酸素供給の促進
- 雑草抑制
注意点
- 根を傷めない深さで
- 土壌が適度に乾いている時に
酸素供給資材の活用
土壌の物理性改善と並行して、酸素供給資材を使うことで、より確実な効果が得られます。
持続型粒剤(元肥タイプ)
代表製品
- オキソパワー5(タキイ種苗)
- ネオカルオキソ(保土谷化学)
特徴
- 3〜5ヶ月間酸素供給
- 元肥として土に混和
- 長期栽培に適している
使用場面
- トマト、ナスなどの長期栽培
- 水田裏作
- 慢性的な酸素不足圃場
速効型液剤(追肥タイプ)
代表製品
- 酸素爆誕(アサヒ農園)
- MOX・BOX
特徴
- 即効性がある
- 既存の灌水設備で施用可能
- 生育状況に応じて柔軟に対応
使用場面
- 豪雨後の緊急対応
- 梅雨期の予防的施用
- なり疲れ時の草勢回復
- 高温期の根活性維持
酸素爆誕の特徴と使い方
酸素爆誕は、2液混合型の革新的な液剤です。
独自の強み
- 即効性と持続性の両立(7〜10日間酸素供給)
- 既存設備で施用可能
- 豊富な実証データ
基本的な使い方
- 酸素爆誕1と2を各500〜1000倍に希釈
- 既存の灌水設備で施用
- 7〜10日間隔で継続
実証データ
- サツマイモ:塊根重量2倍(愛知県)
- 一本ネギ:根重量2倍(埼玉県)
- キュウリ:収量2倍(宮崎県)
【圃場タイプ別】酸素対策の重点ポイント
水田転換畑での対策
特有の課題
- 耕盤層の存在
- 極端な排水不良
- 地下水位の高さ
重点対策
- 深耕の徹底(必須)
- 心土破砕機の使用
- 耕盤層の完全破壊
- 深さ40cm以上
- 高畝栽培(40cm以上)
- 通常より高い畝を形成
- 排水の確実な確保
- 明渠の増設
- 畝間への補助明渠
- 圃場周囲の深い明渠
粘土質圃場での対策
改良の優先順位
- 物理性改良(土壌改良資材の投入)
- 深耕による構造改善
- 緑肥作物の導入
長期的改善策
- 3年計画での土づくり
- 有機物の継続的施用
- 輪作体系の確立
砂質土壌での注意点
意外な落とし穴
砂質土壌は通気性が良いイメージですが:
- 局所的な過湿が発生しやすい
- 肥料の流亡が起こりやすい
- 乾燥しすぎも問題
バランスの取れた管理
- 適度な有機物施用
- こまめな灌水管理
- マルチの活用
まとめ|土壌酸素管理で収量・品質を安定させる
重要ポイントの再確認
- 植物の根は人間と同じように酸素を必要とする(呼吸のため)
- 酸素不足は収量を壊滅させる(さつまいもで41分の1に)
- すべての作物で同様の影響が出る(根菜、果菜、葉菜、穀物)
- 途中からの改善でも効果がある(可逆性あり)
- 複合的な対策が最も効果的
今日からできる3つのアクション
アクション1:自分の圃場をチェックする
確認ポイント
- 長雨後に水が溜まる場所はないか?
- 土が固く締まっていないか?
- 圃場の一部だけ生育が悪くないか?
アクション2:排水対策を見直す
すぐできること
- 明渠の点検と掘り直し
- 溜まり水の排除
- 次作からの高畝栽培
アクション3:酸素供給資材を試してみる
まずは小規模から
- 圃場の一部で試験区を設ける
- 無処理区と比較する
- 効果を確認してから全面導入
酸素管理で実現する未来
土壌の酸素環境を改善することで:
- 収量の安定・向上
- 品質の向上(規格品率アップ)
- 病害の減少(根腐れ病など)
- 肥料効率の向上(コスト削減)
- 安定した農業経営
困ったときは専門家に相談を
土壌酸素の改善は、一朝一夕にはいきません。しかし、正しい知識と適切な対策により、確実に成果は出ます。
相談先
- 農業改良普及センター
- JA営農指導員
- 資材メーカーの技術担当
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参考文献
- Chua, L. K., & Kays, S. J. (1981). Effect of Soil Oxygen Concentration on Sweet Potato Storage Root Induction and/or Development. HortScience, 16(1), 71-73.
監修者
人見 翔太 Hitomi Shota

滋賀大学教育学部環境教育課程で、環境に配慮した栽培学等を学んだ後、東京消防庁へ入庁。その後、株式会社リクルートライフスタイルで広告営業、肥料販売小売店で肥料、米穀の販売に従事。これまで1,000回以上の肥料設計の経験を活かし、滋賀県の「しがの農業経営支援アドバイザー」として各地での講師活動を行う。現在は株式会社リンクにて営農事業を統括している。生産現場に密着した、時代にあった実践的なノウハウを提供致します。
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