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病害虫防除の基本技術と実践方法【完全ガイド2025年版】

農作物の安定生産において、病害虫防除は避けて通れない重要な技術です。近年、環境への配慮と食の安全性への関心が高まる中、化学農薬だけに頼らない総合的な防除法(IPM)が注目されています。

本記事では、病害虫防除の基本概念から具体的な実践方法まで、初心者から経験者まで役立つ情報を体系的に解説します。

効果的な農薬散布技術、環境に優しい物理的防除法、天敵昆虫を活用した生物的防除法など、多角的なアプローチによる持続可能な病害虫管理を実現するための知識とテクニックをご紹介します。

目次

病害虫防除とは?基本知識と重要性

病害虫防除とは、農作物を病気や害虫から守り、安定した収量と品質を確保するための技術体系です。

現代農業において、病害虫による被害は収量減少だけでなく、品質低下による経済損失も深刻な問題となっています。効果的な防除により、農家の経営安定と消費者への安全な農産物供給が実現できます。

病害虫防除の3つの基本手法

現代の病害虫防除は、化学的・物理的・生物的防除法の3つのアプローチを組み合わせたIPM(総合的有害生物管理)が主流です。それぞれの特徴を理解し、適切に使い分けることで、環境負荷を軽減しながら効果的な防除が可能になります。

化学的防除法(農薬使用)

農薬を使用した化学的防除は、即効性と確実性が特徴です。殺虫剤、殺菌剤、除草剤など用途に応じた薬剤を選択し、適正な希釈倍率と散布量で使用します。薬剤耐性の発生や環境への影響を考慮し、必要最小限の使用に留め、ローテーション散布により耐性菌・耐性虫の発生を予防することが重要です。また、予防と駆除では効力のある薬剤の種類が異なる場合があるので、目的に適した農薬を選択することが大切です。(マーカー)

物理的防除法(防虫ネット・粘着トラップ等)

防虫ネットや粘着トラップを活用した物理的防除は、環境に優しく持続可能な防除法です。防虫ネットは害虫の侵入を物理的に遮断し、黄色粘着板はアブラムシ類、青色粘着板はアザミウマ類の捕獲に効果的です。設置位置と交換時期を適切に管理することが成功の鍵となります。

生物的防除法(天敵昆虫・微生物農薬)

天敵昆虫や微生物を活用した生物的防除は、生態系のバランスを活かした持続可能な防除法です。カブリダニによるハダニ防除、アブラバチによるアブラムシ対策など、天敵の特性を理解した活用が重要です。BT菌などの微生物農薬は、環境負荷が少なく有機栽培でも使用可能な優れた防除資材です。

効果的な防除のための基本原則

発生予察と防除適期の判断

病害虫の発生を事前に予測し、最適な防除タイミングを判断することは、効果的な防除の基盤となります。気象データの活用、見取り調査による発生状況の把握、フェロモントラップによるモニタリングなどを組み合わせ、科学的根拠に基づいた発生予察を行います。防除適期を逃さないことで、少ない薬剤使用量でも高い効果を得ることが可能です。

複数手法の組み合わせ(IPM)

IPM(総合的有害生物管理)は、化学的・物理的・生物的防除法を有機的に組み合わせた防除体系です。防虫ネットで物理的に害虫を遮断しながら、天敵昆虫を温存し、必要に応じて選択性の高い農薬を使用する方法により、環境負荷を最小限に抑えながら持続可能で効果的な病害虫防除が実現できます。

農薬を使った化学的防除の実践テクニック

効果的な散布技術とコツ

散布器具の選び方と使い分け

ブームスプレーヤーは広範囲の散布に適し、均一な散布が可能です。スピードスプレーヤーは果樹や高い作物に効果的で、歩行散布により細かな調整ができます。静電噴口は薬液の付着性を向上させ、葉の裏面への到達率を高めます。作物の種類、栽培形態、対象病害虫に応じて最適な器具を選択しましょう。

ムラのない散布方法と注意点

散布ムラは防除効果を大幅に低下させます。風向きと風速を確認し、無風または微風時に散布を行い、散布スピードを一定に保ちます。薬液は使用直前に調製し、散布中は常に攪拌を続けて成分の沈殿を防ぎます。葉の裏面にも薬液が届くよう、散布角度と圧力を調整することが重要です。

農薬の適正使用と安全対策

薬剤選択と希釈倍率の決め方

対象となる病害虫の種類、作物の生育段階、気象条件を総合的に判断して薬剤を選択します。希釈倍率は製品ラベルに記載された基準を厳守し、濃度計算は正確に行います。散布量は10a当たりの標準量を基準とし、作物の葉面積や栽培密度に応じて調整を行います。

薬剤耐性対策とローテーション散布

同一薬剤の連続使用は、病原菌や害虫の薬剤耐性を促進します。作用機構の異なる薬剤を計画的にローテーションすることで、耐性の発生を予防できます。FRAC・IRACのガイドラインを参考に、系統の異なる薬剤を組み合わせた防除体系を構築し、非化学的防除法との併用により総合的な耐性対策を実施しましょう。

物理的防除法による環境に優しい害虫対策

防虫資材の活用方法

防虫ネットと被覆資材の使い分け

防虫ネットの目合いサイズは対象害虫に応じて選択します。アブラムシには1mm目合い、アザミウマには0.6mm目合いが効果的です。べたがけは直接作物を覆い保温効果も期待できますが、受粉昆虫の活動を阻害する場合があります。トンネル被覆は支柱を使用して空間を確保し、作物の生育を妨げません。

粘着トラップの効果的な設置法

黄色粘着板はアブラムシ類、青色粘着板はアザミウマ類の誘引捕殺に効果的です。設置高さは作物の葉面から10-20cm上が最適で、10a当たり20-30枚を目安に等間隔で配置します。粘着面が汚れると効果が低下するため、定期的な交換が必要です。

光・熱を利用した防除技術

LED防除と太陽熱処理の実践

青色LEDは多くの害虫に忌避効果を示し、特にアザミウマ類の行動抑制に効果的です。防蛾灯は鱗翅目害虫の成虫誘殺に効果があり、黄色蛍光灯を使用します。太陽熱処理は、透明フィルムで土壌を被覆し、太陽エネルギーで地温を上昇させて土壌病害虫を死滅させる技術です。40℃以上の地温を2週間以上維持することが効果的です。

天敵昆虫を活用した生物的防除

天敵昆虫の種類と活用法

主要な天敵昆虫の特徴と効果

カブリダニ類はハダニの重要な天敵で、チリカブリダニやミヤコカブリダニが商品化されています。アブラバチ類はアブラムシに寄生し、コレマンアブラバチやギフアブラバチが利用されています。スワルスキーカブリダニはアザミウマやコナジラミの幼虫を捕食し、施設栽培で高い効果を発揮します。

土着天敵の保護と増殖方法

ソルゴーや障壁作物を栽培することで、天敵昆虫の生息場所と代替餌を提供できます。マリーゴールドなどの景観植物は天敵の蜜源となり個体数維持に貢献します。混植・混作により植物の多様性を高め、天敵昆虫の生息環境を改善します。農薬散布時は天敵に影響の少ない選択性薬剤を使用することが重要です。

手作り防除資材と自然農薬

木酢液・米ぬか等を使った防除法

木酢液は希釈倍率300-500倍で病害虫忌避効果を発揮します。米ぬか発酵液は米ぬかを水に浸漬・発酵させて作成し、乳酸菌の力で病原菌を抑制します。光合成細菌液は田んぼの泥から採取・培養した細菌を活用し、土壌改良と病害抑制効果を併せ持ちます。これらの資材は環境負荷が少なく有機栽培でも安心して使用できます。

主要な病害虫の種類別対策

重要病害の見分け方と防除法

カビ病害(うどんこ病・べと病・灰色かび病等)

うどんこ病は葉面に白い粉状のカビが発生し、光合成を阻害します。べと病は湿度が高い条件で発生し、葉の裏面に灰白色のカビを形成します。灰色かび病は枯死組織から感染が始まり、灰色のカビに覆われます。これらのカビ病害には予防散布が効果的で、風通しを良くし、適切な株間確保と湿度管理を徹底することが重要です。

細菌・ウイルス病害の対策

青枯病は土壌中の細菌による維管束病害で、急激な萎凋症状を示します。抵抗性品種の利用と土壌消毒が基本対策です。軟腐病は傷口から細菌が侵入し、組織を軟化させるため、収穫・調製時の傷つけ防止と衛生管理が重要です。ウイルス病害は媒介昆虫の防除が最重要で、感染株の早期除去により二次感染を防ぎます。

主要害虫の生態と防除対策

アブラムシ・アザミウマ・コナジラミ類

アブラムシ類はウイルス病を媒介する重要害虫で、シルバーマルチによる忌避、黄色粘着板による捕殺、天敵昆虫の活用が効果的です。アザミウマ類は微小で葉肉を吸汁し、青色粘着板での捕殺と防虫ネットによる侵入阻止が基本対策です。コナジラミ類は黄色粘着板とスワルスキーカブリダニの導入が効果的です。

イモムシ・ケムシ類の効果的防除

鱗翅目害虫の幼虫は葉を食害し、果実に穴を開けます。フェロモントラップによる成虫の発生予察を行い、産卵最盛期から若齢幼虫期に防除を実施します。BT菌は環境に優しい微生物農薬として効果的で、IGR剤は幼虫の脱皮を阻害し残効性に優れます。防虫ネットによる成虫の侵入阻止も併用しましょう。

季節別の病害虫防除管理

春夏の防除重点ポイント

育苗期から栽培初期の管理

育苗期は病害虫に対する抵抗性が低く危険な時期です。種子消毒により種子伝染性病害を予防し、培土は新鮮なものを使用します。育苗施設への害虫侵入を防ぐため防虫ネットを設置し、定植時は健全苗のみを選別します。定植後は活着促進のため適切な灌水と遮光を行い、ストレスによる病害虫感受性の高まりを防ぎます。

高温期の病害虫多発対策

夏季の高温多湿条件は多くの病害虫にとって好適な環境となります。灰色かび病やべと病などの湿度を好む病害には、換気扇や循環扇による空気流動で湿度を下げます。アブラムシやアザミウマなどの害虫は世代期間が短縮され爆発的に増殖するため、発生初期の徹底防除が重要です。

秋冬の予防・準備対策

収穫期の注意点と次作準備

収穫前日数を考慮した薬剤選択により、残留農薬基準を遵守します。灰色かび病などの貯蔵病害を防ぐため、傷つけない収穫と適切な予冷・貯蔵管理を行います。収穫後は速やかに残渣を圃場から除去し、病害虫の越冬場所を断ちます。土壌診断を実施し、次作に向けた土壌改良と基肥設計を行います。

越冬病害虫の密度低減

施設内の清掃・消毒を徹底し、越冬場所となる枯葉や雑草を除去します。土壌表面の耕起により、土中で越冬する害虫を物理的に駆除し、天敵による捕食を促進します。防虫ネットや被覆資材の点検・修理を行い、来季の使用に備えます。近隣農家との情報交換により、地域全体での協調した対策を実施することが効果的です。

病害虫防除の効果測定と改善

防除効果の評価方法

被害調査と防除価の計算

被害調査は無処理区と処理区を設定し、一定面積内の発病株率や虫害株率を調査します。防除価は(無処理区の被害度-処理区の被害度)÷無処理区の被害度×100で算出され、80%以上で実用的効果ありと判定されます。被害度は0-4の5段階で評価し、統一基準で調査することが重要です。

記録管理と次年度への活用

防除履歴の詳細な記録は、効果的な防除体系構築の基礎資料となります。使用薬剤名、希釈倍率、散布量、散布日時、気象条件、防除効果を記録し、データベース化します。気象データとの相関分析により発生予察精度を向上させ、コスト分析により防除効果と経済性を総合評価し、最適な防除体系を選択します。

よくある失敗例と対処法

初心者が陥りやすい防除ミス

最も多い失敗は薬剤の過剰散布による薬害の発生です。規定濃度以上に希釈したり、短期間に重複散布することで作物にダメージを与えてしまいます。防除タイミングの誤りも重要な問題で、病害虫の発生ピーク後に散布しても効果は期待できません。天候条件を無視した散布も危険で、強風時や降雨前の散布は効果がないばかりか環境汚染の原因となります。

効果が出ない時の原因と解決策

防除効果が不十分な場合、まず薬剤耐性の発生を疑います。同一系統の薬剤を連続使用している場合は、作用機構の異なる薬剤への変更が必要です。散布ムラによる効果のばらつきも頻繁に見られる問題で、散布器具の点検と散布技術の見直しが重要です。複合要因による被害拡大では、IPMの考え方に基づいた総合的なアプローチが必要です。

まとめ

病害虫防除は現代農業における重要な技術であり、化学的・物理的・生物的防除法を組み合わせたIPMアプローチが効果的です。適切な発生予察に基づく防除適期の判断、環境に配慮した防除資材の活用、薬剤耐性対策としてのローテーション散布など、科学的根拠に基づいた総合的な管理が重要となります。

成功する病害虫防除のポイントは、病害虫の生態を理解し、予防を重視した計画的な取り組みを行うことです。天敵昆虫の保護・活用、手作り防除資材の利用、季節に応じた適切な管理により、環境負荷を軽減しながら持続可能な農業生産を実現できます。

また、防除効果の客観的評価と記録管理により、継続的な改善を図ることで、より効率的で経済的な防除体系の構築が可能になります。よくある失敗例を理解し、適切な対処法を身につけることで、安定した農業経営と安全な農産物の生産を実現しましょう。